じゅくせんのつぶやき

日々の生活の中で感じた事をつぶやきます。

連城三紀彦「夜よ鼠たちのために」

2019-12-12 18:47:42 | Weblog
☆ 連城三紀彦さんの「夜よ鼠たちのために」(宝島社文庫)から表題作を読んだ。

☆ 不幸な境遇の少年、養護施設に預けられるが、誰にも心を開けない。心を許せるのは、たまたま捕らわれていた鼠だけ。しかし、その心の友が、無残にも殺されてしまう。

☆ 少年は犯人にナイフを向ける。大人たちに制せられるが、言葉を発しないため彼の心を誰も理解できない。彼は病院に収容され治療を受ける。その結果、穏やかになるのだが、それは仮の姿だった。

☆ 成人した彼はある出来事をきっかけに、再び復讐を企てる。


☆ 何度もどんでん返しがあり、話者も変わるので、じっくり読まないと混乱する。

☆ サイコパスの犯罪と言ってしまえばそれまでだが(被害者の家族にとっては同情の余地はなかろう)、それだけで終わらない悲しさを感じる。
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葉室麟「蜩ノ記」

2019-12-11 18:11:24 | Weblog
☆ 葉室麟さんの「蜩ノ記」(祥伝社文庫)を読んだ。考えさせられる時代小説だった。

☆ お家の派閥争いに巻き込まれて、戸田秋谷は幽閉の身となった。家譜編纂のためとして切腹は10年間猶予された。命の期限を切られた生活。しかし死を前にしても彼は粛々と日々を過ごした。その日暮らしの記録を「蜩ノ記」に記しながら。

☆ 奥祐筆を務めていた檀野庄三郎。居合の腕がたち将来を嘱望された若い侍だった。ふとしたはずみで友人との刃傷沙汰に及び、切腹となる所を助命され、家老から戸田秋谷の監視役を言い渡される。

☆ 庄三郎は秋谷やその家族、村の人々と暮らすうちに、人として成長していく。

☆ 村では一揆の動きがあり、田畑を買い占めようとする商人とのいさかいがあり、横柄な役人との騒動があった。それに、主家の血筋をめぐる陰謀。こうした難事に遭遇しながらも、秋谷は武士としての筋を通して務めを全うする。

☆ 武士道とは言いながら、現実は権力を求めて陰謀、策略がまかり通る。取り巻きは権力者の顔色を窺い、忖度に余念がない。商人は利潤を求めて権力者にすり寄り、権力者は彼らのカネで潤う。難渋するのは百姓であり、市井の人々、庶民と呼ばれる人々だ。

☆ 身分社会は崩壊しても、この構図、人間模様は変わらない。

☆ あらぬ疑いをかけられて、農民の子どもが責め殺される。彼は幼い妹が怖がらないように笑い顔で死んだという。斉藤隆介さんの「ベロ出しちょんま」のように。

☆ 彼は秋谷の息子、郁太郎の友達だった。堪忍袋の緒が切れた郁太郎は、庄三郎とともに家老の屋敷へと向かう。そして・・・。

☆ 最後、使命を郁太郎や庄三郎に託し、物語は終わる。余韻が残る。


☆ 庄三郎は秋谷の生きざまを目の当たりにして「ひとは心の目指すところに向かって生きているのだ、と思うようになった」(352頁)という。示唆に富む。

☆ 術策を駆使しその地位を得た家老は「心がけの良き者はより良き道を、悪しき者はより悪しき道をたどるように思える」(374頁)と述懐する。それを知るがゆえに彼は秋谷を恐れたのであろう。

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「カラマーゾフの兄弟」

2019-12-10 16:28:18 | Weblog
☆ 高野史緒さんの「カラマーゾフの妹」(講談社)を読み始めたら、NHK「100分de名著」でドストエフスキーの「カラマーゾフの兄弟」が取り上げられていた。

