新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ

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1万年単位で考える原発リスクは無意味

2017年12月16日 | 社会

新聞論調は現実的な提言を

2017年12月16日

四国電力の伊方原子力発電所3号機(愛媛県)について、広島高裁は運転差し止めを命じる決定を下しました。「1万年に1度程度の破局的な噴火が起きれば、噴出物の大量飛来、火砕流の到達する可能性はゼロではない」との見解を示し、広島地裁の決定を覆しました。


 原発訴訟で問題にされる噴火は、「12万年前から現在まで、9回の破局的噴火が確認」、「7300年前に鹿児島県の鬼界カルデラが破局的噴火の最後」、「1万年に1度の頻度なのだから、対応を強化すべきである」などです。「1万年に1度とはねえ」です。


 「1万年に1度」は確率の問題であり、「1万年先ことまで考える」とは、違うにしても、気の遠くなるような時間軸です。人類の文明はおろか人類自身が存在しているかどうかも、想像の彼方です。こんな問題意識で議論を空転させるより、原子力エネルギーの比率が現実問題として、下降線をたどることへの対策を議論すべきです。


 もう一つは、破局的噴火への対応策はあり得ないことです。日経社説は「噴火対策に高裁が憂慮を示した点は重く受けとめるべきだ」と言います。では、「重く受け止めて、その先、何をせよというのか」聞きたいですね。「滅多にないといって対策を取らなければ、取り返しのつかない被害を招くというのが、福島原発事故の教訓だ」(朝日社説)も、そこまでいうのなら、「原発ゼロ」をはっきり主張すべきです。


責任放棄する司法の原発判断


 司法は無責任です。1万年とか、破局的な噴火を想定せよとかいうなら、「原発は危険だから、ゼロリスクで臨まなければならない。従ってリスクが少しでもある地域での原発立地は認めない。直ちに廃炉にすべきだ」との判断を示すべきです。想像もできない、対策もあり得ない論点を持ち出すのは、責任放棄です。


 新聞論調も責任を放棄していますね。朝日は「数万年単位の火山現象のリスク評価が難しいのは事実だ」と認める一方で、「火山列島の日本。国の原子力規制委や電力会社は決定を真摯に受けとめるべきだ」と、主張しています。「真摯に受け止めて何をせよ」というのか。それなら、「完全な脱原発政策を」というべきです。


 毎日社説は「政府や電力会社は、火山対策ついて議論を深めていく必要がある」ですね。どんな議論ですか。破局的噴火に備えるなら、原発の立地禁止以外になく、議論を深めようがありません。新聞は最終結論の提言を回避したい時に「議論を深めよ」と書くのが常套手段です。


 産経社説は正直です。「破局的噴火が起きれば、原発以前に九州全体が灰塵に帰す」とし、あまり意味のない議論はやめようということでしょうか。読売社説は「破局的噴火を前提とした防災対策は存在しない」です。そう思いますね。「存在しえないものを議論しろ」というより、率直です。ただし、噴火問題に決着をつけたところで、原子力エネルギーの長期的低落を防ぐことはできません。課題はそれへの対応策でしょう。


人類誕生まで遡ることの無意味


 新人類の誕生は20万年前で、10万年前から3万5000年前にかけ存在したネアンデルタール人が消えた後、クロマニヨン人が登場したのは、3万年前ですね。文明らしきもの出てきたのは1万年前、人類の歴史が分かってきたのが5000年ほど前とされます。気の遠くなるような時間軸を、原発問題に絡ませるのは、本心では「原発をなくしたい」ためでしょう。


 議論のための議論が空回りしないように、最高裁まで持ち込まれ、「破局的噴火問題」で社会的通念に見合った方向が定着することを期待します。地裁、高裁レベルでまちまちの判断が示され、後退を続けている原発政策がさらに混乱しないことを願っています。現実的な道は軟着陸なのです。


 それに裁判官は法学部系が主流で、原発政策のように高度の判断を求められる問題に対し、見識ある判決を本当に示せるのでしょうか。今回の広島高裁の裁判長は、民事畑を主に歩み、火山や原発政策の経験があったとは思えません。司法は原子力規制委員会の見解を尊重するとか、判事に再教育、研修の場を与えるとかが必要です。


 では今後の原子力エネルギーどうなるのか。政府は、全電源に占める原子力の比率を2030年に20~22%(16年度は2%)に引き上げる計画です。事実上、不可能でしょう。辻褄合わせで、無理やり作った数字です。現実的な方向性を打ち出すべきです。それが軟着陸なのです。


 再稼働しても、期限切れを迎え運転停止、廃炉に追い込まれる原発は増えていくでしょう。新規立地や立て替えも地元の反対が強く、極めて困難でしょう。原子力の位置づけが現実問題として、後退していくのは必至です。カネがかかっても、効率のいい代替エネルギーを開発し、その比率を高めていくしかありません。


