新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ

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国家は分裂に向かう

2013年10月06日 | 海外

 難しくなった合意形成 2013年10月6日

 

 リーマン・ショックから5年たち、世界経済は回復に向かっているとか、米国はシェールガス革命で新しい時代に入りつつあるとか、最近、しきりと楽観的なことがささやかれておりましたね。ところがです。米国が異常な事態に陥り、これが今、世界中で起きていることを象徴的に暗示しているような気がしてなりません。

 

 観光の秋、米国にいった世界各国からの観光客は何を見たのでしょうか。国立公園は閉鎖され、国立博物館も扉を閉められておりました。政府、議会の財政協議が暗礁に乗り上げ、政府機能の機能の一部停止が長期化するそうです。オバマ大統領はアジア歴訪を急きょ、中止し、国内問題に専心することが発表されました。

 

 世界からの観光客は、口悪くいえば、内政でもだえ苦しむ米国の姿を観光したのです。日本はアベノミックス(安倍政権の経済政策)のスタート・ダッシュの様子に気を奪われ、楽観的な空気になっています。それでいいのでしょうか。世界は底流では、新しい混乱が始まっており、米国の事態は人ごとでないように思えてなりません。

 

 メディアの紙面で「米国経済の足を引っ張る不毛な政治対立」という見出しの社説をみかけました。あまり対立の根が深くなく、双方が話し会えば解決できるのに、突っ張りあっているというなら、「不毛」という表現でよいでしょう。「不毛」というには、状況は深刻すぎます。

 

 「米国の大統領は米国一国だけのトップではない、という重責を改めて肝に銘じてもらいたい」という記事も読みました。しかも、そのくだりが記事の結論になっているのです。逆でしょう。本人が肝に銘じても、解決できないからオバマ氏の顔の表情が日に日に険しくなっているのです。「なぜ一国だけのトップでいられなくなったか」を文頭に置いて、問題の底流を深く掘り下げて書くべきだと思うのです。

 

 「アジア歴訪を断念し、APEC(アジア太平洋経済協力会議)の首脳会合も欠席する」状況に対し「中国は高笑い」という見出しの記事もありました。習政権の気持ちは「高笑い」かもしれません。その中国はどうなっていますか。大気汚染が最悪記録を更新したとかのニュースを今日,聞いたばかりです。共産党の内部対立も深刻だし、軍の独走を習国家主席はコントロールできていないではありませんか。

 

 わたしは国際情勢の専門家ではありません。それでも常識的に考えれば、シリアは国家が分裂しています。オバマ大統領が武力行使に踏み切ろうとしたのは、間違いで、そんなことをしても、混乱が増すだけだったでしょう。また、それよりも内政が重大です。内政上の対立がある時は、対外的に強硬路線をとり、国民の目を外に向けさせるという伝統的な手法はもう通りませんよね。

 

 エジプトは「軍と警察がムバラク時代よりも力を持ち、大衆、社会の底辺を基盤にしたイスラム勢力との対立はとけそうにない」との中東専門家の指摘は、そういうことなんだろうなと考えます。ムバラク後に、アラブの春(自由と人権、民主主義の実現)が訪れるはずだったのに、事態は失望に向かっています。

 

 民主主義国家において、国内のコンセンサスの形成はますます難しくなっています。ウェッブ社会化が進み、価値観の多様化がさらに加速し、意見の対立が激化し、社会としてのまとまりができにくくなっています。その一方で自己主張する表現術や、お互いに譲歩しない論術は巧みになっています。途上国では、底辺層の発言力がウェッブ社会化に伴い、力を持ち始めています。

 

 経済のグローバル化、特にマネー市場のボーダレス化と肥大化は、経済の変動を大きなものにしてしまいました。実体経済は揺さぶられ、不安定化し、格差も拡大しています。自分たちの生活、身の回りを守ることに必死にならざるを得ず、国民としても合意形成のために、譲歩、妥協するという余裕を失いつつあります。「不毛の対立をなくせ」「妥協点を探れ」は結論になりえません。

 

 

 

 

 

 



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