本人も本人、朝日も朝日
2014年4月5日
NHKの籾井会長に対して、朝日新聞と毎日新聞などが厳しい批判を続けています。視聴者からも2万件以上の批判が寄せられているそうです。そうした中、新年度予算案が国会で3月末に承認され、進退問題はしばらく下火になりましょう。ひと山、越したものの、いずれまた問題を起すような気がしてなりません。
わたしのブログでは、「NHK会長の失言」(1月26日)、「任命した側に責任」(2月19日)など計3回、この問題を取り上げました。わたしの認識はその後も変わりません。その後の経緯を見ていますと、やはりこの方はNHK会長の適任者ではないのに選ばれてしまった、そのため厳しい批判ばかり浴びせられる、それではあんまりだ、という気になってきました。そこで今回は、進退論ではなく、それを論じるメディア側の姿勢を考えてみることにしました。
まずNHKそのものです。入局式で籾井会長が「たった1人の行為が信頼のすべてを崩壊させることもあります。自らの行為の影響や責任の重さが昨日までと違うことをしっかり自覚していただきたい」と、述べたそうです。朝日は社説の一行目にこの発言を引用し、「それを問われてきたのは会長自身である」と書きました。
わたしは、はじめ、ご自分の自省をこめての発言かと思いました。新人ジャーナリスト、職員向けの言葉だったのですね。信じられません。新任の会長、それも注目を集めるであろう入局式の挨拶ともなれば、常識でなら、本人は予定稿を書き、事務局の補佐役が事前に目を通すというプロセスを経るはずです。それを本人および事務局はしなかったのでしょうか。本人がそれは不要だといったのか、事務局も見放したのかどうか。どうみても基本がなっていません。
NHK会長職は適任者をみつけるのが極めて難しいポストになっています。巨大な組織の効率的運営、デジタル化が進む情報産業としての課題、受信料を公正に生かす経営感覚、もみくちゃにされかねない国会対策に加え、予想もつかない出来事が次々に起きる中で報道に筋を通していく、つまりジャーナリズムへの高い見識などを備えていなければなりません。このうちのいくつかに絞れば対応できる人はいるでしょう。その場合も、何を自分の任務に絞るかの判断力は求められますね。
籾井氏はその条件の多くを欠いています。そうなると、もう本人の問題というより、任命権者の判断の間違いです。わたしはそう考えるので、本人は何かの犠牲者であり、メディアによる籾井バッシングに同情を覚えてしまいます。
特に新聞メディアは、NHKだから批判、攻撃しやすい、といういつもの癖にはまっていないでしょうか。みずからのグループにテレビ局があるのに、そのことを棚上げにして、NHKを論じてはいないでしょうか。
そもそも、NHKの重大問題のひとつは、政界とNHK主流派の癒着というか、親密な関係に原因があります。NHKの予算案は国会が承認するため、執行部は政界と太いパイプを持とうとします。政界、というより与党はNHKという巨大メディアを自分たちに有利なようにひきつけておこうとします。太いパイプを持った政治部記者が組織の中で出世し、会長にまでなった人も複数、おります。今回も籾井氏の補佐役である副会長は政治部長経験者です。
政界と報道機関の関係には根深い問題があります。日本の政治ジャーナリズムにかなり共通しています。新聞の政治記事の多くは、政治部記者と政界との親密な関係によって、成り立っており、客観性、中立性が保たれているのかという問題提起は以前からなされております。朝日も毎日にも同じような体質があるでしょう。きついNHK批判をするなら、この問題をどう考えるか、教えてほしいですね。
NHKの報道姿勢について、籾井会長が国会で「放送法に基づいてやっていく」と、メモを棒読みにするような答弁を繰り返すばかりだったと、朝日の社説は主張します。わたしも同感です。問題は、NHKを厳しく追及する以上の厳しさで、身内のテレビ局にも注文をつけているのか、です。新聞資本が入り、新聞社の意向を強く反映するテレビ局は少なくありませんからね。
NHKも民間放送局も、経営収入の基盤が受信料収入かCM収入かという違いはあっても、電波という公共物を割り当ててもらっている点は同じです。そのため、放送法の適用を受け、番組の公益性、中立性、公正さを求められています。NHK批判に熱心な新聞社は、系列のテレビ局に対しても、同じ厳しさで臨んでいるのでしょうか。
ある民放の報道ステーション番組が、フクシマ原発事故による放射線被害を取り上げ、小児の甲状腺ガンの発生が深刻になっているとの報告を伝えていました。それが事実なら大変なことだと思っていましたら、つい最近、国連科学委員会が「大人のガンの増加は予想してない。子供の甲状腺ガンについては、データが足りないため、判断を見送る」との報告書を発表したとの記事が、同じグループの新聞にも掲載されました。この番組のキャスターは、問題を単純化し、視聴者を不安がらせるか、怒らせるか、の名人です。テレビと新聞報道の整合性はどうなっているのですか。
また、NHKの番組がバラエティー化、ショー化する傾向が強まっています。わたしも懸念しています。先月下旬、国会審議で「NHKの番組の低俗化」が問題にされました。民放は大丈夫なのですか。公共性の高い電波を公益性が高いといえるの目的のために使っていますか。
朝日は社説で「健全な民主主義の発達と明記された放送法の目的に照らし、視聴者に多角的な視点や情報を提供することだ」と、以前、書きました。NHKばかりでなく、少なくとも系列のテレビ局にも同じような要求をしていますか。
NHK批判を、わが身の教訓にしていくことも大切です。
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