新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ

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的をはずした災害報道

2014年08月26日 | 社会

 CO2抑制への取り組みを

                   2014年8月26日

 

 広島の土砂災害の報道で連日、新聞の紙面、テレビのニュース番組が埋まっています。災害にあわれた方々の悲惨なニュースには、本当に同情します。その一方でメディア、特に新聞はテレビを見れば分るような表面的な問題のフォローにばかり力が入り、地球全体を襲う異常気象と、温暖化およびCO2削減の関係という最も基本的な構造危機にあまりにも触れていないのです。

 

 大々的な報道が始まったのは8月23日で、「不明47人、救助阻む雨」、「早めに避難をと、専門家」、などの記事であふれかえりました。24日は「捜索、二次災害を警戒」、「つながらぬ母の携帯」など、25日は「死者50人、不明38人」、「避難所生活つらい、被災者ケア急務」など、26日は「八木地区、最大規模の土石流」、「局地災害、後手の法整備」などです。何日も同じようなトーンの記事が続くと、もっと本質的な課題に触れて欲しくなります。それが遅いのですね。

 

 安倍首相は25日、避難所を訪れ、被災者の声を聞きました。その時の読売3面の記事が気になりました。記事の前文で「局地的な大雨や土砂災害への対応が後手に回ってきた」と指摘しながら、本文では「首相は視察後、激甚災害の指定や、被災者支援チームの設置などを矢継ぎ早に発表した」と書きました。対策が遅れていたといいながら、まるで首相をほめるような「矢継ぎ早の発表」はないでしょう。これは権力者へのゴマすりです。

 

 もうひとつ気になった動きがありました。災害発生当時、首相が夏休みの休暇中で、官邸からの連絡で東京に引き返したものの、一時間、ゴルフをやったとか、また別荘に引き返したとか、これは危機管理意識がたりない証拠ではないかとか、野党が騒いだり、記事になったり、論評されたりしました。これはどうでもいい些事ですね。どうも些事ほどわかりやすい話はないので、ついついかみつきたくなるのでしょう。

 

 首相が考えるべきことは、もっと基本的はことです。被災地を訪問して、担当閣僚か局長レベルで済む話を、わざわざ「指示」したり、「発表」したりする必要はないのです。被災地の訪問は、悲惨な状態を自分の眼で確かめることですから、その意味は否定しません。官邸に戻ったなら、対症療法ではない基本的な対策を今後、どうするかを考えねばなりません。

 

 自然災害の専門家は、一歩、距離を置いて、今回の災害を見つめています。読売の23日の特集で「土砂災害の起きるような場所に、家がたくさん張り付いていた。都市部の住宅密集地が山の近くまで広がっていた」、「気候変動の影響もあって、局所的、集中的に豪雨になる。都市部も無縁ではない。地下街、地下鉄は冠水する危険がある」、「異常気象のもとでは、いままで数百年、住んできたところも危険になった。都市計画のありかたを変えるべきだ」など、耳を傾けたくなる指摘を3人の教授が語っています。

 

 「異常気象」の話がでてくれば、「地球温暖化とCO2排出抑制」について考えなければなりません。朝日新聞の社説は「猛烈な雨は増加傾向にある。温暖化の影響が疑われる」と、ここまでは指摘しました。産経は「局地的な豪雨による災害が相次いでいる。地球温暖化やヒートアイランド現象の影響がありうる」と主張しました。読売は「生かされなかった過去の教訓」(21日)、「安否確認と被災者支援を急げ」(26日)と、2回も社説を書きながら、温暖化の問題にすら触れおらず、わざわざ社説で取り上げる必要があるのかなと思うことばかりです。

 

 朝日は温暖化抑止に深入りすると、全基が停止中の原発の稼動に触れざるを得なくなるので、逃げたのかもしれません。読売は社論では「再稼動を急げ」なのに、どうしたことでしょうか。日本は原発の穴埋めを石炭、石油火力でしており、CO2の排出量は増え続けています。原発が部分的に再稼動しても、この勢いは止まらないでしょう。日本の国際公約は後退するばかりで、打つ手はないといった状況です。安倍政権にとっては、不都合な自然災害の多発です。だからといって本質的な問題を素通りしてはいけません。

 

 自然災害というより、人類の無作為による必然的結果が問われているのです。国立環境研究所は「極端な高温、大雨が長期的に増加している。平均気温があがり、水蒸気が増え、大雨の頻度が増えている」と指摘しています。国連の温暖化対策の交渉では「産業革命以前の基準で、2℃以内の上昇に抑える」ことを目標にしています。世界気象機関は「地球を守ろうとするなら、もう時間はなく、CO2抑制のために、緊急の行動が必要だ」と警告しています。悲惨な災害を目の前にして、もっと本質的な危機に眼を向けるべきでしょう。報道機関は特にそうです。

 

 



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