 





 



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5 コメント

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責任 (通りすがりの薬剤師)
2017-12-17 11:29:43
個人的に思うのは
メディアって責任取ったことって今までにありましたっけ?
少なくとも俺が観てる限りちゃんと責任を取ったことのあるメディアは存在しないと思うけど?
朝日の従軍慰安婦にしろ
共産党の赤旗新聞にしろ、
その他誤報や、
情報操作、
民主党の外人参政権や蓮舫の二重国籍への言及など、
必要な情報を出さないなど
こういったことへの説明責任は
はたしてしてるのか?
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少しずれています (mahlergstav)
2017-12-18 09:55:24
この判決は、1万年に1度のリスクといった格調高いものではないですよ。

阿蘇山大噴火の火砕流が伊方まで達するような状況を想定してみたらよい。最低でも九州は全滅、日本の国土・人口・GDPの1割を喪失する。九州以外の地域も無傷ではすまない。多分、日本は滅亡すると思う。いや、世界が相当な影響を受ける。原発事故など、相手にもされないだろう。




広島高裁は、国家が滅亡するようなリスク対策を求めている。抜本的な対策は、日本には人が住まないことだ。エネルギー源どころの話ではない。




私も、最初は、この判決は何かの間違いで、高度な法律論が背後にあるのではないかと思ったが、報道等見る限りそうではなさそうだ。ということは、高度な法律論が背後にあったとしても、広島高裁の「あったかもしれない」真の意図はかき消され、この馬鹿げた理由が「真実」とされたと思ってよい。これは、司法のメルトダウンを意味しますよ。




広島高裁としては、想定している阿蘇山噴火を詳細に発表すべきでしょう。伊方に火砕流が達したとしても、九州の被る被害が、3.11での岩手県・宮城県の津波程度の場合です。これだったらわからないでもない。しかし、私には、思いつかない。

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Unknown ()
2017-12-21 21:53:04
原発に関してですが、自分にはどうしても「どんな滅茶苦茶な理由付けでもいいから日本にはプルトニウム以外のエネルギーを買わせろ!」という意思が働いているとしか思えません。もちろん中国韓国もコレには大いに絡みまくっていることでしょう。何しろ日本のメディアは特亜が支配していますから。彼ら特亜にとって、日本のエネルギー事情を不安定化する事はメリットが有ります。工業離れが進み国力が落ちますし、離れた工業会社に脅しを掛けながら自国に誘致すれば失業者の受け皿になり、更に自国の国力が上がります。莫大な外貨獲得も夢ではありません。

勘ぐり過ぎかな。
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問題は、裁判官次第で判決を変えられる事では? (伊牟田勝美)
2017-12-22 00:06:38
ブログ主様

この判決の問題の一つは、mahlargstav様が指摘されているように、想定の噴火による原発以外への影響を無視している点です。
このような噴火が起きれば、運が良くても原告住民が寿命のある間に元の住まいに戻ってくることは難しいでしょう。
そう考えると、原告のための判決ではないのでは? と思いたくなります。

判決理由の報道を見ると物証である『伊方原発周辺には火砕流の痕跡はない』は、「火砕流が届かなかった証拠にはならない」とし、『火砕流は届かなかった』とするシミュレーション結果も、一蹴していました。
逆に、状況証拠にもならない『阿蘇の過去最大の噴火では、最大で160km先まで火砕流が到達しているので、130kmにある伊方原発まで火砕流が到達する可能性がある』を採用しました。
このような証拠の扱いは、裁判官の個人的な意図によるものと言われても仕方ないでしょう。

この裁判の最大の問題は、裁判官の個人的な見解で判決は自由に変えられることを示した事だと、私は思います。


ところで、ブログ主様は、「原発政策のように高度の判断を求められる問題に対し、見識ある判決を本当に示せるのでしょうか」と言われていますが、政治学を学ぶべきと言うのでしょうか。
裁判において政治を考慮する場合、政権側か、反対の考えを持つ側のどちらかに偏ります。
今回の判決は、ある意味で政権に反対する政治的な見解が含まれています。
ブログ主様は、御自身の政治的な考えと一致しない広島高裁の判決から、『判事には政治を考慮できない』とお考えなのでしょうか。

裁判に不足しているのは、科学的な思考です。
科学は、宇宙のどこでも同じ法則が働くので、誰に対しても平等になります。
裁判は、全員に公平・公正であるべきですから、政治を考慮するのではなく、科学的な見地をキチンと取り入れるべきだと思いますが、いかがでしょうか。
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Unknown (Unknown)
2017-12-31 08:57:49
この判決を出した裁判長は退官後の弁護士人生を見越してとんでも判決を出したと言われている。こんな変な人に弁護士になってもらいたくないね。
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