マネーが世界の覇権を握る
2014年4月9日
黒田総裁が始めた日銀の異次元緩和から丸1年、経ちました。金融政策の歴史的変革です。評価する声、危うさを指摘する声に分断されています。わたしたちの生活にも直結する問題です。日本に限らず、主要国で金融政策、金融市場で激変がおきています。これを大局的に眺めると、経済、大きくいうと世界は、金融というかマネーが覇権(圧倒的な力)を握る時代に入ったといえるのではないでしょうか。
覇権論は国際政治の概念で、ヘゲモニーともいいます。強力な軍事力、政治力、外交力、経済力を背景に、ある1国が圧倒的な権力を持ち、世界で不動の地位を得る状態を指します。古くはローマ、近くはブリタニカ(イギリス)、アメリカが帝国として世界に君臨しました。そのアメリカの1極支配ともいわれた覇権が後退し、国際情勢が混迷にはまっています。
アメリカに代わる覇権国家は当分、出てこないでしょう。国単位で覇権を考える時代から、別の次元で覇権を考えなければならない時代に変わりつつような気がしてなりません。
何が覇権を握りはじめているのか。それはマネー、金融です。世界はマネー覇権という怪獣に振り回されております。わたしは政治学者でも経済学者でもないので、ぜひ、専門家の方々がこの仮説を検証してみてください。経済のグローバリゼーションが進み、世界はマネー経済の時代に入っています。マネー経済の時代という言葉で片づけるほど、甘くはなく、巨大なマネーが覇権を握り、経済はおろか世界政治も動かす存在にのしあがったのです。
異次元緩和1年を向かえ、新聞各社が載せた社説を見てみましょう。朝日新聞は「自縄自縛の危うさ」と題して、部分的に経済、景気に好転した指標がみられるとしながらも、「追加緩和を求める市場の催促に迎合すべきではない。日銀が巨額の国債を抱え込み、放漫財政を助長する。金融政策を正常化する局面になっても、緩和の縮小(出口)に踏み出せなくなる」と、鋭く日銀に注文をつけています。毎日新聞は「中長期の視点を忘れるな」という見出しで「金融と財政が混然一体となったデフレ脱却政策は、財政破綻のリスクを膨らませる。アベノミクスは金融と財政の”上げ底ミックス”に過ぎない」と、これまた手厳しい指摘です。アメリカに続く日本の歴史的大実験に潜む恐ろしさに気がついているのでしょう。
読売は日銀短観に関連した社説で「消費増税ショックをどう乗り越えるかだ。大胆な金融緩和、機動的な財政政策、成長戦略の効果を最大限に発揮すべきだ。デフレ脱却の道のりは険しい。追加金融緩和の必要性を検討すべきだ」としています。政府、日銀の主張に沿っており、当面する課題の克服に焦点をあわせており、異次元緩和が将来、どういう意味を持つことになるのか、という重大な視点に関心を払っていません。
経済は人間の予想、想像を超えた動きをしますので、デフレ脱却に向けた異次元緩和が成功するのか、成功するとしても多大な副作用をともなうのか、副作用のほうが大きい、つまり失敗に終わるのか、分りません。はっきりしてきたのは、経済政策の主役であった財政の地位が後退し、金融政策が主役になり、財政も金融政策に服従するという変化です。比ゆ的にいうと、麻生副総理・財相より、黒田総裁のほうが胸を張っており、安倍首相と並ぶ、いわば黒田皇帝という扱いですね。
実体経済においても、主役の座がモノ作りから金融、マネーに交代したという変化です。国が金融危機に陥った際も、中央銀行が主導権を握りますね。国際政治の次元においても、国際金融、通貨会議のウエイトが格段に増しています。ウクライナ騒動でも、対ロシア制裁では、経済、それも金融関係の口座凍結に重点がおかれ、欧米による軍事力の行使などはまったく想定されていません。
日本に先立ち、リーマンショック(08年)後に大胆な金融緩和をして危機を乗り切ったとされる米国では、超緩和から正常化を目指していく「出口戦略」がいかに難しいかという局面を迎えています。世界はマネーが不足しているどころか、過剰であり、あまりにも巨大な市場を形成しているため、ちょっとした金融政策の変更にも細心の注意が必要になっています。豪雪のあと、何かのきっかけで雪崩現象がおきるのと似ています。
それでもアメリカは成長余力がありますから、金融政策の操縦を誤らなければ、正常化の道に戻れるでしょう。日本のように、製造業の海外移転、少子化、財政の極度の悪化が進み、成長余力が乏しい国は、金融をいったん、超緩和をしてしまうと、もう元に戻れない恐れがあります。日本の財政赤字は先進国では最悪の状態です。異次元緩和では、新規に発行される国債の7割に相当する金額を日銀が毎月、購入を続け、現在の国債保有高は200兆円近くになります。日銀が国債を買わないと、財政がまわらないという状態を作ってしまいました。
いろいろな試算があります。世界をめぐるマネーは300兆ドル(年間の通貨取引高)、為替市場の1日の取引高は1・5兆ドルで、OECD(先進国グループ)のGDP総計の20倍(1日あたり)とか。世界で動いているマネーの95%は、実体経済の取引に対応していないという指摘を読んだことがあります。マネーがいかに巨大な存在となり、バブル化しては乱高下を繰り返し、実体経済を痛めつけるか。とくにこの2,30年は、そういう繰り返しですね。
世界的にマネーは供給過剰であり、緩和するより、縮小していかないと、マネー覇権をさらに巨大化させてしまう、とわたしは思っています。マネーの供給を削減しようとすると、市場が反乱を起すという形で、抵抗を受けるのです。軍事力がアメリカの覇権を支えていた時代に、軍事費の削減が難しかったのと似ていないでしょうか。
先進国で超低利で調達したマネーで、中国の高利の金融商品(たとえば理財商品)を買い、荒稼ぎしてきた金融機関、投資家がいます。そのため、中国経済が減速し、陰りがでてくると、その影響は世界的な広がりをもってしまうのです。中国もマネー覇権の影響下に置かれています。
日銀はマネー市場が妙な動きをしないように、市場との対話を重視するといっています。金融政策について、市場関係者に丁寧な説明に務めています。その一方で、サプライズによって市場にショックを与えるとも考えています。1年前の異次元緩和もサプライズでした。サプライズは何度も使えません。市場との対話と、市場の裏をかいてサプライズを与えることは、本来、矛盾しているのです。
強気で自信満々の黒田総裁を「黒田一本槍」と呼ぶそうです。マネー覇権はマネーそのもの、金融機関、投資家、中央銀行などで構成されます。覇権の内部でも、中央銀行対民間などの対立があります。黒田総裁はそうした対立と一本槍でどう戦うのか、戦略を練っておかねばなりません。
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