☆ OECD(経済協力開発機構)の「生徒の学習到達度調査(PISA)」の結果が公表された。
☆ 新聞各紙は、読解力が15位に下がったと大騒ぎ。これは「解答がパソコンで答える形になったから、パソコンに不慣れな日本の生徒に不利」だとか、専門家を巻き込んでの論争。
☆ 新聞記事はまず疑ってみること。ということで、国立教育政策研究所のホームページから調査結果を見た。
☆ そもそもPISAで何を測ろうとしているのか、本当はそこから検討しなければいけない。そうでないなら国際比較をする意味がない。また順位が上位にあることにどれほどの意味があるのだろうか。教育に関する国際援助の資料として、下位の国を調べるのは意味があるかも知れないが、上位の国についてはあまり意味がないのではないか。
☆ 日本が15位に下がったと大騒ぎしている「読解力全体」(「情報を探し出す」「理解する」「評価し、熟考する」からなる)、第4位までは「北京、上海と言った中国の都市」「シンガポール」「マカオ」「香港」と続いている。こうした国や諸地域と、1億以上の人口を抱える国を比較することの意味は何だろうか。
☆ 以下、第5位エストニア、第6位カナダ、第7位フィンランドと続く。かつて上位に位置し、「フィンランドの教育」が出版界でもてはやされたが、最近は下降気味だ。以下、アイルランド、韓国、ポーランド、スウェーデン、ニュージーランド、アメリカ、イギリスそして日本と続く。
☆ 日本の得点が504点、9位の韓国が514点だから、9位から15位までは10点以内にある。上位群としてまとめるならともかく、順位をことさら強調する意味はない。これは、日本国内で行われる「学力テスト」も同じ。都道府県ごとに競っても、ネタとしては面白いかも知れないが、あまり意味はない。
☆ この結果からわかることは、日本の生徒の読解力は「そこそこ優秀」ということだ。
☆ 気にかかるのは、日本国内における、上位層の減少、下位層の増加である。経年変化を見ると世界的にこの傾向が見られる。日本の場合、少々いびつで、2012年調査で上位層が大きく増えたのに、その反動からか2015年調査、2018年調査と減少している。
☆ 今回の調査で順位が下がったことよりも、2012年調査、どうしてこんなに好成績だったのか、そちらの方が不思議だ。専門家に言わせれば2015年調査からコンピューター入力になったことが原因だということだろうか。
☆ そうであるなら、この調査は読解力を調べるものではなく、コンピューター操作の熟達度を調べるものになってしまう。
☆ アメリカ合衆国では、スプーニク・ショックや1980年代の「危機に立つ教育」論争で、「情報化」に力が注がれた。日本の教育の情報化はアメリカより30年は遅れている。かといってアメリカの読解力が際立って優れているわけでもない。背景には貧富の格差、教育の格差がうかがえる。
☆ 調査に先だって政府は、公立の小中生1人に1台のパソコン(タブレット)を整備すると公表した。あまりにもタイミングが良すぎる。調査結果を踏まえて政策として整備するというならわからなくもないが、まず政策ありきで調査結果は後づけって感じがする。まさか統計処理に忖度はないだろうが。
☆ 調査で言うところの「読解力」は実用面を重視したもので、読解力の一面しか捉えていない。それを前提とした上で、「読解力」あるいは「情報リテラシー」といった方がよいかも知れないが、その力を伸ばすことは、デジタル時代に生きるには必要なのだろう。
☆ 政策サイドでは、ハード面、そして何よりもソフト面(指導者の養成、教材・授業開発など)の充実に力を注いでほしいものだ。