【33人の作品90点…桂ゆき・前田常作・草間彌生・白髪一雄】
臨時休館中だった奈良県立美術館が19日に開館、特別展「熱い絵画―大橋コレクションに見る戦後日本美術の力」(7月5日まで)が開幕した。この特別展は当初4月18日から始まる予定だったが、コロナの影響でほぼ1カ月遅れとなった。奈良県立美術館と国立国際美術館、京都工芸繊維大学美術工芸資料館の3館が分散所蔵する大橋コレクションの中から、戦後間もない1950~60年代の選りすぐりの作品90点が並ぶ。
大橋コレクションの収集者は1928年大阪に大橋焼付漆工業所(現大橋化学工業)を創業した大橋嘉一氏(1896~1978)。1950年代後半から70年代初めにかけ絵画や版画、彫刻など現代美術作品を精力的に収集した。総数は約2000点に及ぶ。それらの作品群は没後、奈良・大阪・京都の3館に寄贈された。このうち奈良県立美術館は絵画約500点を収蔵する。京都工芸繊維大学は大橋氏が卒業した旧制京都高等工芸学校の後身。コレクションの一部とはいえ、3館の作品が一堂に会するのは今回が初めてという。
館内は関連展示も含め6つのコーナーで構成する。第1展示室には戦前から創作活動に取り組んでいた世代の作家、桂ゆきや小山田二郎、杉全直(すぎまたただし)、須田剋太らの作品が並ぶ。具象より抽象中心ということで少し身構える部分もあったが、最初の桂のユーモラスな作品「ふくろう」に癒やされ心が軽くなった。桂は終戦直後の1947年に旗揚げした「女流画家協会」の設立者の一人。第2展示室は戦後本格的に創作を始めた江見絹子、津高和一、前田常作らの作品を取り上げる。江見は1962年、ベネチア・ビエンナーレに初の日本代表の女性作家として参加した。小説家荻野アンナは長女。津高は阪神大震災で自宅が倒壊し不慮の死を遂げた。
第3展示室で紹介するのは日本を脱出し欧米の前衛美術の波に身を投じた今井俊満や草間彌生、宮脇愛子らの作品。草間は無限増殖する水玉やカボチャの作品で人気を集めているが、展示作は25歳の頃の初期の小品。青や緑色にぼんやり輝く光の輪の中に、下から細い線が直立し先端から数本のジグザグの線が伸びる。なんとも不思議な構図と色使いだ。第4室には岩崎巴人、大野俶嵩(ひでたか)、長崎莫人ら日本画の伝統に拘泥せず変革に挑戦した作家たちの作品が並ぶ。
第5室は大阪の前衛集団「具体美術協会」を代表する白髪一雄と元永定正の2人の作品だけで全スペースを占める。白髪は素足で絵具を塗り付ける躍動的なフット・ペインティングで有名。大橋コレクションの白髪作品約180点のうち121点を奈良県立美術館が所蔵しているそうだ。第6室は「奈良の現代作家―館蔵品から」と題した関連展示コーナー。大橋コレクションには含まれないが、大橋氏が生前に東京藝術大学に寄付して設けられた「大橋賞」の受賞者で奈良出身の絹谷幸二や金森良泰の作品などを展示している。館内には戦後の混乱期の中で新しい価値観や存在感を求めて模索し挑戦する画家たちの息吹があふれていた。