【各地で「かきくらべ」100人超の男衆で差し上げ】
愛媛県新居浜市で「新居浜太鼓祭り」が10月16~18日(一部地域は15~17日)にぎやかに繰り広げられた。徳島の阿波踊り、高知のよさこい祭りとともに四国を代表する祭りの一つ。この3日間、市内は金糸の刺繍で彩られた太鼓台54台が練り歩いて祭り一色に塗りつぶされた。最大の見どころは3トンもある太鼓台の差し上げ。男衆が「かき棒」を頭上高く持ち上げると、観客から大きな拍手が送られた。(写真手前の太鼓台は36年ぶりに新調した「岸之下太鼓台」、奥の「松木坂井太鼓台」も30年ぶりに新調=JR新居浜駅前で)
新居浜の太鼓台を生で初めて目にしたのは3年前、2019年9月に松山城のそばで開かれた「大神輿総練(そうねり)」のときだった。新居浜太鼓台の参加は1台だけだったが、その豪華さと勇壮な姿に感激、ぜひ現地で祭りを見たいと思っていた。ところが新型コロナで2020年、21年と2年続けて中止に。今回ようやく念願が叶った。16日新居浜に着いて初めて目撃した太鼓台が、偶然にも松山で見た「口屋太鼓台」(下の写真)だった。その光り輝く金糸刺繍の飾り幕に改めて目を奪われた。
新居浜の太鼓台は高さが5m前後もある。最上部を飾るのは紅白の球形の天幕。太陽の輝きを表しているという。飾り幕は上から布団締め・水引幕・高蘭幕の3段。布団締めには一対の龍が4面に刺繍され、その下の幕も御殿や武者絵、唐獅子・虎・鷲・鷹・鯉などの禽獣が金糸で縫い施されている。その厚みのある立体刺繍はまさに絢爛豪華そのもの。同時に「かき棒」の長さにも驚いた。12~13mもある4本の丸太の棒が太鼓台を貫く。(下の写真は「岸之下太鼓台」の飾り幕)
各太鼓台の運営を支えるのは自治会や青年団。地域は市内中心部を流れる国領川を境に大きく川東、川西、上部の3地区に分かれる。16日は上部地区の中の角野地区の太鼓台4台による早朝の内宮神社「石段かきあげ」から始まり、地区ごとに太鼓台が集まって夜遅くまで「かきくらべ」や「夜太鼓」が繰り広げられた。
川西地区では午後5時から「市制施行85周年記念」と銘打って13台がメーンストリートの昭和通りに結集。1台ずつ太鼓に合わせて晴れ姿を披露し、差し上げにも挑戦していた。台上で「かき夫」に指示を送る男性たちは「指揮者」と呼ばれる。前後に2人ずつ計4人が担ぎ棒の上に乗って、笛と手旗で合図を送る。差し上げなどの演技の成否も、かき夫の人数と腕力もさることながら指揮者4人の呼吸にかかっているようだ。昭和通りでの夜太鼓は約2時間続いた。太鼓台13台はその後9台と4台に分かれ次の会場(スーパー2店の駐車場)に向かった。
翌17日にも午前中から各地ごとにかきくらべが行われた。川東地区の会場は愛媛労災病院西側の河川敷公園。午前10時、花火を合図にまず9台が次々と広場に入ってきた。ただ天気はあいにくの小雨模様。このため多くの太鼓台が雨よけシートで覆われていたが、約1時間後、次の7台が姿を見せ始めた頃には幸い雨も上がっていた。
各太鼓台が差し上げに挑戦したが、前日の川西地区の夜太鼓同様、なかなか頭上まで上がらず苦戦するところが目立った。新型コロナの影響でかき夫の人数がそろわなかったのが一因とも。会場が盛り上がりを見せたのは後半に登場した太鼓台同士のぶつかり合い。太鼓台が突進して担ぎ棒の先端をぶつけ合った。これを「端管合わせ」と呼ぶそうだ。その迫力のある瞬間を間近で見ようと、多くの観客が太鼓台を取り巻いた。衝撃で台上の指揮者が落ちそうになる場面もあった。
この太鼓祭りは別名「喧嘩祭り」ともいわれる。川東地区のかきくらべでは交通整理の警察官に加え数十人の機動隊員が警戒に当たっていたが、幸いほぼ平穏のうちに終わった。ところが同じ17日の午後13台が参加して行われた川西地区でトラブルが発生した。新聞報道によると、このかきくらべの最中、太鼓台の激しいぶつけ合いや喧嘩で10人が負傷し救急搬送されたという。かき棒がへし折られた太鼓台があるとの報道も。その結果、祭り最終日の18日に予定されていた一部のかきくらべが中止されることになったそうだ。
祭り見物に行くと、掛け声や太鼓・鉦・笛などのお囃子がしばらく耳に残って頭を駆け巡ることが多い。新居浜太鼓祭りではかき夫や指揮者の「チョーサジャ」(チョーサは「太鼓」のこと)「ソーリャ、ソーリャ」「上げるぞー」といった掛け声と「ドン・デン・ドン・空白)」という4拍子の太鼓の音。それに各会場で繰り返し流されていた都はるみのこぶしの利いた新・新居浜民謡の『ちょおうさじゃ』。「ちょおうさじゃ ちょおうせじゃ」で始まり「太鼓台(たいこ)見に行こ稲穂も黄金 男まつりは日本晴れ よいよ立派(ええ)ぞなにいはま太鼓台(だいこ)……」。都はるみの声が随分若い。調べてみるとレコードの発売はほぼ半世紀前の1973年だった。(下の写真は30年ぶりに新調し1週間前にお披露目したばかりの「松木坂井太鼓台」)