『ザ・コマンダー 第6傭兵部隊』
(原題 MISTER BOB/ 製作年度
2011年/上映時間103分/フランス)
戦争映画というよりは、あの
1960年代コンゴ動乱以降のコ
ンゴのどろどろした政治劇を
描いたような映画だ。
一番気になったのがキャステ
ィングだ。
コンゴのフランス系傭兵「第6
コマンド」を率いたフランス
人傭兵ボブ・ディナール役の
俳優があまりにも実在のディ
ナール少佐に似ていないのだ。
映画
実在の本人。
実在のボブ・ディナールは長
身で伊達男であるが、映画の
俳優はとても背が低くずんぐ
りむっくりしているし、顔も
丸すぎる。イメージがかけ離
れ過ぎているのである。
例えば、チェ・ゲバラやヒト
ラーが映画に出て来た場合、
風貌が似た俳優もしくはメイ
クで似せるように演出する。
ある映画に出て来たレーニン
などは本物以外には見えなか
った(『レッズ』だったかも
しれない)。
まだ顔はメイクでなんとかな
るが、身長だけはどうしよう
もない。長身のディナールを
身長が低い俳優に演じさせる
のはどうかと思う。
逆に、第6コマンドのディナ
ールをけちょんけちょんに無
能だと罵っていた第5コマン
ド「ワイルド・ギース」隊長
のマイク・ホアー中佐は身長
が低いので、仮に映画でホア
ーを演じる俳優さんがジェー
ムス・コバーンやイーストウ
ッドのような高身長の俳優だ
ったらこれもまったくイメー
ジが合わないだろう。
一方、コンゴ動乱の後、クー
データーで実権を握ったモブ
ツ大統領はどうか。
映画
現実
黒人だったら配役は誰でもい
いという訳ではないだろうに、
と思ったりもする。
映画のモブツはガリガリに痩
せている高身長の俳優で、こ
れまた実物とは似ても似つか
ない。むしろ役者のほうはモ
ブツが裏切るように逮捕拘束
して死亡させたアフリカの統
一を願っていた指導者ルムン
バの容貌に近い。現実のモブ
ツはアフリカの暗黒面を代表
する凶暴な独裁者だ。
似ても似つかない俳優がまる
で役柄が憑依したように演じ
て観客を魅了するのは歌劇な
どではよく見られる俳優の演
技力なのだが、このお話はそ
うした舞台劇ではなく部隊劇
である。容貌にリアルさを欠
いていては、ストーリー以前
に人物像のイメージが重なら
ない。
たとえば、チェ・ゲバラの役
がマツコ・デラックスだった
らイメージが沸かない。
また、俳優のみならず、現実
世界の戦争のプロたちは、場
面場面でその表情が大きく異
なるので、キャスティングに
はそうした細かい所まで演じ
きれる技量を持つ俳優のキャ
スティングという配慮が必要
になってくるだろう。
例えば、有名なコンゴの傭兵
隊長のマイク・ホアーだが、
まったく別人のような面持ち
を見せている。
これなどは眼光は鋭いが、オフ
タイムの公認会計士のホアー氏
の雰囲気、兵士ではなく冒険家
であり作家であった氏の雰囲気
がよく出ている写真だ。
だが、戦地でのこれなどは、
まさに「マッド・マイク」
(殺しまくるので共産主義
者たちからそう呼称された)
そのものの顔である。
コンゴでのホアー中佐
(のち大佐)。
第5コマンド ”ワイルド・
ギース”実物。
映画『ワイルド・ギース』で
は、マイク・ホアーの役をリ
チャード・バートンが演じた
が、最高の演技だった。
ホアーそのもの、生き写しで
あり、この映画作品の出来栄
えのうち、名優リチャード・
バートンの演技には軍事アド
バイザーで作品製作に参加し
たホアー氏自身も大変に満足
していたとのことである。
バートンの凄さは、モノマネ
ではなく自分の演技なのだが、
ホアー独特のどもりがちに早
口で言うところや、舞台劇が
かった大仰な言いまわし等を
細かく超リアルに再現してい
たところだ。それをモノマネ
などではない俳優バートンの
演技として演じていた。文字
通りの名優の名演が見られる
のが映画『ワイルド・ギース』
なのである。
