旅は日常から自分を切り離して「違う場所」に置いてくれます。旅の目的が観光であっても仕事であっても、「ここではないどこか」にいる自分はいつもとちょっと違う気分になります。特に海外に行くと、自分が異邦人であるという感覚にとらわれます。
日本人の年間海外旅行者数は1990年に1,000万人を超え、2012年には1,849万人にも達しました。毎年人口の1割強が海外旅行をしていることになります。当然、生まれてから一度も海外に行ったことがない人はたくさんいますし、仕事で1年に何度も海外に渡航する人もいます。それでもこの数の多さは、海外旅行がコモディティ(commodity:日用品、ありふれた商品)化したことを示しています。
さて、海外旅行が高級品であった時代とコモディティ化した現代を比べると、私たちが「異邦人である自分」を感じることは少なくなってきました。
インターネットの普及によって海外のリアルな情報を簡単に手に入れることができるようになりました。Google Earthを使えば、ヨーロッパの路地や南米の市場など好きな場所の画像をいつでも見ることができます。
また、NHKの「世界ふれあい街歩き」という番組は、目線の高さのカメラで撮影をしているので、本当に外国の街の中を歩いているような気分になります。
こうして、どんどん外国の風景や文化との敷居が低くなっていくことは、もちろん大歓迎です。
しかし、自分が異邦人であることを感じることがなくなってしまうのは残念な気がします。ときには「自分と、自分以外の全部」という、全く原始的な孤立感を覚えることがあっても良いのではないでしょうか。
しばらく自分を孤立した状態に置くと、いろいろなことを深く考えたくなります。
それは悪いことではないと思います。なぜなら、徹底的に何かを考え抜くということをしなくなると、大量の情報に埋め尽くされてしまい、考える力自体が衰えていくからです。そうならないように「考える」ことは、ちょうど川の流れに逆らって泳ぐようなものかもしれません。
さて、ひとりになって考えるには、やはり旅に出るのがいちばんでしょう。1人で海外に出かけて、孤独感を味わいつつ何かを深く考えてみるという経験は贅沢かもしれませんが、一度はやってみたいものです。
ちなみに画像のような場所が希望なのですが・・・考えるのやめてしまいそうな気もします。
(人材育成社)