共 結 来 縁 ~ あるヴァイオリン&ヴィオラ講師の戯言 ~

山川異域、風月同天、寄諸仏子、共結来縁…山川の域異れど、風月は同天にあり、諸仏の縁に寄りたる者、来たれる縁を共に結ばむ

黒澤明が認めた小田原御殿風鈴

2023年09月14日 18時18分25秒 | 日記
今日は、勤務先とは別の小学校の放課後子ども教室の日でした。いつもより少ないながらも、子どもたちは元気に来てくれました。

子どもたちを送り出して片付けを済ませてから、小田原駅に向かう前にちょっと寄り道していくことにしました。やってきたのは



小田原市中町にある《柏木美術鋳物研究所》という鋳物工房です。

こちらでは、かつて盛んに作られていたものの、現在ではここだけになってしまった『小田原鋳物』を製造・販売している工房です。中に入ると



季節柄たくさんの風鈴が並んでいましたが、今回の私のお目当ては



『小田原御殿風鈴』というものです。

通常の風鈴は鉄や青銅や真鍮で作られることが多いのですが、この御殿風鈴は『砂張(さはり)』という、銅に錫を20%ほど混ぜた合金で作られています。

『砂張』は古くは『佐波理』と書かれ、


(佐波理盒子・さはりのごうす)

正倉院宝物にも佐波理製の碗や匙等の仏具が遺されている、古くからある合金です。その後、茶の湯の大成とともに茶器の素材として珍重されるようになり、その頃から『砂張』と表記するようになったようです。

本来、佐波理は上の写真の盒子のように黄色味がかった色をしています。それを、こちらの工房では独自の技術を用いて燻し銀のような渋い発色を実現しています。

かつて



日本を代表する映画監督である黒澤明(1910〜1998)が



1965年に公開した映画『赤ひげ』を撮影中に、当時の助監督に

「日本一の風鈴を探してこい」

という厳命を発しました。その命を受けた助監督たちは日本全国の風鈴を試聴した結果、最終的に黒澤明監督のゴーサインが出たのがこの『小田原御殿風鈴』でした。工房には



その時の様子を写した写真が展示されています。

特に真鍮製の風鈴は、使う毎に音が鈍くなっていく傾向にあります。ところが、この砂張の風鈴は『鳴り上がる』といわれていて、大切に使えばその分音色が育っていくという、まるでオールドヴァイオリンのような特質を持っているのです。

その代わり、合金の配合率のせいなのか衝撃に弱く、硬い床面に落としてしまうとヒビが入ったり割れてしまったりします。なので、取り扱いにはなかなかの注意が必要となります。

工房には



いくつかの御殿風鈴が展示されていました。これは展示品ですが、工房の方が奥から販売品を出してきて、いくつか音色を聴かせてくださいました。

大変厚かましいのですが、そこからしばらく並べられた御殿風鈴を端から鳴らしていって、10分以上音色を比べて周りました。他に客がいなかったとはいえ、工房の方からしたらさぞかし迷惑な客だったことでしょう(汗)。

工房の方は新品を勧めてこられるのですが、私はどうしても展示品のひとつの音が心に響いていました。恐らく展示されて鳴らされていたこともあって、新品よりも『育っていた』のだろうと思います。

そして散々悩んだ挙げ句、最終的に無理を言って、最初に心に来た展示品を販売してもらいました。若干日に焼けてしまっていた箱根寄木細工製の短冊と吊り紐を新しいものに交換していただき、



無事にお気に入りのひとつをGETすることができたのでした。

因みに普通に雑貨屋などで売られている鉄製の風鈴は、安いものだとひとつ¥1,500から¥2,000くらい、高いもので¥4,000から¥5,000くらいが相場です。しかし、この御殿風鈴はひとつ¥10,000くらいする高級品です。

何故このお高い風鈴を購入したのか…それは来週以降の放課後子ども教室で判明します。ですが、先ずは自宅に飾って、風雅な音色を堪能しようと思います。

小田原御殿風鈴の音色については、下記動画をご参照ください。

https://youtube.com/shorts/xDaBEGD08x0?si=13giixzvAgX6y7_S


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