【「コミカン」とも、紀伊国屋文左衛門が船で江戸へ】
ミカン科ミカン属の常緑低木。5月頃、径2cmほどの真っ白な5弁花をびっしり付け、秋に手のひらにすっぽり収まりそうな小ぶりの果実が実る。柑橘類の中では最も小さく「コミカン(小蜜柑)」とも呼ばれる。果皮が薄く酸味が弱くて甘いが、房ごとに種があるのが特徴。今でこそミカンといえばウンシュウ(温州)ミカンを指すが、明治の中頃まではこれが柑橘類の代表格だった。「種なし」のウンシュウミカンは子孫が途絶えるに通じることもあってその当時忌み嫌われていたそうだ。
キシュウミカンが中国南部から日本に渡来したのは700年ほど前のこと。現在の熊本・八代地方に伝わり、その後、安土桃山時代に和歌山・有田地方に移植されて盛んに栽培されるようになった。元禄時代に紀伊国屋文左衛門が嵐の中を船で江戸まで運んで大金を手にしたとされるのもこのミカンだった。学名は「Citrus kinokuni(シトラス・キノクニ)」。鹿児島県の桜島で栽培されている「桜島小みかん」が世界一小さいミカンとしてギネスブックに認定されたが、これもキシュウミカンとほぼ同一の品種とみられている。
キシュウミカンはその後登場したより大きなウンシュウミカンに圧倒され最近では影が薄い。ただ、今も和歌山や鹿児島などで栽培され、葉付きミカンはダイダイの代わりに正月飾りなどにも使われている。鹿児島では10年ほど前から「桜島種なし小みかん」も流通しているそうだ。そのキシュウミカンが実はウンシュウミカンの〝産みの親〟だったのかもしれない。国立研究開発法人農研機構が4年前の2016年12月、DNA鑑定の結果としてキシュウミカンがウンシュウミカンの種子親(母親)、同じ柑橘類の仲間のクネンボが花粉親(父親)と推定されると発表したのだ。
キシュウミカンは老木になっても樹勢が衰えることなく、樹齢を重ねた巨木が各地に残る。大分県津久見市の「尾崎小ミカン先祖木」(国指定天然記念物)は樹齢800年といわれ柑橘類の中で国内最古。静岡市の駿府城公園の「家康手植えのミカン」(静岡県の天然記念物)は徳川家康が将軍職を退いて駿府城に隠居の折、紀州藩から献上されたという。愛媛県今治市の「名駒のコミカン」と「盛口の小ミカン」はいずれも県指定の天然記念物。「潮風の止めば蜜柑の花匂ふ」(瀧春一)