月刊 きのこ人

【ゲッカン・キノコビト】キノコ栽培しながらキノコ撮影を趣味とする、きのこ人のキノコな日常

『爪先に光路図』

2013-07-30 21:03:23 | キノコ本
『爪先に光路図』  青井 秋 著

『……あぁ やっぱりだめだ どう考えても これは恋だ』

几帳面で線の細い男子学生・岩井は、アルバイトとして、とある研究施設で助手をすることになる。山深くにあるその研究所には、ただ一人、室田という男が住みこみで研究を続けていた。一見して偏屈でとっつきにくそうな雰囲気だが、自然に対する真摯な眼差しを持ち、ときおり優しさも見せる室田に、やがて岩井は信頼をよせていく。
そして、彼はいつしか、それが別の感情へと置き換わっていくことに無自覚ではいられなくなっていくのだった……

菌類の研究所を舞台に繰り広げられる、ボーイミーツボーイ的な何か。いわゆるBL(ボーイズラブ※)漫画。

『まるで別の星にいるみたいだ 室田さんと 二人きりで』

登場人物ほぼ2人だけなので、話にスジも何もあったもんじゃないが、野外採集でくり出す奥山での2人の交流は、やはり街中とは違う何ものかの雰囲気を感じさせる。それは少し怖ろしく、そして妖しい、あるいは人を過たせるような何かなのかもしれない。



『きっとこの下にも 菌床の巨大なレースが蔓延っていて
 時折思い出すように地上に現れては
 雨に溶けるように消えていく
 ……俺はそれを あと何度くり返せば』

この作品の真骨頂は、地下に菌糸を蔓延させながら、ポツリポツリとしか表に姿を現わせないキノコを、道ならぬ恋心に重ねあわせているところにあるだろう。心の中に深く食いこんだ想いは、もはや取り去ることなどできるはずもなく、かといって、心のままに告白してしまえば、望まない結果が待ち受けていることなど、容易に想像がつく。

『待ってくれ……そうじゃないんだ』

引くも進むもままならない。菌糸にとらわれた者は、自らの想いにがんじがらめにされ、そのまま暗い地下へ沈みゆくしかないのか。それとも……



―――章の扉などにあしらわれているキノコの絵は写実的で、暗さ、深さをうまく表現した森の情景なども含め、とても丁寧に描かれているのが印象的。

ただし、作者の初単行本ということもあってか、菌類知識は付け焼刃のようで、エノキタケが夏に生えてるなど、ツッコミどころがちらほら。まあこのくらいは大目に見ましょー。


ナギナタタケが倒木から生えてるっぽい(こまかいツッコミ)


表題作「爪先に光路図」の他に、ちょっとファンタジックな色合いの短編が2編。いずれも生き物を題材にしている。短さゆえにストーリーに奥行きがないものの、背徳的な恋に対する後ろめたさと重なるのか、ほの暗いイメージが静かに染み込んでいるのが心地よく感じられて、悪くない。

『……君が居ないと だめなんだ』

これを読んでるそこのアナタ。これを機に新しい愛の世界の扉を開くなんてのは、いかがですか?(ウン、言ってみただけ)


※BL(ボーイズラブ)
おもに女性が愛好する漫画や小説などの1ジャンルで、男性の同性愛を描いたものを指す。俗に言う「やおい」とは細かい意味で使い分けされているが、根本的にほぼ同じもの。
ぶっちゃけ「エロ」なため、あまり表には出てこないが、「やおい」は日本のサブカルチャー文化ではすさまじい広がりを持っていて、世界最大規模の同人誌即売会「コミックマーケット(通称コミケ)」でも一大勢力をなしている。やおい好きの女性を指す「腐女子(ふじょし)」なる言葉も一般に定着しているほどだ。

正直なところ、男性としては共感しがたいけど……『爪先に光路図』くらいのライトなものなら、まー許容範囲か。そういえば少女漫画とかでも同性愛って人気あるよねー。背徳的なフンイキがいいのかなー?

いやいや、男にして男にあらず、女にして女にあらず……この性倒錯は、中間的、境界線上のモノを象徴する「キノコ的なるもの」と、まさしく重なるのではなかろうか!

すなわち日本のサブカル界は、きわめて根深く菌糸に侵されていると言えよう!(超曲解)

あー、でも潜伏してる腐女子って、菌糸みたいだよな……んでコミケだけで大っぴらにできるってのがキノコ状態で。そう考えると「腐」女子ってのも意味深だよね……白色腐朽とか褐色腐朽とかしてるんだろうな、きっと。

でも何を腐らせてるんだろ……