特に『ワイルド・ギース』の
中でバートンの演技がキラリ
と光って見えたのが、契約の
際に銀行王の富豪マターソン
卿との別れ際「もう二度と会
うことはないだろう」と富豪
が言ったことに対して、バー
トンが演じるアレン・フォー
クナー大佐はニカッと不敵な
笑いを見せるのだ。この笑い
こそ、まさに人殺しの戦争屋
の笑いであり、全く同じ笑い
は劇画『ワイルド7』の中で
主人公飛葉大陸が敵の口の中
に銃口を突っ込んで射殺する
瞬間に見せている。
そして、この「笑い」は戦争
屋の笑いであるのだ。戦争屋
にしかできない、戦争屋しか
しない「笑い」なのだ。
それをリチャード・バートン
は台詞のない一瞬の演技で演
じきった。
私はそれを観て、心底唸った。
ほかにも、ロジャー・ムーア
の普段の素と変わらぬオトボ
ケぶりや、リチャード・ハリ
スのこれまた名演ぶりも『ワ
イルド・ギース』では観られ
る。俳優が充分に演技をして
いる良作が同作品の特徴だ。
リチャード・ハリスの台詞回
しにリズムがあるのは、彼が
歌手であったからかもしれな
い。
ただ彼の演技の真骨頂は『ハ
リーポッター』でもなく、ま
さに『許されざる者』でのイ
ングリッシュ・ボブの役どこ
ろでの名演だ。
映画『ワイルド・ギース』の
製作においては、二人のリチ
ャードがいるので、チャーリ
ー1、チャーリー2というあだ
名で製作中は皆によばれてい
たとのことだ。チャーリー1
がバートンである。
実物マイクホアーの自著。
イラストが妙に似ている。
さて、映画『ザ・コマンダー
第6傭兵部隊』なのだが、邦
題というのは
どうしてこういつもダサいの
だろう。
特に西部劇がひどすぎる。
「荒野の~」をつければ西部
劇(笑
まるで「殺人事件」をつけれ
ばミステリー小説になる、と
いうくらいに安直でテケトン
大魔王を日本人はよくやらか
すのだ。
そして、洋画の題名を邦画タ
イトルで決定する時のその題
名の陳腐さといったら、どう
言えばいいのか、どうしよう
もないほどに手抜き作業のよ
うな題名が多くつけられる。
「底抜け二丁拳銃」なんてい
うのはまだスパイスが利いて
いるほうだ(笑
『ワイルド・ギース』が「野
雁」とかにならなくてよかっ
たと思っている。
この『ザ・コマンダー 第6傭
兵部隊』の題名もダサすぎる。
原題は「MISTER BOB」だ。
フランス語ならばムッシュ・
ボブ。
2011年のフランスのテレビ映
画なのだが、原題がムッシュ
ではなくミスターにしている
のだからそれはよいとして、
「ザ・指揮官 第6傭兵部隊」
というのさすがにセンスがな
い。
この映画作品は、ボブ・ディ
ナールの苦悩を描いた作品だ
からだ。
現実世界ではホアー中佐から
は毛嫌いされていたディナー
ルだが、映画ではそのディナ
ールの1960年代末期のコンゴ
での心の葛藤を描いているの
である。
実際のディナールは、その後
某国の実質的支配者として君
臨したが、後にフランス国家
によって逮捕され起訴されて
いる。
判決の翌年に家族に見守られ
ながら高齢で息をひきとった。
認知症がかなり進んでいたと
のことだ。
だが、「消息不明」になるの
が傭兵の常であるのに、家族
に見守られながらベッドの上
で息を引き取るなどというの
は、まるで幸せな人生を送っ
た一般人と同じであるので、
なんだか似合わない。
有名な傭兵でも多くは「消息
不明」になっている。それは
まるで、剣豪塚原卜伝や柳生
十兵衛の最期がまるで不明で
「行方知れず」のままであっ
たのに似ている。歴戦の「戦
闘者」の本当の最期は、いつ
のまにかひっそりと人知れず
死んでいくのが一番似合って
いると思う。
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兵部隊』を無料配信前に観よ
うと思ったのは、FALがやたら
出てくるからだ。装備はかな
