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前進座創立85周年記念公演「たいこどんどん」

2016年10月02日 20時35分07秒 | 歌舞伎・文楽
知り合いのお母様にチケットを頂いて
国立文楽劇場の前進座公演を見に行った。

劇団創立85周年記念公演で
井上ひさし作の「たいこどんどん」。

2016年 『たいこどんどん』 前進座

この芝居を見るのは初めて。
前進座自体、数年前の正月に誰かの襲名披露興行で南座に行って以来。
現代劇は初めてではなかろうか。

案内を見ると、25分の休憩前も後も60分から75分くらいで、
割とコンパクトな芝居。

客席は60代以上の女性が大多数で、
40代の私なんて一番若いか?という位。
しかし(招待券も多いのかも知れないが)けっこう埋まっており、
日本のショウビジネスは金も暇もある中高齢の女性(有体に言えば「おばちゃん」)に
支えられているのだな、と痛感させられる風景だった。
文楽の本公演だと、なかなかここまで埋まらないんじゃないのか、と思ったり。

全体に「和風ミュージカル」といった趣。

序幕は江戸の日本橋で、
傘を持っての群舞から始まる。
このあたり、松竹歌舞伎と比べてしまうのだが、
全体に体の線がきっちり決まらない、腰が座らない人が多いなあ、という印象。
どんな動きをしても、江戸町人を演じる上では「着物を着ている」のが前提であり、
腰がきちんと定まった上で身をこなす、というものだと思っているのだが、
そのあたりの鍛錬がきちんとなされていない、
或いは舞踊をきちんと習っていないのでは、という印象。
この群舞は最後の場面と対になってくるので、
もしかすると意図的に崩しているのかも知れないが。

# このあたり、猿之助一座や勘九郎達がやったらどうなるか?と少し思った。

それは幇間役(中嶋宏太郎)も同じ印象。
それに比べると若旦那役の早瀬栄之丞は、基礎は比較的安定しており、
如何にも江戸の若旦那、という印象を受けた。

ストーリーとしては江戸品川~釜石~仙台、遠野、新潟等を
若旦那と幇間が経巡る話。
その間幇間が裏切られて釜石の鉱山に叩き売られたり、
若旦那が女遊びの挙句追い出されたり病気を貰ったり、と苦労していく感じ。

井上ひさしの台本らしく、東北弁(それも地域地域によって言葉が異なる)で台詞は作られている。
大らかな猥雑さ(けっこうダイレクトな表現)もある。
歌舞伎と違って女優なので、ちと生々しくしんどいところもある。
また、様々な言い立て・羅列がちりばめられ、
この辺りも井上ひさしらしい。

時代背景としては黒船来航から明治維新くらいの間の物語で、
品川での「黒船を見ながら酒を飲む」あたりの設定は
江戸の人間の、上がバタバタしようが町民はそれを生かす、
或いは茶化す「逞しさ」のようなものが出ていたと思う。
それは最後の「江戸が東京と変わろうが、江戸っ子は江戸っ子」という台詞に
繋がってくるものなのだろう、と思う。

休憩後鉱山の場面は、労働者の苦難などが色濃く出ており、
このあたりは如何にも前進座なのかな。
或いは最後の群舞での
「何事も新しいのが良い」「富国強兵」などの言い立てには
昨今の「変化」に重きを置く安倍・橋下的なものに対する
アンチテーゼに繋がる(無論、初演時からあったのだろうけど)を感じたりした。

最後はカーテンコール、受付でのお見送り。

どうしても松竹の歌舞伎と比較すると、
芝居としては鍛錬不足、薄さが気になってしまう。
ただ例えば、最後のお見送りなんてのは歌舞伎では(今でも)ないだろうし、
その辺りは大衆演劇に近く、でも大衆演劇よりは芝居としてのコク・厚みを持っている、
というあたりが「前進座」の特徴なのかな、という気がした。
中途半端と言えば中途半端だし、
でもバランスが良いと言えばそうなのかも知れない。

全体では袖ケ浦・おとき・お熊という
若旦那と絡む3役を演じた(過去の演者を見ても、同じ役者が演じるのが多いみたいだけど)
北澤知奈美という人の印象が強かった。
もう少しこの3役の演じ分けを強めた方が良いと思うが、
悪女の色合いがよく出ていたと思う。
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