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心の寄り道を、子どもにも大人にも~子どもたちのまなざし 26

2009年07月10日 | 土佐いく子の教育つれづれ

 660号の新幹線   六年  酒井 美千夫

 六年がはじまって、一週間ぐらいたったとき、山崎君のつくえを見ると、ただしいというじがいっぱいかいていました。

 ぼくが、「なに、これ」ときいたら、山崎君が、「新幹線のとおった数」といいました。ぼくが、「どこにとおってるん」ときくと、「まどからまっすぐみた所にみえるやん」と山崎君がいって、ぼくが、「なんや、あそこか」といいました。そして、ぼくが、山崎君に「まねすんで」といったら、山崎君が「いいで」といいました。

 そして、二台くるのに4分ぐらいかかるから、はじめは、「くるのおそいな」とかいっていたけど、なれてくると、おもしろくなってきました。
 
「いま、山崎君何台」ときくと「まだ40台ぐらい」といって「おまえは」と山崎君がいうと、ぼくが、「まだ15台ぐらい」というと、山崎君が、「おそいのうおまえ」といいました。

 ぼくは、まけたくなかったから、休み時間もきゅうしょく時間も見ることにしました。そしたら、山崎君にだんだんおいついてきました。ぼくが、山崎君に、「今、何台」ときくと、「120台」といいました。そして、ぼくが、「105台」というと、山崎君が「ほんまに」といいました。

 一学期も二週間ぐらいたって、山崎君に、「今、何台」ときくと「180台ぐらい」といいました。ぼくが、「201台ぐらい」というと、「ぬいてるやん」といいました。そして、山崎君が、「もう200台いったで」というと、ぼくが、「おれ、250台」といいました。

 二日たってきくと、山崎君が、「251台」といいました。ぼくが、「あまりみてへんな」といったら、山崎君が、「おまえは」といったので「325台」と、ぼくがいいました。

 つぎの日の三時間目の休み時間に、山崎君が、「おれ、やめるわ」といったから、ぼくが、「なんで」ときくと、「おもしろくないやん」と山崎君がいいました。

 「それじゃ、その新幹線の数、ちょうだいや」と、ぼくがいうと、山崎君が、「いいで、この291台あげるわ」といいました。

 そして、べんきょう時間がはじまって、その時、ぼくは350台あったので、ぼくのと山崎君のをたしたら、641台になったので、「やったあ」といいました。そして、641台だったらはんぱだったから、660台にしようとしました。660台にするには、あと19台だけだからかんたんやなと思いました。その時間で660台いきました。

 「やった」といって、さいごの1台をかこうとしたら、先生がいきなり、「けせ」といいました。そして、ぼくがけしていたら、いきなり、「休み時間にけせ」といいました。ぼくは、660台わすれないように、ノートやおどうぐばこやつくえに、すうじでかいといて、もう、新幹線をみないようにしました。――大澤昇『学級文集』より

  ◆  ◇  ◆

 六年生になると、教室が四階になって、遠くを走る新幹線が見えるのです。最高学年になって、はりきってはいても、授業中ほっと息を抜きたくなることが誰にもあるものです。

 こんな作文が教室で読まれると、静かな笑いが広がり、肩の力もぬけて、ゆったりとした雰囲気がうまれます。「けせ」と言われた先生に、この作文を読んでもらいたくて、楽しんで書く教師と生徒との関係がなんともあったかいです。

 しかし、こんな心の寄り道ができにくい今日です。結果やできばえを求めて、効率よく大人の期待にこたえさせる「狂育」の中で、悲鳴をあげている子どもたちです。大人もまた今、寄り道やムダにみえることで心を遊ばせたいですね。

(とさ・いくこ 中泉尾小学校教育専門員・大阪大学講師)

コメント (1)
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