今日は、神様に今年の実りを感謝する新嘗祭です。決して『勤労感謝の日』などという、わけのわからない祝日ではありません。
ところで、今日は新嘗祭とは別の話をしようと思います。今日11月23日は、モーツァルトの《2台のピアノのための協奏曲 変ホ長調》が初演された日です。
《2台のピアノのための協奏曲 変ホ長調 K.365 (316a) 》は、
モーツァルトが作曲した2台のピアノを独奏楽器とした協奏曲で、通し番号を付けて『ピアノ協奏曲第10番』とも呼ばれています。
かつてこの作品は、1779年に作曲されたと考えられていました。しかし近年の研究によって、第1楽章と第2楽章はモーツァルトがおよそ1775年5月から1777年1月の間に用いていた五線紙に書かれていることから、1775年から1777年にかけてザルツブルクで作曲されたとされていて、協奏曲自体もこの時期に属すると見られています。
モーツァルトは1781年に、ウィーンにいる自分に宛てて父レオポルトからこの協奏曲のコピーを送ってもらっていて、同じ年の11月23日にアウエルンハンマー家での私的な演奏会で、弟子でありパトロンでもあったヨーゼファ・バルバラ・アウエルンハンマー(《2台のピアノのためのソナタニ長調》の初演者)と共演しています。更に翌年の5月26日には、アウガルテンでの公開演奏でも演奏しています。
さて、そんな《2台のピアノのための協奏曲》について調べていたら、とんでもない動画が残っていました。なんとジャズピアニストのキース・ジャレットとチック・コリアが田中良和指揮による新日本フィルハーモニー交響楽団と、しかも日本で共演しているというものです。
キース・ジャレット(1945〜)は、クラシック音楽との触れあいは珍しいものではなく、何と言っても有名なのはバッハの《平均律クラヴィーア曲集》を全曲録音していることです。他にもヘンデルのリコーダー・ソナタをミカラ・ペトリと録音をしたり、ショスタコーヴィチの《24の前奏曲とフーガ 作品87》を録音したりしています。
勿論モーツァルトのピアノ協奏曲の音源もあり、1994年11月と1995年1月にシュトゥットガルトで
《ピアノ協奏曲第21番ハ長調K.467》
《ピアノ協奏曲第23番イ長調K.488》
《ピアノ協奏曲第27番変ロ長調K.595》
を録音しています。
一方、
チック・コリア(1941〜2021)はキース・ジャレットに比べるとクラシック音楽にはより遠い存在であるような印象を持ってしまいますが、日本での演奏会で初めてモーツァルトを演奏したわけではなく、実は1983年6月にアムステルダムで《2台のピアノのための協奏曲 変ホ長調 K.365》を録音していました。しかも相手は
20世紀を代表するピアニストの一人であるフリードリヒ・グルダ(1930〜2000)で、
古楽の雄としても知られているニコラウス・アーノンクール(1929〜2016)指揮のアムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団との共演という、よくもまぁこれだけ意外な取り合わせを実現したものだという録音です。
キース・ジャレットとチック・コリアがどういった経緯で、しかも日本で共演することになったのかは分かりません。それでも、この場に居合わせた人たちは凄まじく幸せ者だということは確かです。
そんなわけで、今日はモーツァルトの《2台のピアノのための協奏曲(ピアノ協奏曲第10番) 変ホ長調 K.365(316a)》をお聴きいただきたいと思います。キース・ジャレットとチック・コリアという2人のスーパージャズピアニストの共演による、この上なくブリリアントなモーツァルトをお楽しみください(リハーサルシーンもあります)。