前回”その8”では、有理数体Qに√2を加えた体K=Q(√2)がQの拡大体になる事と、2次元ベクトル空間とみなせる拡大体Kの自己同型には恒等写像と共役写像の2つしかない事の2つを証明しました。
そこで今日は、2次方程式のガロア理論の後半として、2次方程式の解を有理数体に付加した”2次体”の自己同型と解の公式について述べたいと思います。
少し長いですが、一気に進めたいと思います。
解を”四則演算とn乗根で解く”とは?
ガロア理論は、”4次方程式までは四則演算とn乗根(べき根)で解けるが、5次以上だとそうはいかない”という事でしたね。
そこで、このガロアの超絶のアイデアを2次方程式をネタにして探っていきます。
まず、方程式を四則演算とn乗根で解く事と代数体とが密接な関係にある事の説明ですが。
”四則演算とn乗根で解く”とは”どんな方程式を与えられようが、その係数と有理数から出発し、四則演算とn乗根をとる計算だけの手続きだけで、全ての解に辿り着く”という事です。
高校の時に学んだ筈ですが、2次方程式x²+ax+b=0(a,b:有理数)の解は、x={−a±√(a²−4b)}/2でしたね。
この解法を順追って見ると、①係数a,bからa²−4bを計算(有理数の四則演算)②a²−4bの平方根√(a²−4b)を計算(2乗根の計算)③√(a²−4b)に−aを足すか引く(四則演算)④−a±√(a²−4b)を2で割る(四則演算)。
この様に、決まった手続きで必ず2次方程式の解を求める事が出来ます。
実はこの作業は、”体の理論”を使い、以下の様に言い換えれます。
係数a,bを含む有理数体Qを考えると、Qの元であるa²−4bのべき根(2乗根)√(a²−4b)をQに付加し、拡大体K=Q(√(a²−4b))を作れば、有理数と√(a²−4b)の四則演算により、{−a±√(a²−4b)}/2で示される2次方程式x²+ax+b=0の解が共にKに含まれる事が判ります。
以上より、解を四則演算とルート計算で解けるなら、ルート数を有理数に加えて作った拡大体の中に方程式の解が存在する。
逆に、どんな方程式にもその様な拡大体を作り出せるなら、方程式に四則演算とn乗根をとる計算のみからなる解き方が存在する。
つまり、方程式の四則演算とべき根による解法を求める事は、べき根を加えた体を次々に作り、それらの体の中のどれかに全ての解が入ってる事を確かめる事と同じです。
実際、ガロアが辿り着いた理論はそういう事でした。つまり、体をガムボールマシンとみなすと判り易いですかね。
2次体と解と係数の関係
今度は、解の公式を知らないという前提でガロア理論を分析します。
まず、x²+ax+b=0ー①の1つの解をαとするとα²+aα+b=0−②。
そこで②を利用して①を因数分解すれば、
①の左辺=x²+ax+b−0=x²+ax+b−(α²+aα+b)
=(x−α)(x+α+a)。
これは、①のα以外の解をβとおけば、β=−α−aで表わせ、2次方程式の”解と係数の関係式”α+β=−aとなり、”2つの解を加えると1次の係数を−1倍したもの”とも言える。
これより、2次方程式の解αが無理数なら他方の解βも無理数である事が判ります。
故に、上の2つの法則は、解の公式を知らなくても証明できますね。
そこで、2次方程式の1つの解α(無理数)を有理数体Qに加え、それらの数の四則演算でできる数を増やし、飽和状態になるまで拡大したらどうなるのか?