☆ 「カラマーゾフの妹」は第58回の江戸川乱歩賞受賞作。選者の中で東野圭吾さんだけが原典を読まれていなかったとか。

☆ 「カラマーゾフの兄弟」は亀山郁夫さんの新訳が出ているが、5分冊の大作だ。原卓也さん訳の新潮社文庫版は手元にあるが、この字の細かさは還暦を過ぎると辛い。

☆ 大作は青年のうちに読んでおくべきだった。そう言えば今まで読んだ中で一番長いのは司馬遼太郎さんの「竜馬がゆく」(全8巻)、戸川猪佐武さんの「小説吉田学校」(全8巻)、続いて子母沢寛さんの「勝海舟」(全6巻)ぐらいかな。

☆ 今さら読むのも辛いので、「100分de名著」で読んだ気になっておこう。そして「カラマーゾフの妹」。「カラマーゾフの兄弟」は続編を視野に創作されたが、それを書くことなくドストエフスキーが亡くなったので、あとは読者なり、後世の作家に委ねられている。高野さんの作品も一つの解釈か。

☆ 登場人物は複雑でわかりにくいが、「100分de名著」の亀山さんの解説で大分わかってきた。宗教(キリスト教、神の存在)対革命思想(無神論)、生と死、時代を超えて人類が直面する課題が提示されているようだ。そして「父殺し」の犯人は誰か。

☆ 話は変わって、髙村薫さんの「レディ・ジョーカー」(新潮文庫)。上巻の260頁あたりまで読み進んだ。重厚にして面白い。高村さんの文章はリズムがあって読みやすい。

☆ ちょうど薬局を営む物井(ドラマでは泉谷しげるさんが演じられていたかな)が仏壇に備えてあったご飯に麦茶でかけて、瓜と茄の糠漬けで食べるところ。あまりに美味しそうなので、スーパーに走り、ご飯と漬物(季節がら、かぶらの刻みづけ)を買ってきて食べた。シンプルだけれどうまかったなぁ。
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太田愛「天上の葦」から序章

2019-12-09 14:46:41 | Weblog
☆ 太田愛さんの「天上の葦」(角川文庫)から序章を読んだ。本屋に立ち寄って衝動買い。

☆ 太田さんと言えば「相棒」などの脚本を書かれている方だ。「犯罪者」「幻夏」を読みたいと思っていたが、先に本書を読むことにした。

☆ 「天上の葦」序章、渋谷のスクランブル交差点で老人が空を指さすや昏倒し、そのまま絶命した。老人は空に何を見たのか。映像が目に浮かぶようだ。

☆ 裏表紙の解説を見ると公安警察モノらしいが、果たしてどんな展開になるのか。読み進めたい。
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北森鴻「花の下にて春死なむ」

2019-12-08 16:28:06 | Weblog
☆ 北森鴻さんの「花の下にて春死なむ」(講談社文庫)から表題作を読んだ。

☆ 斎場の風景から始まる。句会仲間が亡くなったという。片岡草魚と号するその人物、死因は病死だったが、身寄りがなく、そもそも戸籍もはっきりしない。何かから逃れるように日本中を転々としていたようだ。

☆ 草魚と少々かかわりのあった飯島七緒は彼の遺品をもってわずかに聞いていた彼の故郷を訪れる。彼の失踪の原因を追い求める。

☆ 「花の下にて」は西行の歌。草魚の生き方と重ね合わしているようだ。

☆ 後半、申し訳程度に殺人事件が登場するが、それはあまり気に留めることもなさそうだ。ところで西行の詠んだ「花」は、桜だったかな、梅だったかな。
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綾辻行人「どんどん橋、落ちた」

2019-12-08 09:39:36 | Weblog
☆ 綾辻行人さんの「どんどん橋、落ちた」(講談社文庫)から表題作を読んだ。

☆ 1991年の大晦日午後10時ごろ、原稿の締め切りに迫られ、マンションに缶詰めになっているプロ作家「綾辻」のところに、一人の青年が訪ねてくる。Uと名乗るその人物、見覚えがあるようなないような。彼は自分の作品を「綾辻」に読んで欲しいという。

☆ いわゆる「犯人当て」に「綾辻」は引き入れられる。その「作中作」の題名が「どんどん橋、落ちた」。「綾辻」ともども読者も参加させられてしまう。

☆ さんざん悩んだ挙句、解答を聞いて、「綾辻」ともども「インチキだ。アンフェアだ」「「汚い、卑怯だ」と叫びたくなる。でも楽しめる作品だった。

☆ U君て結局誰かな。そんなこんなで年が明け、テレビでは、染之助・染太郎の芸が始まる頃だろう。
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映画「三度目の殺人」

