河村顕治研究室

健康寿命を延伸するリハビリテーション先端科学研究に取り組む研究室

腰痛予防に必要なバイオメカニクスの基礎知識

2011-07-27 | 研究・講演
MEDICAL REHABILITATIONに下記の原稿が掲載されました。



腰痛予防に必要なバイオメカニクスの基礎知識
河村顕治
MEDICAL REHABILITATION No.134 7-12 2011.7
腰痛予防とリハビリテーション
全日本病院出版会  発行日 2011-7-15
(概要)バイオメカニクス的には腰痛を予防する戦略としては二つのことが考えられる。一つは腰椎に加わる力を小さくすることである。もう一つは脊椎の分節的安定性を得るためにローカルシステムが確実に働くようにすることである。前傾姿勢で重量物を持ち上げる時には、腰椎には外的モーメントとして上体部の重みと重量物が働き、これを打ち消すように内的モーメントとして背筋群が働く。この時腰椎を保護するメカニズムとして考えられたのが腹腔内圧理論と後方靭帯系理論である。腰椎の安定には受動的な骨性安定メカニズム、能動的な筋肉の収縮による安定メカニズムとこれらをコントロールする神経学的コントロールによる腰椎安定メカニズムの3つの要素が存在する。その中でもローカル安定化メカニズムとしてローカル筋群に分類される腹横筋と腰部多裂筋の同時収縮が注目されている。
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健康教室2011年7月増刊号(東山書房)

2011-07-27 | 医学・医療
健康教室2011年7月増刊号【第62巻 第9号(通巻918号)】(東山書房)
養護教諭のための教育実践に役立つQ&A集
保健指導をめぐる疑問・質問を中心に
   chapter 04 救急処置にともなう保健指導


Q. けがの処置で湿潤療法がなかなか定着しません。本当に効果がありますか?また、必要ですか?
 湿潤療法については保護者に伝えていますが、「乾かしたほうがいい」という方もあり、なかなか定着しません。子どもによっては化膿しやすい場合も見られ、いつまでもグジュグジュしているため、結局、受診を勧めることになります。本当に傷が治るのか、本当に効果があるのか疑問です。
 また、子どもが家庭で市販の絆創膏(キズパワーパッド)を貼ってきて、「化膿した液が垂れてくるので交換してほしい」と保健室に来ますが、学校では限られた予算内でこの高価な絆創膏を買うことができません。

A. 消毒してガーゼを当てるというこれまで当然のように行われていたけがの処置は、湿潤療法が広まってきて急速に見直されてきています。傷を消毒してガーゼを当てるという処置は、痛みを伴い治りも遅くするということが分かってきたからです。家庭や学校でも湿潤療法によるけがの処置が徐々に普及しています。(参考文献1参照)

家庭や学校で処置できるけがと医療機関へ行くことが勧められるけが

 まず最初に医療機関に行くべきけがについてまとめておきます。ガラスの破片や砂など小さな異物が取りきれないとき、動物にかまれたとき、ズキズキと痛むとき、出血が止まらないときなどは、医療機関へ行くことが勧められます。化膿しそうな傷や化膿してしまった傷も医療機関へ行くべきです。感染の兆候としては傷の周辺が赤く腫れて熱を持ち、痛みを訴えるようになります。
 家庭や学校での治療は、軽度の擦り傷や切り傷に限って行うべきであり、その場合でも化膿が発生した場合は速やかに医師の診察を受ける必要があります。また、破傷風予防の観点から、軽度の擦り傷を除く野外での創傷、特に木の枝や錆びた釘、鉄条網などによるけが、動物による咬創などは、たとえ外観上は軽度の傷に見えても比較的深く、傷口の奥深くまで異物や細菌が入り込んでいるため、傷口の洗浄の上、時として開放創としてドレナージを行う必要があるため、外科系医師の受診が必要です。
 家庭や学校で処置できるけがが軽度の擦り傷や切り傷に限られるという点が、湿潤療法を行って本当に効果があるのか疑問を感じる原因だと考えます。つまり軽度の創傷であれば消毒をして従来の絆創膏を貼っても湿潤療法と同じように治るからです。医療機関で処置を行うような傷の方が湿潤療法の効果を実感できます。(参考文献2参照)

