新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ

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ミツバチ大量死は何を警告しているか

2014年06月22日 | 社会

 21世紀の「沈黙の春」

                    2014年6月23日

 

 アメリカの作家、レイチェル・カールソンは1962年に「沈黙の春」を出版して、現代の科学技術文明を強烈に批判しました。化学薬品は、核の脅威である放射能にもまさる禍いをもたらすと警告しました。あれから50年たち、化学物質の危険性は減るどころか、農薬、医薬、食品添加物、化粧品、洗剤、防虫剤、芳香剤、さらに建材、容器、包装にいたるまで、あちこちで化学物質はあふれ返り、姿を変えて潜んでいる製品、商品の名前を並べると、もう息苦しくなります。

 

 わたしの親しい友人の元朝日新聞記者、岡田幹治氏が「沈黙の春」の現代版を書く意気込みで、「ミツバチ大量死は警告する」(集英社新書)を最近、出版しました。会合があると、本を持参しては手渡し、現代文明の歪んだありかたは、生態系、人体、特に子どもたちに深刻な影響、健康、精神的被害をもたらしていると、叫び続けております。環境化学物質を告発するいわば、現代の宣教師でしょうか。

 

 朝日新聞は組織となると、社会に間違った警鐘を鳴らすことが多いのに対し、個人としての記者には、よく勉強し、研究し、鋭い問題提起をする人が少なくないと、わたしは思っています。岡田氏は、そのひとりで、問題意識の塊りでもあります。今回のブログでは、この本をもとに、わたしなりに学んだ点を紹介することにしました。

 

 まず、わたしの体験から。自宅から駅にいく途中に、愛用しているクリーニング店があります。ワイシャツ一枚150円、そのうえ「ヒノキの香りがする仕上げ」となっていますので、しばしば洗濯物を頼みにいきます。この本を読むと、「香料が多用され、化粧品、香水、整髪料、シャンプー、おむつにまで使われている。目立つのが強い香りが長持ちすることを狙った衣料用の高残香性柔軟剤だ」とあります。

 

 仕上がったシャツは、まさか本物のヒノキではないにせよ、確かにヒノキの香りがプーンとしてきて、汗のにおいを消すには、なかなかいいなと思っていました。それに対し、岡田氏は本で「香りは多種類の化学物質を組み合わせた人工香料でつくられている。化学物質過敏症の患者の80%以上が香料によって発症が促される」と書いているではありませんか。そんなこと、知りませんでしたね。こわいことです。

 

 もうひとつ。わたしはガーデニングが趣味で、花や野菜を育てています。ムシの被害には憤慨しており、お向かいのバラ愛好家の方に「バラが被害にあって困っています」と相談しましたら、「根元にオルトランをまくといいですよ」とアドバイスを受けました。さっそく試したところ、アリやアブラムシがやってこなくなり、これはという花類にも、使っております。

 

 「これはいいムシ除けになる」と思っていましたら、この本に「アセフェート(商品名オルトラン)は畑作、果樹、家庭園芸に使われ、出荷量が指折りの殺虫剤。この農薬は中国製冷凍ギョーザによる中毒事件で毒性が注目されるようになった。これは作物内でメタミドホスに変わり残留する」と、指摘しています。これも知りませんでした。効果ばかりを喜んでいましたら、高い対価を支払っている、自分の健康を蝕んでいるということなのですね。 

 

 本題の「ミツバチ大量死」に戻りましょう。岡田氏は、09年にイチゴやメロンの受粉用ミツバチが不足して、園芸農家が困り果て、米国では06年以来、ミツバチの大量喪失が続き、蜂群崩壊症候群として大騒ぎになったことに注目しました。「ミツバチをめぐる異変を出発点にし、環境化学物質の被害の把握、解明に取り組んだ」といい、「われわれは自然との共生を真剣に考えないと、人類は末永く生存できない」と、指摘しています。

 

 蜂群の崩壊は世界各地で進み、「ミツバチを含む受粉昆虫を保護しないと、2万種もの植物種が数十年で消えてしまう」と、危機感を募られています。「食料の90%を供給する100種類の作物のうち70種類以上がミツバチによって受粉している」と書き添えており、空恐ろしくなります。いくつかの要因の複合作用の結果とされ、ストレス、ウイルスによる病気、ダニ、農薬などがその原因とされているそうです。「最大の原因はネオニコ系殺虫剤で、昆虫に記憶喪失、食欲減退、方向感覚の喪失、免疫系の崩壊を招く」としています。

 

 欧州では農薬規制が進んでいるのに対し、日本では対策が遅れています。専門家の東大教授が「農薬は恐ろしい毒薬といったのは40年前の話。日本で認可されている農薬で人体に危険なものはありえない」と、主張していることを批判し、農薬安全神話がまかり通っていると、岡田氏は憤慨しています。日本の農薬使用量は、OECD加盟国中、韓国についで2位、加盟国平均の17倍とのデータを引用し、日本列島が農薬漬けになっている現状に怒りを示しています。

 

 岡田氏の出身母体である新聞、テレビは監視機能が弱く、「政府、大企業が発表する情報の伝達機関にすぎない」と、恐らく自省をこめて、語っています。メディアの問題は、農薬に限らず、他の分野にも当てはまる体質だと、わたしも思いますね。

 

 有害化学物質の害は、抵抗力の弱い子供の健康異変、急増する子供の発達障害という形でも現われているとの報告がありますね。「児童の喘息は20年で3倍になった」、「ダウン症、水頭症などの先天性異常は25年で2倍に」、というデータを引きながら、岡田氏は「脱・化学物質づけへの道」として、農薬を使わない農業、包括的な法体系と予防原則の確立など4項目の提言もしております。

 

 新書には、あふれかえるほど、たくさんの農薬名、薬品名、日本および世界各地の具体的なケースが盛り込まれています。1度、読んだだけでは、全部を消化するのは難しいかもしれません。この本を座右におきながら、わたしたちの身の回りを見まわし、現代社会の病巣を見直す手引きにしたらよいと思いますね。

 

 

 

 

 

 

 

 



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