『やる気を引き出す子育て・教育』(田中敏夫著)を読まれた臨済宗龍澤寺住職・水田全一さんより寄せられた読後感を紹介します。ありがとうございました。
著者は40年にわたり神戸市内の小学校に勤務し、その間「神戸作文の会」の創立、「神戸子どもを守る会」の活動に加わり、現在はその副会長として活躍しています。
この期間はちょうど「道徳教育のなかで『愛国心』がどのように位置づけられてきた」(176~177頁)のかと整理されているように、日本国憲法と教育基本法にもとづく戦後の民主教育が、アメリカと自民党政権の手によって変質されていく時期と重なっていました。
その過程の逐一を学習指導要領の改訂で跡付けしながら、その改訂では深まらざるを得ない矛盾を解決する道筋を、教師としての実践で示しています。
その実践は具体的です。実践を反映して、この本の章建ても実に具体的です。試みにどのように章や節が建てられているか見ましょう。
「勉強ばかりに気をとられていると子どもの真の力を伸ばせない」(第1章)、「実体験が子どもの心を育てる」(第3章)、「競争社会も、親の考えや感情の押しつけも形を変えた『虐待』」(第5章の3)、「『やる気』を起こしたとき心が活性化する」(第6章の1)などです。
実践の結果は、引用された豊富な子どもたちの作文や詩で実証されています。「学校でも家でも『勉強』と無縁な生活を送っていた」だろう子どもの変化が、卒業記念文集に載せた「学校」という詩で紹介されています。
学校は朝早くくる/教室はつごく(すごく)古い/だがこの教室は思い出がある/ぼくたちが しょうらい えらい人になったとき/この文章をわすれない
「卒業式の後、校門のそばにいた私に、満面の笑みを浮かべて帰っていった姿が忘れられない」と著者は書いています。
著者に本書を執筆させる決意をさせたのは「教育再生会議」の報告に基づき、教育「改革」3法案が成立したことでしょう。このような教育「改革」で日本の教育が再生するのか、それに対置する真に「やる気を引き出す子育て・教育」はどうあるべきなのか。政府の教育政策と対峙してきた自らの実践でそれを示したい。
その決意はみごとに結実しています。(2008年1月17日)