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ビットコイン 雲をつかむような話

2014年03月01日 | 経済

 ネット時代の蜃気楼

                     2014年3月1日

 

 仮想通貨、ビットコインの記事が新聞で目につくようになったのは昨年12月頃からでしょうか。主に日経新聞でした。何度読んでも、理解できない不思議な話であることは変わりなく、具体的なイメージがわかないので、わたしの頭が古いのだろうと思っていました。2月になって掲載記事が急増し、これは何かあるな、と予感していましたら、日本で取引所を運営する会社が昨日、あっけなく経営破たんしてしまいました。

 

 ネット新時代のゲームのような気がします。それにしても手がこんでいますね。ドル、円、ユーロなどの通貨危機のことばかり考えていましたら、今度は仮想通貨の危機ですか。まあ通貨という名前をつけたマネーゲームでしょう。

 

 昨晩のテレビニュースで、この会社「マウントゴックス」の社長が「迷惑をかけて申し訳ない」と片言の日本語でお詫びし、頭を下げていました。深く反省している様子も、深刻な表情もうかがえず、にやついているようにも見え、奇妙な記者会見でした。オフィスは閉鎖ないし移転し、社長をいずれ退任するとかいいます。ここがビットコインの世界最大の取引所だそうで、それが日本にあり、顧客は12万人でほとんどが外国人、日本人は1000人程度とか。これも妙な話で、いかにネット時代とはいえ、なぜ日本に拠点を置く必要があったのか、不思議な話ですよね。

 

 なにか裏がありそうです。政府は不正な資金取引の防止や消費者保護の観点から対策に乗り出し、警察庁などは取引の実態を調査するようです。米国では捜査当局がマネーロンダリング(マフィアなどの闇資金の資金洗浄)絡みで調査を始めています。日本でも警察が出てくるところを見ると、米側からすでに調査依頼がきているとみてもいいでしょう。新時代の新しい仮想通貨というキャッチフレーズにつられた人は自己責任で損失をかぶるしかないでしょう。

 

 この会社は東京地裁に民事再生法の適用を申請いたしました。実体があるようでない企業を再建するのは難しく、「会社が破綻したので、取引のあった債権者はもうあきらめてほしい」との宣言をするのが再生法申請の目的と思われます。せっかくの機会ですから、再生法の申請を受け、犯罪的要素があれば、実態を洗い出したらいいですね。仮想通貨構想については、蜃気楼のような存在ですから、いくら調べても、雲をつかむような話に終わるような気がします。

 

 経済専門紙の日経は2月14日の社説で、「仮想通貨にどうむきあうか」という見出しで、どちらかといえば前向きの考え方をとりました。「注目されたきっかけは欧州の通貨危機だ、国が発行する通貨の信用が揺らぎ、資産の保全として、使われるようになった」といいます。さらに「現行の通貨制度への挑戦ともいえる。信頼できる取引所の設置など安全対策が必要だ」と指摘しました。その2週間後に、日本に開設した最大手の取引所が破綻してしまったのですから、日経も、脇があまい社説を書いたものです。

 

 もっとも仮想通貨構想は、ノーベル経済学賞をもらったハイエクが「貨幣発行自由化論」で提唱しました。「貨幣の供給を政府が独占しなければならないとの信念は仮定にすぎない。通貨の発行を民間に開放し、普及を競い合う」との考え方をしめしました。日本の経済学者にも「人々が通貨を選べる世界では、インフレなどで減価する貨幣は自然淘汰されていく。ビットコインがドル、円などと競争する状況はハイエクが描いた未来図といえる」と、高く持ち上げるひとがいます。

 

 頭の体操にはなっても、現実にそんなことができるのでしょうか。ビットコインにはいくつかの「ない」があり、それが長所でもあり弱点でもあります。

・通貨といっても実物ではない(インターネット上のデータでやりとりする)

・規制がない。取引所を監視する番人(通貨当局)がいない。管理者もいない。

・政府の信用の裏づけがない。

・違法取引があっても該当する法令がない。

 

 仮想通貨が受けたのは、以下の点でしょう。

・ネットを通じて世界中に瞬時に送金できる。新しい金融技術である。

・手数料もほとんどかからない。

・相場が変動し、値上がり益も期待できる。

・専門の取引所でドル、円などの通貨に交換できる。

・限られた店舗で、実際に使える。

 

 仮想の通貨というより、空想の通貨なのでしょう。今回の経営破たんには、サイバー攻撃を受けた、ハッカーによる営業妨害を受けたなどの説もあるようです。メリットがすっ飛んで、欠陥ばかりが表面化しました。利用者からの現金預かり金と預金残高が食い違い、「預金が最大で28億円不足している」とか「480億円相当のビットコインがほぼ全て消失した」などという、同社の説明を聞くと、詐欺か計画倒産の疑いすら想像するひともいるかもしれません。

 

 ほんものの通貨ですら、政府、中央銀行が必死になって価値を守ろうとしているのに、急騰、急落がおきます。厳しい金融規制があるにもかかわらず、極めて巨額の金融・証券事件が後を絶たないのに、政府規制をまったく受けない仮想通貨が理論通り、うまくいくはずはないと思いますよ。

 

 

 



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