共 結 来 縁 ~ あるヴァイオリン&ヴィオラ講師の戯言 ~

山川異域、風月同天、寄諸仏子、共結来縁…山川の域異れど、風月は同天にあり、諸仏の縁に寄りたる者、来たれる縁を共に結ばむ

ようやく届いたヴァルヒャのLPレコード〜バッハ以前のオルガンの巨匠たち

2023年06月12日 19時10分19秒 | 音楽
今日も雨が降り続く、ジメジメした一日となりました。そんな中、今日自宅に



これが届きました。

これは



盲目のオルガン・チェンバロ奏者として高名なヘルムート・ヴァルヒャ(1907〜1991)が録音した《バッハ以前のオルガンの巨匠たち〜ドイツ・バロックのオルガン作品集》という、4枚組のLPレコードです。このCDは持っているのですが、たまたまオークションサイトでLPレコードが出品されていたのを見て落札したものが届きました。

先日も拙ブログに書きましたが、西洋音楽というのはバッハから突然始まったわけではなく、それ以前に多くの先達たちが存在していました。このLPレコードには、そうしたバッハの先達たち…ブクステフーデ、スヴェーリンク、ブルーンス、パッヘルベルといった作曲家のオルガン作品が収められています。

このLPレコードを録音するにあたって、ヴァルヒャは以下のようなメッセージを添えています。


『この録音をもって、長く手がけてきたレコードのための仕事をしめくくりたいと思います。

私はバッハのオルガン作品を2度レコーディングしました。リューベックとカペルでのモノラル録音、アルクマール、ストラスブールでのステレオ録音です。

そのあとで、さらに以前のオルガン音楽の巨匠たちに歩みをさかのぼらせることは、私にとって意味深いものに思われました。彼らの作品は、若いころから私を魅了し、バッハにささげた私の生涯と歩みをともにしてきたからです。

幸い、カペルのアルプ・シュニットガー・オルガンが、歴史的忠実さをとりわけ重んじつつ修復され、理想的な音楽条件が作り出されましたので、これらの作品もレコード録音することができました。

オルガン修復のために、またこのレコードの完成のために努力してくださった全ての方々に、この場を借りて、もういちど、心からの感謝をささげます。』


このレコーディングに使用されたのは、ドイツのホルシュタイン州ヴルステン地方にあるカペルという小さな村の聖ペトリ・ウント・パウリ教会内にある、


バロック時代後期に最も有名であったオルガン製作者の一人で、北ドイツにおけるバロックオルガンの代表的製作者の一人であるアルプ・シュニットガー(1648〜1719)制作のオルガンです。シュニットガーの活躍範囲は北ヨーロッパ各地にひろがっていて、現在でも30台ほどが基礎部分を遺した状態で保存されています。

楽器としてはもとより、美術工芸品としての価値も高いシュニットガーオルガンですが、なにより大切なのが制作当初の古典調律が当時のまま残されているという点です。一見何事もないようなことですが、これは実は非常に貴重なことなのです。

古い時代に制作されたオルガンは、それぞれにキルンベルガーやヴェルクマイスター、ヴァロッティといった平均律以前の古典的な調律法で調律されていました。それが20世紀に入って以降、平均律至上主義の考えの下に古典的調律は『不完全なもの』と見做され、ヨーロッパ各地の主だったオルガンは次々と平均律に直され『改悪』されてしまいました。

カペルのシュニットガーオルガンは、小村にあったからことでそうした『改悪』の魔の手を逃れ、古典的調律を維持した状態で保存された貴重な存在でした。ヴァルヒャがバッハ以前の巨匠たちの作品を演奏するのにこの古典的調律オルガンを使ったのは、正に必然だったのです。

いろいろな作曲家のオルガン作品がヴァルヒャの演奏によって収録されていますが、今回はその中からパッヘルベルの《シャコンヌ ヘ短調》をご紹介しようと思います。



《パッヘルベルのカノン》で有名なヨハン・パッヘルベル(1653〜1706)は、バロック期のドイツの作曲家であり、南ドイツ・オルガン楽派の最盛期を支えたオルガン奏者で、教師でもある人物です。どうしても《カノン》が一人歩き的にフィーチャーされがちですが、宗教曲・非宗教曲を問わず多くの楽曲を制作してコラール前奏曲やフーガの発展に大きく貢献したところから、パッヘルベルはバロック中期における最も重要な作曲家の一人に位置づけられています。

《シャコンヌ ヘ短調》は、パッヘルベルのオルガン作品の中でもとりわけ人気の高い曲のひとつです。ファ・ミ♭・レ♭・ド(実音)という動きを繰り返すバッソ・オスティナート(執拗低音)の上に憂いを帯びた旋律が現れ、それが様々に変奏されながら展開していきます。

ヴァルヒャの演奏は、ひとつひとつの音を丁寧に置いていきながらも決して地味な雰囲気に終止してしまうことなく、バロック音楽らしい華やかさも忘れてはいません。そうした雰囲気を作り上げるためのオルガンの音色選びからも、ヴァルヒャのオルガニストとしての腕の確かさが窺えます。

そんなわけで、今日はパッヘルベルの《シャコンヌ ヘ短調》をお聴きいただきたいと思います。、ヘルムート・ヴァルヒャによるカペルのアルプ・シュニットガー制作のオルガンでの演奏で、パッヘルベルの隠れた名曲をお楽しみください。



コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 雨が似合うエリック・サティ《グノシェンヌ第... | トップ | 放課後子ども教室スタート »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。