象が転んだ

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2次方程式のガロア理論(前半)〜エヴァリスト・ガロアを巡る旅、その8

2021年02月06日 05時13分25秒 | エヴァリスト・ガロア

 前回”その7”では、3次元方程式と4次元方程式の解法の発見の歴史と、それから5次元方程式の解法へ向かう歴史について述べました。
 以下、簡単に振り返ります。

 3次元と4次元では、16世紀にイタリアのフォンタナフェラリが発見しますが、明確な証明はなく、偶然の産物に近いものでした。故に、5次元方程式となると大きな壁にぶつかります。
 この難題の解法に一筋の光を差し込んだのが、”代数学の父”ヴィエト(仏)でした。彼は、”方程式の解と対称性の繋り”に初めて気づいた数学者です。そして、この”対称性”の観点を一歩進め洞察したのが、18世紀のヴァンデルモンド(仏)でした。
 彼は、2次方程式と3次方程式の解の公式が”解を入れ替える”という操作(解の置換)に関し、ある種の普遍性を持つ事を見抜きます。これこそが体の自己同型(全単射)の先駆けとなる発見でした。

 同じ頃、ラグランジュ(仏)は、2次、3次、4次方程式が解けるカラクリの本質に肉薄し、そのカラクリが5次方程式では上手く行かない事まで突き止めてます。つまり、群論と体論のすぐ近くまで来てました。 


なぜ?方程式が解けるのか?

 ”5次以上の方程式には解の公式は存在しない”という超難題を解決したのは、19世紀初めの事で、22歳のアーベル(1824年)ともう1人は19歳のガロア(1830年)でした。
 アーベルの証明は、”全ての5次方程式を共通の方法で解く一般的手続きは存在しない”でした。この証明はラグランジュやヴァンデルモンドの着眼を発展させたものです。しかしアーベルは、”四則演算とべき乗で解けるか否か”の判断基準を与えてませんでした。
 そこでガロアは、9歳年上のアーベルとは異なり、”方程式が四則とべき根で解ける条件”を完全に特定します。お陰で、2次3次4次の方程式の解法のカラクリも完全に解明されます。

 ガロアはこの難題の解法を得る為に、前代未聞の数学構造である「群」「体」を生み出した。つまり、群と体の間を行き来する事で方程式の解の素性を明らかにしたんです。
 つまり、以下でも詳しく述べますが。2次方程式までは体の理論でカバーできますが、それ以上となると群にまで拡張する必要がある。
 故に、このガロアの群と体の発見こそが、300年の長く分厚い壁を砕いたんですね。

 これは、2次方程式の解から作る代数体の自己同型の仕組みを見破る事にあります。
 2次方程式のガロア理論に関しては、”ガロアを巡る旅”でも述べましたが。ここを理解するだけでもガリア理論の外殻は大まか掴めますので、ここではじっくりと前半と後半と2回に分けて振り返る事にします。
 ガロア理論を理解するには、まず”体”の概念を理解する必要があります。

 初めに、四則演算で閉じてる数の集合を”体”と言います。有理数は四則演算で閉じる最小の体となりますね。
 これは、自然数や整数を四則演算すれば、出てくる数が全て有理数である事から明らかですが。この有理数の集合を体として扱う時、有理数体Qと呼びます。
 ”体”とはドイツ語で身体(Körper)を意味する単語ですが、日本ではそのまま訳し、”体”と呼びます。
 ”有機的に上手く機能が働く”という解釈で、”四則演算が上手く働く”となりますが。英語ではField(領域)という意味の単語が使われ、ここら辺の曖昧さが群や体の概念を判り辛くしてますね。
 結局、豚は煮ても焼いても豚。故に、豚は”体をなす”んです(笑)。


ガロアの拡大体

 有理数体Qは四則演算で既に飽和状態ですから、拡張性を持つ為に拡大させる必要があります。例えば、Kをa+b√2という数の集合(a,b有理数)とすれば、全ての有理数はKに属します。
 つまり、有理数体QをKが含む。これを”KはQの拡大体である”と呼びます。
 そこでKが体である事は、足し算・引き算・掛け算では明白ですが、割り算は”分母の有理化”をする事で簡単に証明出来ます。
 これは、(1−2√2)/(3+√2)=(1−2√2)(3−√2)/(3+√2)(3−√2)=(7−7√2)/7=1−√2とa+b√2の形になる。
 先程定義したKは、”Qに√2を加え飽和させた体”ですから、Q(√2)と書く。つまり、K=Q(√2)={a+b√2}という数の集合(a,b有理数)}となります。
 勿論、√2だけじゃなく√3でも√6でも同じ様な拡大体Kが出来る。これは√同士をを掛け合わせても√内に収まるからです。
 故に同じ無理数であるπを使い、Q(π)と出来そうですが、π同士を掛けると新しい無理数が出来るので、実際にはQ(π)={(πの有理係数の多項式)/(πの有理係数の多項式)と表される数全体}という複雑な集合になります。

