【標高世界1、2位への〝道程〟を活写】
写真家・登山家・作家などとして精力的に活動する石川直樹氏の写真展が入江泰吉記念奈良市写真美術館(奈良市高畑町)で始まった。2回目のエベレスト登頂(2011年)とK2(標高世界2位)への2度の遠征(2015年と19年)のときに撮影した写真約50点が展示されている。会期は当初4月11日~7月5日の予定だったが、新型コロナウイルスの影響で延期となり6月1日~8月23日に変更された。
石川氏は1977年東京生まれで、23歳の2001年に七大陸最高峰登頂を成し遂げた。これは当時の野口健氏の世界最年少記録を破る快挙。人類学や民俗学などに深い関心を抱き辺境から都会まで幅広く旅を続けながら作品を発表してきた。2008年には『最後の冒険家』で開高健ノンフィクション賞、11年には『CORONA』で土門拳賞、そして今春には『EVEREST』など一連の作品や活動で日本写真協会賞作家賞を受賞した。数年前からは「日本列島」プロジェクトとして都道府県別47冊の写真集出版にも取り組んでいる。
会場入り口には「山は人間が生き延びるための 根源的な叡智を 引きずり出してくれる」と記した大きなパネル。その奥には半円形の巨大テントがあり、中に石川氏の大判写真集『EVEREST/K2』が置いてあった。展示写真には聳える山岳や雄大な自然のほか、シェルパやポーター、麓の村人たち、荷を運ぶ馬などの写真も目立つ。
石川氏は世界最高峰エベレスト(8848m)には2001年に北壁から、10年ぶりの11年には南東稜から登頂に成功している。だが〝魔の山〟とも形容されるK2(8611m)には昨年7月、頂上まであと約600mと迫りながら今回も雪の状態からサミットプッシュ直前に断念せざるをえなかった。石川氏は「山の9割方を登っての撤退は実に無念だった」と振り返る。ただ、その直後にはガッシャーブルムⅡ峰(K4、8035m)の登頂に成功している。会場ではエベレスト登頂などの際の動画も放映中。標高が8000mを超えると酸素濃度は平地の3分の1になる。石川氏の苦しげな表情からもその過酷な状況が伝わってきた。だけど山頂に着いたときには表情が緩んで「いやぁ、うれしいわ」。その短い言葉に達成感が凝縮されていた。
ネパール政府は今年3月、コロナウイルス感染防止のためエベレストを含むヒマラヤ登山の許可証発行を停止した。石川氏は遠征時にお世話になったシェルパのことを思い浮かべながらこう記す。「一年のうちで登山者やトレッカーが最も集中する春の観光シーズンの稼ぎで家族を養い、一年の生計を立ててきたシェルパたちのことを思うと胸が痛い。荷運びを生業とするポーターや家族経営のロッジ、その従業員たちにとっても今は一番つらい時期だろう」。そしてこう結んでいる。「彼らはこれくらいで生活が立ち行かなくなるほどやわじゃない、と信じたい自分もいる」