そのジャングルに迷い込んだのはミサキのほうだった。統一的な思考から、感性や感覚、直感に至るまですべての発想が自らの責任において判断を迫られる、そんな状況にミサキは入っていった。T会の教えを離れることは頑強な城壁に囲まれた園から荒野へ足を生みいれることであり、あるいは1人でジャングルに置き去りされたようなものだ。一つ間違えば、命すら落としかねない危険が潜んでいる。教えに従うこと、その思考をメシアの思考に同調することで、実は、自らの思考を封鎖し、精神の安定を得る。そうすれば、もう、悩まなくていいのだ。考えなくてもいいのだ。「死」至る存在の恐怖を、信じることで、従うことで乗り越えることができるのだ。信仰から離れることは、一度、信仰を持ったものには耐え難い恐怖になる。
ヒカルとミサキが「ベース」に着いたのは表参道の靴屋で残りの金を数えながら靴を探したにもかかわらず9時前だった。ヒカルは事務所になった控え室にミサキと入っていった。そのころ、ヒロムは大学へ行くことはほとんどなく、「ベース」で日長一日、研究にふけっていた。マサルはいなかった。ミサキはT会以外の人間に合うことがこんなにも緊張することだとは思わなかった。勧誘を目的に人に合うことはその使命がミサキを大胆にし、ミサキ自身の本来の人格とは違う何かがミサキを動かしていた。ヒカルはミサキを紹介しようとしたがどう紹介していいのか、言葉に詰まった。ヒロムの見た目は二十歳前後には見えなかった。しかも、そのころ、ヒロムは頭を坊主にし、無精ひげを伸ばし放題にしていた。服の汚れ具合や体臭は浮浪者に負けず劣らずというところだった。が、9時を過ぎれば、イベントの時の仁の衣装に着替えるのだから、それでも良かった。そんなヒロムを見たら、ミサキでなくても緊張する、不快感を持つ、拒否したくなる、のいずれかだろう。ただ、この集団のいいところは、初めての人間にも何の気兼ねもなく接することだった。けして相手を否定するようなことはしないところも。ヒカルは説明の仕様がなく今日までの顛末をヒロムに話した。
ヒロムはすべてを聞き終えてから、
「解った。ヒカル、おまえは部屋に帰れるのか」
と聞くと、ミサキが突然喋りだした。
「だめです。今戻ったら、強制収用されます。私がヒカルさんのところで変になったのを竹下が気づいています。担当員の私が脱走して、ヒカルさんがいないのなら、なおさらです。」
「ヒカルでいいよ」
ポツンとヒカルがいった。それに続いてヒロムが
「強制収用って、」
「私たちは救いの部屋といいます。真実を受け入れられない対象者を教えに導く部屋です。」
そういうとミサキは言葉に詰まった。涙が瞼からこぼれ落ちた。
「私がいけないんです。私が堕落したから、ヒカルさんに迷惑をかけてしまった。」
ヒカルとミサキが「ベース」に着いたのは表参道の靴屋で残りの金を数えながら靴を探したにもかかわらず9時前だった。ヒカルは事務所になった控え室にミサキと入っていった。そのころ、ヒロムは大学へ行くことはほとんどなく、「ベース」で日長一日、研究にふけっていた。マサルはいなかった。ミサキはT会以外の人間に合うことがこんなにも緊張することだとは思わなかった。勧誘を目的に人に合うことはその使命がミサキを大胆にし、ミサキ自身の本来の人格とは違う何かがミサキを動かしていた。ヒカルはミサキを紹介しようとしたがどう紹介していいのか、言葉に詰まった。ヒロムの見た目は二十歳前後には見えなかった。しかも、そのころ、ヒロムは頭を坊主にし、無精ひげを伸ばし放題にしていた。服の汚れ具合や体臭は浮浪者に負けず劣らずというところだった。が、9時を過ぎれば、イベントの時の仁の衣装に着替えるのだから、それでも良かった。そんなヒロムを見たら、ミサキでなくても緊張する、不快感を持つ、拒否したくなる、のいずれかだろう。ただ、この集団のいいところは、初めての人間にも何の気兼ねもなく接することだった。けして相手を否定するようなことはしないところも。ヒカルは説明の仕様がなく今日までの顛末をヒロムに話した。
ヒロムはすべてを聞き終えてから、
「解った。ヒカル、おまえは部屋に帰れるのか」
と聞くと、ミサキが突然喋りだした。
「だめです。今戻ったら、強制収用されます。私がヒカルさんのところで変になったのを竹下が気づいています。担当員の私が脱走して、ヒカルさんがいないのなら、なおさらです。」
「ヒカルでいいよ」
ポツンとヒカルがいった。それに続いてヒロムが
「強制収用って、」
「私たちは救いの部屋といいます。真実を受け入れられない対象者を教えに導く部屋です。」
そういうとミサキは言葉に詰まった。涙が瞼からこぼれ落ちた。
「私がいけないんです。私が堕落したから、ヒカルさんに迷惑をかけてしまった。」