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麻生失言「産まないのが問題」の意味

2014年12月09日 | 社会

  人工中絶40万人という実態

                     2014年12月9日

 

 衆院戦のさ中、麻生副総理がまた舌足らずの失言をしました。「高齢者が悪いというイメージを作っている人はいっぱいるけれども、子どもを産まないのが問題だ」と、おっしゃいました。趣味の漫画のイメージで、重大な問題をかいつまんで、短絡的に話してしまったのでしょう。人口減少、少子高齢化が日本の最大問題です。恥ずかしい話として片付けずに、考えていかなければならない問題があります。

 

 失言を聞いて「またか」と始めは思いました。社説でさっそくかみついた新聞社もあります。「失言に至る動機があったに違いない」と思い、「ひょっとすると、自民党が圧勝しすぎても困るので、意図的に失言をしてみせたのかな」と考えました。ある会合で知人にそういうと、そんな計算ができる人物であるはずがない」と一蹴されました。しばらく出生数や出生率の低下の問題で、議論を交わしました。

 

   自然減の2倍の中絶数

 

 知人の1人が深刻なデータを紹介しました。「自分が関係したシンポジウムで、少子高齢化問題の専門家があるデータを示した。人工妊娠中絶の数は一般にいわれているより、はるかに多い」というのです。政府の統計では、08年は24万件となっています。「丸い数字でいうと、ここ何年かは、20万人くらいの数字が続いていることになっている。問題の性質上、正確な実態はつかめない。推測では、40万人の中絶が行われている」。

 

 40万人の生まれてくるべき命が失われているのは、人道的、倫理的問題であります。と同時に、人口減問題を考えるうえでの、重大な手がかりがあるように思われます。新生児は13年、103万人でここ100年ほどのうちで、過去最低になりました。出生数が死亡数を下回る「自然減」は24万人でこれは過去最大となりました。

 

    中絶する様々な理由

 

 単純にいうと、中絶がこれほど多くなければ、「自然減」をゼロにすることもできるし、出生数を何十%も引き上げることができます。人口減少、少子化を日本の運命のようにあきらめるのではなく、生まれてくるべき生命を生まれてくるようにする環境作りにこそ、国の政策として取り組むべきでしょう。日本は世界で有数の中絶国です。人道的問題、倫理的問題の解決にもなります。生まれてくるべき生命がそもそも少ないというのではないのです。

 

 「なぜ40万人もの中絶が行われているのか」で、さまざまな意見があります。母体の健康、未成年の妊娠、深刻な経済問題など、中絶が不可避なケースもあるでしょう。その一方で「優生保護法の改正で経済的理由が認められて以来、経済的理由が安易に拡大解釈されている」、「教育費がかさみ、子供を育てにくくなっている」、「保育所、託児所が不足し、産みたくても産めない」、「女性が働きながら子育てをするの容易ではない社会構造になっている」など、多くの理由があるでしょうね。

 

 育児行政、保育行政の充実で、この問題を解決していく手段はたくさんあるはずです。安倍政権は女性の地位向上、働く女性への支援策を重点公約として打ち出しています。首相は「2年間で20万人分、5年間で40万人分の保育の受け皿を作る」と街頭演説で述べたそうです。先ほどのデータとどこか符号する部分もあります。ぜひ実現して欲しいですね。中絶が行われる一方で、妊娠を望みながらそれがかなえられない夫婦も多いはずです。新生児の養子縁組を社会的に支援することもできるはずです。

 

 麻生副首相の失言は、政治家としての資格が疑われる話です。善意に解釈して、中絶の抑制、保育行政の充実を進めなければならないと考えているというのならば、重大かつ解決可能な問題を提起しているということになりますね。

         



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