 この拡大体をよりイメージし易くするには、ベクトル空間の概念が便利です。ベクトル空間とは、足し算と実数倍の2つの性質で作られる数の空間です。
 平面上で考えれば、ベクトルの足し算は平行四辺形を作る事で、掛け算は延長する事です。つまり、足し算と実数倍で全ての点が作り出せる。
 ここで拡大体Q(√2)もベクトル空間とみなす事が出来ます。(a+b√2)+(c+d√2)=(a+c)+(b+d)√2、q×(a+b√2)=qa+qb√2となり、Q(√2)を”Q上のベクトル空間”と呼び、基底(basis)が1と√2になる2次元のベクトル空間により、次元の2を”体Q(√2)の体Q上の次元”と呼び、[Q(√2):Q]=2と表記します。
 少し、堅苦しいですが、イメージだけはしておいて下さい。

 ここで、有理数体Qを更に拡大します。
 有理数体Qの拡大体Q(√2)に√3を加えた体を作り、Q(√2,√3)と書くと、Q(√2,√3)={a+b√2+c√3+d√6、a,bc,d有理数}となります。前述の様に、四則で閉じてるから、これが体である事は明らかですね。
 ここで、Q(√2,√3)をQ上のベクトル空間と見ると、Q(√2,√3)は1,√2,√3,√6を4つの基底とする4次元空間となってます。
 更に、このベクトル空間は、1と√3を基底とする体K=Q(√2)の2次元ベクトル空間とみなせます。故に、(Kの数)+(Kの数)√3という数の集合となりますね。
 実際、Kの数(元)をそれぞれa+b√2とc+d√2とすれば、(a+b√2)+(c+d√2)√3=a+b√2+c√3+d√6となります。
 つまり、体Q(√2)はQ上の2次拡大体、体Q(√2,√3)はQ(√2)上の2次拡大体です。
 基底に関して言えば、体Q(√2)はQ上の基底は1と√2、体Q(√2,√3)はQ(√2)上の基底は1と√3です。
 ここで、体Kの体L上のベクトル空間の次元を[K:L]と記し、”体Kの体L上の拡大次数”と呼ぶ。これを上記の例で記すと、[Q(√2,√3):Q]=[Q(√2,√3):Q(√2)]×[Q(√2):Q]=2×2=4でなります。つまり、Q(√2,√3)はQ上の4次拡大体(2次拡大体×2)ですね。
 一般に、Qのn次拡大体のm次拡大体は、Qのn×m次拡大体という乗法公式が成立します。

 この拡大体のベクトル表現ですが、省いても良かったんですが。ベクトル空間の次元と体の基底と拡大体の次数の関係も後に重要になってきますから、一応は頭に入れといて下さい。


恒等写像と共役写像

 以上より、有理数に√2を加えた数の集合K=Q(√2)が体という事が判りました。
 しかし、方程式のガロア理論に近づくにはどうしたらいいのか?
 そこで天才ガロアは突拍子な事を考えつきます。それは”体Kの中の数を他の体Kに対応させる”というものでした。
 つまり、Kの数xを関数fによりKの他の数yに対応させたのです。式で示せば、f(x)=yと書き、fが写像である事は、高校の時に学んだ筈です。
 例えば、体Kの世界をガムボールマシン(写真)の中のガムの集まりとし、写像fでマシンの中をかき混ぜる。これは、xの位置のガムボールをyの位置に動かすというイメージですが、これは”対称性”を炙り出す為なんですね。
 因みに、「天才ガロアの発想力」の小島氏はコーヒーカップを例にしてます。

 まず、体Kから体Kへの写像fには、単射(x≠y⇒f(x)≠f(y))と全射(どのyでもそれに対応するxが存在する)という2つの性質が存在します。単射と全射を合わせ、全単射と言います。
 次に、写像fにより四則演算を保持する。x+y=z⇒f(x)+f(y)、x−y=z⇒f(x)−f(y)、x×y=z⇒f(x)×f(y)、x÷y=z⇒f(x)÷f(y)を満たす。
 以上の2つの性質(全単射&四則)を満たすものを”自己同型”と呼びます。
 つまり、”Kの自己同型”とはKの数を重複なく満編に自分自身Kの数に対応させる事で、四則演算にも対応する事です。