湿潤療法の基本

 湿潤療法の処置の仕方はいたって簡単です。「感染予防のため水道水などで丁寧に汚れを落とす」「消毒はしない」「乾かさないように被覆材で覆う」という3つの基本を守るだけです。傷を覆うのに使う被覆材はガーゼではなく、一般的には「ハイドロコロイド」というこれまで医療用で褥瘡治療などに使われてきたものが適しています。2004年3月より家庭用衛生用品の大手であるジョンソン・アンド・ジョンソンからハイドロコロイドでできた被覆材が絆創膏(キズパワーパッド)として発売されました。この商品はシート状になっていて外側が防水のためのポリウレタンフィルム、内側が親水性コロイド粒子を含む粘着面になっています。創面のコロイドが水分を吸収してゲル化します。傷をよく洗った後、ハイドロコロイドを当てて、適度な湿潤状態に保つだけで、痛みも少なく早く治るのです。しかも、かさぶたを作らずあとが残りにくいというメリットもあります。

湿潤療法の理論
 湿潤療法は創面を適度な湿潤環境に維持することで細胞の増殖を促進しようとするものです。従来の消毒とガーゼの方法では、乾いた痂皮の下側でかろうじて肉芽の形成が起こるだけでした。毎日ガーゼを交換するとせっかく形成された肉芽が引き剥がされるばかりか、消毒液による細胞毒性により大幅に創傷治癒は遅延することが明らかとなってきました。創傷が治る過程には、傷口からしみ出てくる体液(滲出液)に含まれる細胞増殖因子が重要なのです。つまりガーゼを当てると、せっかくの滲出液が吸収されてしまうので、治癒が阻まれてしまうというわけです。また、けがにより欠損した皮膚は、傷の表面を上皮細胞が増殖して遊走することで再生します。このとき、湿った環境にある方がたやすく移動できるので、なめらかな皮膚が早く再生されるというわけです。ガーゼを当てて傷を乾かすというこれまでの治療では、上皮細胞の移動も阻まれるため、再生は遅れ、傷あとが残る原因にもなります。さらに、ガーゼは傷にくっつきやすいので、ガーゼ交換の際、新たに再生した皮膚をはぎとってしまうというデメリットもあります。
 一方、消毒薬については、細菌だけでなく、傷を治すのに必要な細胞まで殺してしまうのが問題です。傷に感染を起こすためには大量の細菌が必要なので、通常は、水道水でよく洗い流して菌を減らせばよいということが判っています。また、芽胞形成菌にはエタノールなどの一般的な消毒薬は無効で、水道水で洗い流すことが最も効果的です。さらに、ごく少ない細菌でも、傷に異物などがあると感染が起こることが知られているので、ごみや異物はよく洗い流すことが大切です。かさぶたやガーゼのほつれた糸なども異物となります。

ハイドロコロイドでできた被覆材には欠点もある
 創傷被覆材は傷そのものに対しては高い治療効果を持ちますが、傷周囲の正常皮膚に発赤を起こす事はよくありますし、夏場ではアセモができて困ることもあります。要するに通常の絆創膏に比べれば皮膚障害は少ないものの、長い時間貼り続ければ何がしかのトラブルは避けられません。ハイドロコロイドでできている絆創膏(キズパワーパッド)を外傷に使うと非常に効果がありますが、上述のような発赤が起きたり、融解して溶けだすと液が垂れたり独特の臭気が出たりして不快なことがあります。この時溶け出した液は膿ではありませんので化膿を心配する必要はありませんが、気持ちの良いものではありません。他の被覆材でもさまざまな欠点があります。傷の処置に理想的な創傷被覆材とは安価で、どのような部位にでも簡単に貼れて、正常な皮膚への影響が少ないものでしょう。現状ではプラスモイストがこれに最も近いように思われます。プラスモイストは2007年10月より一般向けに発売が開始された安価な創傷被覆材です。シート状であり傷口の大きさ、形状に応じてハサミで自由にカットして使用できます。創の乾燥を防ぎ、貼り付きにくいためはがす時の痛みがありません。さらに適度な吸収力があり、周囲の皮膚がムレにくく発赤を起こすこともありません。(参考文献3参照)

参考文献
1.救急処置「なぜ・なに事典」外傷編1(湿潤療法を中心として) 第3版
編著:大谷尚子・中桐佐智子・岡田加奈子 著:河村顕治 
東山書房(京都), 2009.7.5
2.http://kawamura-md.jimdo.com/創傷の湿潤療法/
著者の臨床での治療経験をまとめてあります。湿潤療法がいかに効果的か実感できると思います。
3.http://www.wound-treatment.jp/title_hihukuzai.htm
ドラッグストアや薬局で購入できる傷治療用被覆材をまとめてくれています。プラスモイストについても説明があります。

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