仁、そして、皆へ

そこから 聞こえる声
そして 今

その部屋のドアⅤ

2008年05月07日 16時32分38秒 | Weblog
 次の夜、ドアは叩かれた。竹下もいた。夜12時半だった。ヒカルは不機嫌な顔でドアのこちら側からなげいた。
「何時だと思っているんですか」
返事はない。しばらくするとまたノックの音がした。
「止めてくれよ。頼むから」
返事はない。しばらくするとまたノックの音が。この繰り返しが何回か続いた。ヒカルは諦めきった顔でドアを開けた。屈託のない笑顔がそこにあった。同時にごつい手がドアを押えた。あの感触がまた始まった。隠微な感触とわけのわからない話が同時進行するその空間では、強面の男と清楚な美女の威圧感が支配してはいたが、それと同時に性的なものがヒカルを支配し始めていた。
 次の夜もドアは叩かれた。夜11時だった。
「美咲です。」
「何時だと思っているんだよ。昨日といい今日といい。人のことも考えろよ。」
「ごめんなさい。でも、集会の前にどうしても理解して欲しいんです。」
「この本を読んどけばいいんだろ。」
「ええ、でも正確にお伝えしたいから、」
「今日は帰ってよ。」
きのうと違う雰囲気をヒカルは感じた。ドアに耳をつけた。魚眼レンズからは美咲の体しか見えない。
「1人なの」
「はいッ。」
ヒカルはドアを開けた。
紺のブレザーの真中の白が際立っていた。やはりボタンははずされ、谷間が見えていた。
「1人なの」
「ええ、」
同じ言葉が行きかった。
「今日は帰りなよ。」
ヒカルは諭すように言った。美咲の手がヒカルの右手を取った。あの感触が再びヒカルを襲った。美咲はヒカルの右手をグッと引いた。そして胸の谷間に押し付けながら、握り締めた。柔らかな感触がヒカルの手から脳に伝わった。
「お願い、少しでいいの話を聞いて。」
「ああ」
そう言うと美咲は手を離し、ヒカルを押すようにしながらあがり込んだ。