 ではK=Q(√2)の自己同型とはどんなものか?
 一番単純な例は、体Q(√2)の全ての元xに対し、f(x)=xとなる写像です。
 これは”何も動かなさい”写像で”恒等写像”と呼び、3つの条件を満たすのは明らかです。
 次の例は、x=a+b√2(a,b:有理数)とする時、f(x)=a−b√2とします。この様な写像を、符号を逆転させた数(共役数)をとり、”共役写像”と呼びます。これも3つの条件を満たす事は明らかですね。
 この共役写像の特徴は、”2回施すと元に”戻り、f(f(x))=xがQ(√2)の元xで成立する。つまり、線対称移動をイメージすれば判り易いですね。故に”裏返しの写像”ともみなせます。

 そこで、上では(拡大)体をベクトル空間とみなしましたが、体の自己同型はどんなベクトル空間なんでしょうか?
 先程述べた上の共役写像を例にとります。f(a+b√2)=a−b√2、f(a−b√2)=a+b√2でした。
 点O起点とし、点Pをa+b√2とし、点Qをa−b√2とすると、点Pは点Qに対応し、点Qは点Pに対応します。点Aをaとすれば、OAを軸に裏返してる事が判りますね。
 体Q(√2)の自己同型として、恒等写像と共役写像の2つがある事を紹介しましたが、実はこの2つだけです。
 この証明ですが。体Q(√2)の自己同型を全て特定する為に、一般の自己同型の重要な法則を準備します。
 まず、”全ての有理数xに対しf(x)=xが成立する”ですが、初期条件のf(0)=0とf(1)=1と”四則演算による保存”を使えば簡単ですね。f(n)=f(1)+・・・+f(1)==1+・・・+1=nとf(−n)=f(0)−f(n)=0−n=−nは明らかで、f(n/m)=f(n)/f(m)=n/m。証明終わり。
 次に、K=体Q(√2)の元xをx=a+b√2(a,b:有理数)とし、xの自己同型、による写像f(x)を求める。f(x)=f(a+b√2)=f(a)+f(b√2)=f(a)+f(b)f(√2)。
 ここで先に証明した”f(x)=x”を使い、f(p)=p、f(q)=qからf(x)=a+bf(√2)ー①を得る。故に、f(√2)だけが決まればいい。
 そこでf(√2)を求めるんですが、√2はx²=2の解だから、√2×√2=2より、f(√2)×f(√2)=f(2)=2。
 これは、f(√2)²=2より、f(√2)もx²=2の解です。故に、f(√2)=±√2となる。
 そこでまず、f(√2)=√2を①に代入すれば、f(a+bf(√2))=a+bf(√2)。故にKの全てのxに対しf(x)=xとなり、fは恒等写像ですね。
 また、f(√2)=−√2を①に代入し、f(a+bf(√2))=a−bf(√2)となるので、これは共役写像となります。
 故に、”Kの自己同型は恒等写像と共役写像の2つしかない”事が証明できました。

 少しと言うか、かなり長くなったので、今日はここまでです。
 2次元のベクトル空間の自己同型には恒等写像と共役写像の2つしかない事が判れば、後はスイスイです。
 次回の後半では、自己同型と解の公式について述べたいと思います。



4 コメント

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ガムボール (paulkuroneko)
2021-02-06 09:08:29
体と写像の関係をガムボールマシンに喩えた所はユニークですね。二次元体の自己同型はわずか2種類なので問題はないんですが
3次元となると、急にややこしくなりますね。”動く代数学”とも呼ばれる群という大風呂敷が必要となる訳ですが、部分群の構造を示すハッセ図や巡回群なども必要になってきます。
考えるだけで混乱してきます。
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paulさん (象が転んだ)
2021-02-06 12:55:34
本当はコーヒーなんでしょうが、粒子が溶け込み、イメージしにくいと思って、ガムボールにしました。
ガチャポンみたいにガラガラと何度も回して、自己同型のやつが出てくれば、明確な解の公式が存在するんでしょうが。5次方程式ではそれ以外のやつが出てくるんでしょうね。

paulさん言われる通り、書いてる時は簡単に思えますが、振り返ってみるとどうしても混乱しますね。
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ガラポンでゴチョゴチョ (HooRoo)
2021-02-06 17:10:45
ガラポンの操作が四則演算とルートだけだとして
そのガラポンから出てくる玉が
すべての二次方程式の解を含んでるのなら
二次方程式の解が四則演算とルートだけで導き出せるってことかな

ガラポンに相当するのが拡大体で、操作に相当するのが自己同型写像ということでいいの?
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ガラポン (象が転んだ)
2021-02-07 04:52:34
これもいい例えですね。
Hoo女史の解答は正解(多分)ですが、2次方程式の解から作る代数体の自己同型の仕組みをすべて調べ上げることなんですね。
これが3次方程式となると、体から群へ、有理数や無理数から複素数へ拡張する必要がある。
何だか考えるだけで嫌になってきます。
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