く~にゃん雑記帳

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<堂本印象美術館> 特別企画展「山口華楊―いのちに心をよせて」

2022年10月13日 | 美術

【代表作の「洋犬図」「黒豹」など50点余】

 京都府立堂本印象美術館(京都市北区)で、動物画を得意とした日本画家、山口華楊(1899~1984)の代表作を集めた特別企画展「山口華楊―いのちに心をよせて」が始まった。第1回新文展に出品し政府買い上げとなった「洋犬図」をはじめ「黒豹」「仔馬」などの有名な作品が一堂に。これらに一部、下図や素描も加え54点が展示されている。鋭敏な写実性の中に気品があふれた華楊の世界を堪能するまたとない機会だろう。11月23日まで。

 会場の美術館は大正~昭和に活躍した日本画家、堂本印象(1891~1975)が自ら建物をデザインして1966年に開館した。華楊は堂本の8つ年下だが、同じ京都市立絵画専門学校(現京都市立芸術大学)で学び、二人とも京都・衣笠を活動拠点とした。1936年には堂本が母校の教授、華楊が助教授に就任している。会場の一角には美術館開館日にやって来た華楊の写真も飾られていた。

 代表作「洋犬図」は38歳のときの作品。華楊はこの絵を描くため、美しい大型犬のボルゾイを探し求め東京まで出かけたという。「猿猴(えんこう)」は少し前の36歳の頃の作品で、ニホンザルの親子が樹上でくつろぐ表情が繊細なタッチで描かれている。その絵を見ているうちに高島屋史料館(大阪市)で開催中の「画工画(がこうが)展」に出品されている「夜桜に猿」「紅葉に猿」が頭をよぎった。対とみられるこの2点は美術染織品用の下絵で署名や印がないため作者は不詳だが……。今回の企画展には「玄花」など高島屋史料館所蔵の5点も出品されている。

 「黒豹」を描いたのは55歳のとき。京都の動物園で初めて黒豹を見て興味を持った華楊は「多くの仲間を見なければ気が済まない」と、東京・名古屋・大阪・神戸に足を運んだ。その中で一番気に入ったのが大阪・天王寺動物園の黒豹。半月ほど毎日京都から大阪に通っては1日中写生を続けたという。「仔馬」は「黒豹」の翌年の作品で、日本芸術院賞を受賞した。華楊は当時の心境をこう書き残している。「迷いというものの中には、いい絵を描きたいという欲もある。その欲が消えて虚心に画布に向かうことができるような気がしてきた」

 展示作品の中には75歳、今でいう“後期高齢者”になって以降のものも多い。「茄子」(76歳)、「行潦(にわたずみ)」(78歳)、「幻化」「玄花」(80歳)、「雨歇(や)む」(81歳)、「原生」(82歳)、「十六夜満月(素描)」(83歳)……。これらの作品を眺めながら、ふと江戸時代の浮世絵師葛飾北斎の言葉が浮かんできた。「八十歳でさらに成長し、九十歳で奥義を極め、百歳で神妙の域に達するだろう」。華楊も晩年までそんな心持ちだったのかもしれない。

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