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鏡餅

 ずっと気になっているが、どうしても手が出せない、そんなことがよくある。塾バスのダッシュボードの上に置いてある鏡餅もその1つだった。毎年大晦日に新しい年を迎えるため、車一台ずつに鏡餅を供える。以前は米穀店が売る生餅を供えていたが、すぐに割れてしまい後片付けが面倒だったので、近年は真空パックに入ったものを供えるようになった。これだと車内に餅の破片が散乱することはなくなったが、逆に鏡餅の存在が苦にならなくなった分だけ、片付けることなくいつまでも車に乗せたままになってしまう。それでも例年なら1月中には片付けていたのに、今年はなんと今になるまでずっと車内に置いたままになっていた。
 これじゃあ、いけない、と思ったのが昨日。はっと気づいたら、餅が茶色く変色していた・・・。ぎゃっ!!


 餅と言えばカビが付き物だが、さすがに真空パック、カビなど一切生えていない。ならば茶色く変色したのは何故だろう?日光に晒したままになっていたから、日焼けしたのかな?などと冗談めいたことも考えてみたが、ひょっとしたら本当にそうかもしれない。勿論推測で物を言っていても仕方がない、実際に調べるに如くはない、などと久しぶりにバカができるとワクワクしながら、真空パックから餅を取り出すことにした。 
 だが、うまく行かない。普通なら底面に貼ってあるフィルムをさっと剥がせばストンと餅が取り出せるはずだ。なのに、長い間日光の影響を受けたためか、フィルムがぱりぱりになってしまい、引っ張っても途中で割れてしまう。う~~ん、困った、こうなったらハサミで切るしかない。無理やり切っていったら何とかフィルムを剥がすことができた・・。


 すぐに匂いをかいでみた。おえっ!!何だこのすえたにおいは!!酸っぱいという形容がいちばんなのかなあ・・。そうか米が発酵したのかもしれない、そうだその匂いだ、たぶん・・。
 何となくこの先を続ける気がしなくなったが、この色や匂いの変化が表面だけのものなのか、あるいは内部まで変わってしまっているのか、それを確かめなくては不十分な気がしてきたので、心を奮い立たせて残りのパックもハサミで破ってみた。

 


 取り出した鏡餅はこんがり焼けたパンのようだ。すえた匂いはうっすらしてくるが最初ほど強くはない。もしかしたら中まで侵食されていないのかもしれない。少し安心して、餅をハサミで切ってみた


 やっぱり・・。中は白い。変色は表面だけのようだ。切った餅を鼻にあててみた。すえたにおいはしない。触ると水気がわずかながらあるようで、見ていると食べられそうだ。どうしよう、少し口に含んでみようか?などとかなり誘惑されたが、さすがにインフルで社会が騒がしいときに、食中毒のようなものを引き起こしたりしたら大いに顰蹙を買うだろうから、何とか踏みとどまった。だけど、焼いたらきっと食べられるはずだ・・。

最後まで野次馬根性を貫くことができなかったのは残念だが、真空パックの威力を少しながら実感できて、バカみたいだけどなかなか有意義な調査だった。
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