新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ

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日本郵政顧問の解任騒動の裏

2014年03月09日 | 政治

  郵政利権の確保が背景か

                    2014年3月9日

 

  日本郵政の顧問だった坂篤郎氏(財務省OB)が辞表を出し、退任しました。事実上の解任です。坂氏は自民党政権が復帰する直前の12年12月に日本郵政の社長就任が決まり、自民党政権が激怒し、社長を13年6月に解任してしまったいわくつきの経緯があります。官僚を排除してきた民主党政権ならともかく、自民党政権になってもこんなことに執念を燃やしているのは裏がありそうですね。

 

 通常なら、株式会社の顧問の辞任、解任は些細なできごとです。新聞記事になるにしても、べた記事(一段見出し)程度でしょう。今回は、菅官房長官が記者会見で坂氏を批判し、国会の委員会での質疑で質問に自ら答えました。本来なら重大案件に忙殺されているはずの官房長官が、わざわざ登場するような問題ではないはずです。どうしたことでしょうか。

 

 政界、政治メディアは安倍人気を軸に動き、安倍人気の舞台裏は菅官房長官がそつなく仕切っています。政治メディアの多くは菅氏の機嫌を損ねないよう終始、気を使っていますから、核心に迫る記事にはなかなかお目にかかりません。最近の政治ジャーナリズムにもどかしを感じます。「財務省OBだから当然の措置だよ」とは、異なる次元の話がありそうですね。

 

 菅官房長官の行動を分析する前に、わたしもいろいろな問題点は感じてはいますので、それに触れましょう。まず日本郵政です。西室社長が3月7日に記者会見して、「郵政グループ全体で24人の顧問がおり、年間報酬として2・3億円を支払う契約になっている。坂氏を含め24人は3月末までに一斉に退任する」と発表しました。翌日の新聞記事には簡単な情報しか載っておりません。

 

 そこで日本郵政のホームページを開き、社長会見の詳細を知ろうとしました。 9日時点で、社長会見の一問一答は何も載っておりません。2月26日をもって更新は終わっています。7日のやりとりは日本郵政にとっては一大事であるはずなのにね。おそらく金曜日の記者会見ではあり、土、日に出勤してまでして会見内容を書き、ネットにアップしようとする気がまったくないのでしょう。24人という顧問数も明らかに多く、そのことの釈明も知りたいのにね。タイミングを失したネット情報は無用です。情報が勝負の時代になったというのに、感度が鈍いのです。 

 わたしが関係者から直接聞いた話では、西室社長が「坂氏には、自分が直接、顧問就任を依頼した」と、語ったそうです。坂氏は社長更迭後も顧問に居座っているのはおかしいという印象を世間に持たれています。西室社長のこの発言は重要です。坂氏は副社長も経験し、郵政業務に精通していますから、「後任社長から依頼されたことだし、役にたてれば」と考え、引き受けたそうです。多少は坂氏の名誉回復につながる話です。

 

 次は日本郵政の監督官庁の総務省です。日本郵政が公表していなくても、顧問のリストを当然、知っているはずだし、日本郵政がそれを総務省に提出していなけば提出するよう要求できるはずです。菅長官が騒ぎだして、総務省は「報告を受けていない」との態度をとりました。これは責任逃れですね。職務怠慢です。

 

 肝心の話に入りましょう。2代続けて、財務省出身者が社長に就任したことは、やはりどうかなと思う点があります。それ以上に問題があると感じるのは、郵政人事に対する菅官房長官の異常な執念はどこからきているだろうかという点です。ここが重要です。社長就任問題はともかく、顧問解任という程度の話は、本来なら総務相レベルの話で、総務相が公表すればいいのです。

 

 坂氏は橋本竜太郎首相の秘書官、第一次安倍内閣の官房副長官補を務めました。自民党ともパイプが深く、安倍首相とも近いといわれてきました。二代続けて財務省OBが郵政社長に就任することに批判が強まっても、安倍氏に仕えた経歴からみて、結局は留任するだろうとわたしは思っていました。菅氏は水面下で根回しし、政府主導で坂氏を社長ばかりか顧問退任にまで追い込みました。

 

 この騒動の本質的問題は、郵政の政治利権にあるという解説をある関係者から聞かされ、なるほどと思いました。郵政は特定郵便局を含め、巨大な集票組織であり、政治献金のマシーンでもあります。

 

 斉藤次郎氏(元財務次官)が郵政社長に就任したのは、当時、実力者であった亀井静香氏(旧国民新党)と親しく、亀井氏は郵政族のボスだったことが背景にあるのでしょう。坂氏はその斉藤氏の子飼いです。坂氏は斉藤氏に招かれて副社長となり、その後、郵政を仕切り、影の実力者となりました。社長に就任後は政治利権がらみの抗争から、菅氏とも対立する関係になりました。

 

 顧問就任から何ヶ月もたった今頃になってなぜ、という疑問が沸きます。渡辺喜美・みんなの党代表がどこからか聞きつけて、菅氏に耳打ちしたと伝わっています。国会の委員会では、わざわざ同党の議員が質問し、菅氏が「顧問の問題は、会社の経営姿勢として、国民から今の状況では理解されない」というような答弁をひきだしました。

 

 株式のずべてを政府が保有しているにせよ、いずれ上場する企業の顧問人事にまで直接かかわるような政治介入をするようなゆとりは、本来なら、ないはずですよ。官邸が直接、選んだNHK会長の失言問題では、同情あふれる受け答えをしているのと比べ、あまりに落差がおおきいのは、やはり裏があるのですね。

 



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