りリアルで、テレビ映画にし
ては相当に気合いが入ってい
る映像作品だ。銃はリアル。
このシーンだけ、何故か裏焼
き挿し込まれる。カメラワー
ク位置取りの失敗だろう。
こうやって裏焼きにして瞬間
的に方向性の整合性をつける
ごまかしは『クイック・アン
ド・デッド』の決闘シーンで
もみられた。
だが、違和感ありありだ(笑
それは、ベレーの向き、銃の
左右の向き、服の前合わせが
逆等々、すぐに一瞬で看破で
きることだからだ。
銃の排莢口の向きとボタン合
せの向きをちゃんと見れば、
ビリー・ザ・キッドが左利き
であったなどという世迷言の
迷信は流布されなかっただろ
うに。
日本の幕末には、当時の写真
が逆焼きなので、あえて着物
の合わせを逆にして、刀を右
腰に差して撮影したのが読め
てしまう写真もある。
見抜き方は簡単だ。違和感を
右脳で感知すればいいだけ(嘘
それから左脳で詳細に論理的
に視察して行く。すると真実
が見えてくる。
日本刀の観方と同じである。
この映画での第6コマンドは
全員仏軍仕様(似ている物)
のリザード迷彩なのだが、ヘ
ッドギアは後部フラップ付キャ
ップとベースボールキャップの
二種類が使用されている。
主要メンバー(下士官)は白
人のフランス人であり、これ
はリアルだ。
ただ、黒人兵士が少なすぎる。
実際の第6コマンドは、黒人
部隊だったからである。軍律
厳しかったワイルド・ギース
などに比べると規律は甘く、
戦闘後の略奪は目に余るもの
があったと伝え残されている。
フランス軍のインドシナ・ナ
イジェリアでのリザード迷彩
ではないことが見える。
ベースボールキャップ型の帽
子を着用。
これはいささか1960年代末期
の仕様には見えない。銃はベ
ルギーのFN FALである。
やはり、莫大な製作費をかけ
た劇場映画ではなくテレビ映
画なりのスケールの小ささは
ある。自主製作映画のような
映像作品になっているし。
ただ、どうしてもフィリピン
で玉撞きとかやっていそうな
風貌のおっちゃんが主役のボ
ブ・ディナールであるという
のが似合わなすぎて、ショボ
ーンなのであるが、俳優さん
自身は演技力があるので、ど
うにかカバーしている。まあ
主役に抜擢されるだけのこと
はある。
面白かったのが、モブツの役
をやった俳優さんの演技で、
これは映画『戦争の犬たち』
で黒人独裁者を演じた黒人俳
優の演技とキャラの作り方に
そっくりなキャラクタを演じ
ているところだ。
『戦争の犬たち』でも『ワイ
ルド・ギース』でもモブツと
対立するチョンベに相当する
配役は同じ俳優ウインストン・
ヌシュナが演じている。
『ワイルド・ギース』での
リンバニ大統領役(インスト
ン・ヌシュナ)
『戦争の犬たち』でのオコーヤ
大統領(インストン・ヌシュナ)
映画『戦争の犬たち』のオープ
ニングシーン
この時代、世界中がこうだっ
た。
アジアでは韓国で軍事独裁政
権が市民を大虐殺し、また東
南アジアでも内戦が激しさを
増していた。
日本国内では三里塚において
殺し合いの戦いが継続されて
おり、警察も空港建設反対派
学生を射殺し、また反対派も
警察官を戦闘中に三名殺害
(1個大隊全滅)していた。
当時の日本の国内状況。
空港反対派を傷めつける国家
権力の暴力装置。
老人子供でも容赦なくズタボロ
になるまでテロを「公務」とし
て実行する機動隊。
機動隊に突撃する抵抗戦線の
学生闘士たち。
この時代の渦中に私はいた。
モロにこの時代の中で「同時
代性を獲得した一部」として
生きていた。世界の人と共に。
だが、映画『ワイルド・ギース』
で、レイファー・ヤンダース中
尉(リチャード・ハリス)は吐
き捨てるようにこう言った。
彼の言葉は、実は真実だ。
「何度裏切られたことか?
救世主のために戦い、人を殺
しても、権力を持てばただの
盗っ人に豹変する!
この世に善人はいるのか?」
(レイファー・ヤンダース中尉)