2019-12-07 23:40:49 | Weblog
☆ 映画「三度目の殺人」を観た。映画を観た後で解釈を論争できるような作品だった。

☆ 三度目の殺人で死刑は必至。殺人犯役は役所さん、それを弁護するのは福山さん。死刑囚の自供はコロコロ変わり、弁護人もそれに振り回される。

☆ 彼は何故、三度目の殺人を犯したのか。いや、そもそも彼は殺人を起こしたのか。

☆ 法とは何か、正義とは何かを考えさせられる。犯人役が役所さんだから、まさか彼が殺人を起こすことはないと考えてしまうが、もしもっと醜悪で、粗暴な人物ならばどうだろうか。判決は案外そうしたルックスや雰囲気で決まってしまうのではと思った。冤罪の落とし穴はそんなところにあるのかも知れない。

☆ 見終わった後で達成感、解放感がない。何かモヤモヤしたものが残る。それが狙いなのだろうか。
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鮎川哲也「五つの時計」

2019-12-07 20:54:32 | Weblog
☆ 鮎川哲也さんの「五つの時計」(創元推理文庫)から表題作を読んだ。

☆ ある殺人事件、容疑者が逮捕されたが、彼は無実を訴えている。鬼貫警部は真犯人の目星を立てるが、その男には完全なアリバイがあった。

☆ 時間トリックを解き明かす面白さ。シンプルなテーマだが読みごたえがあった。1957年(昭和32年)発表の作品だが、今でも十分読める。

☆ 文章がうまい。池波正太郎さんの「鬼平犯科帳」のような心に沁みるエンディングだ。
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泡坂妻夫「DL2号機事件」

2019-12-07 17:33:42 | Weblog
☆ 泡坂妻夫さんの「亜愛一郎の狼狽」(創元推理文庫)から「DL2号機事件」を読んだ。泡坂さんのデビュー作だという。

☆ 飛行機爆破予告。ある人物を殺害することが目的だという。空港は緊急配備、しかし飛行機は無事に着陸。予告犯人は本当にテロを企てたのか、それとも悪戯なのか。

☆ たまたま雲を撮影していたという亜愛一郎が推理をはたらかせる。

☆ 強迫感も行き過ぎればこうなるのか。地震を怯えるあまり、地震が起こった直後の土地に家を建てるとか。サイコロの譬えは、なんとなくわかった気になる。

☆ 冒頭の50年に一度の大地震の描写、それに航空機テロ。予言的な印象をもった。偶然だろうけれど。

☆ 筆の運びは、阿刀田さんの「ナポレオン狂」って感じかな。
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「パリは燃えているか」

2019-12-06 11:28:49 | Weblog
☆ 加古隆さんの「パリは燃えているか」を久しぶりに聴いた。NHKスペシャル「映像の世紀」のオープニング曲だ。

☆ 映像の世紀、20世紀は繁栄と殺戮が同居する荒々しい100年だった。21世紀、人口爆発と資源枯渇の問題、食糧確保や気候変動の問題などこの100年間も荒れそうだ。資本主義と言う仕組みの終焉、格差の拡大。難民問題はゲルマン民族の大移動並みの世界史的インパクトを与えるのだろうか。

☆ フランス、パリでは政府の年金改革に反対する人々が大規模なデモを行ったという。改革には得をする人と損をする人ができる。政治のかじ取りの難しさだ。フランス革命をはじめとして、フランスの人は意外と血の気が多い。

☆ 香港の暴動は中国政府の出方次第というところか。米中の新たな火種にもなりかねない。

☆ 日本でも長期政権に陰りが見えてきた。長期政権の背景や今後の展望について、少し前に新聞に載った政治学者が御厨貴さんのコメントが的を射ていたと思う。徐々にレイムダック化するという。後継なきポスト安倍。火中の栗を拾うのは誰か。

☆ 香港やパリの混乱が飛び火しないか気にかかる。

☆ 鬱屈した人々の憤懣が機に乗じて暴発しそうな雰囲気。ポピュリズム、ファシズム。じわじわと歩みを進めているように感じる。

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