まず、αに任意の有理数を掛け、”(有理数)×α”という数を作り、これに任意の有理数を加え、”(有理数)+(有理数)×α”という数に拡大し、この様な数の集合をKとします。
この時、Kは体になってます。
Kは、和と差に対し閉じてる事は明らかです。次に、積についても②より、α²=−b−aαと”(有理数)+(有理数)×α”の形になります。
問題は割り算ですね。前回紹介した”分母の有理化”でも可能ですが、(r+sα)÷(p+qα)の値が”(有理数)+(有理数)×α”になる事を調べるには、(p+qα)(x+yα)=(r+sα)を満たす有理数x,yを見つければいい。
上の左辺をpx+pyα+qxα+qyα²と展開し、α²=−b−aαを代入、(px−bqy)+(qx+(p−aq)y)α=(r+sα)。px−bqy=rとqx+(p−aq)y=sの連立方程式からx,yが求まります。
つまり、体の計算を連立方程式に帰着させる事で、K=Q(α)={(有理数)+(有理数)×α}が体になってる事が示せました
この様に、2次方程式の解を有理数に付加した体を”2次体”と呼びます。
そこで重要な事ですが、この2次体K=Q(α)は2次方程式のもう1つの解βを必ず含みます。これは”解と係数の関係”より、β=−α−aで表わせ、”(有理数)+(有理数)×α”と書けるからです。
但し、これは2次方程式に固有の性質で、一般では成り立ちません。
2次体の自己同型と解の対称性
次に、2次体K=Q(α)の自己同型(四則を保持する1対1対応)がどんなものか?を突き止めます。
Kの自己同型をf(x)とすれば、Kは有理数体Qの拡大体になるので、前回で述べた自己同型の保存則”f(x)=x”(x:有理数)が成立します。
そこでKの数が”(有理数)+(有理数)×α”と書け、(体は)四則演算に閉じてる事から、x=p+qα(p,q:有理数)に対し、f(p+qα)=f(p)+f(qα)=f(p)+f(q)f(α)=p+qf(α)ー③となる。
ここでf(α)を求めるには、Q(√2)の自己同型を求めるのと同じです。
αは2次方程式x²+ax+b=0の解より、α²+aα+b=0。両辺をfで括ると、f(α²+aα+b)=f(0)。左辺=f(α²)+f(aα)+f(b)=f(α²)+f(aα)+f(b)=f(α)²+af(α)+bとなる。
右辺もf(0)=0より、f(α)²+af(α)+b=0。
これは、上の2次方程式のxをf(α)に置き換えたものより、f(α)はx²+ax+b=0の解になり、f(α)=α、βとなります。
そこで、f(α)=αの時は”f(x)=x”を満たすので、fは恒等写像ですね。また、f(α)=βの時は③に代入し、f(p+qα)=p+qβとなり、αをβに置き換えたに過ぎないから、これも共役写像となります。
以上より、2次体の自己同型は、f(x)=xを満たす(自分を自分に対応させる)恒等写像と、f(x)=f(p+qα)=p+qβと定義される(αをβに書き替える)共役写像の2種類のみである事が判りました。
故に、2つ目の自己同型f(共役写像)では、f(α)=βならばf(β)=αが成立して、f(f(α))=α。
これより、任意のKの数xに対し”f(f(x))=x”が成立する。これは、α+β=−a(解と係数の関係)よりf(α+β)=f(α)+f(β)=f(−a)=−aとなり、(α)=βならばf(β)=−a−β=αとなりますね。
まさに、この法則こそが”2次体での解の対称性”を示し、”2次方程式の解で作った体Kが第2の自己同型に関し、1種の線対称を持つ”と解釈できます。
例えば、Aを頂点とする2等辺三角形ABCで、Aを固定したままBとCを入れ替える(裏返す)と、自分に重なります。同様に、体Kにて、この共役写像のfは解αと解βを入れ替える操作を意味し、結果としてKがKに重なる。そういう意味で、”線対称”と言える訳です。
以上より、”体の自己同型”というものが如何に方程式の解と密な関係を持つ事が理解できました。
ガロアはこのアイデアが高次の方程式にても成立する事に目をつけ、歴史的証明に至ったんです。
自己同型と解の公式
最後に、上で求めた2次体の自己同型を使い、2次方程式の解の公式を導きます。
まず、第2の自己同型で保存されるのが有理数のみである事を証明します。自己同型fが有理数を不変にする”f(x)=x”事は上で述べましたが、今度はその逆を証明します。
第2の自己同型fが、x=p+qα(x∈K、p,q:有理数)に対し、f(x)=xを満たすとする。f(p+qα)=p+qβより、p+qα=p+qβからq(α−β)=0。
ここでα=βでない事は明白ですね。α=βならα+β=−a(解と係数)より、α=β=−a/2=有理数となり、無理数である事に矛盾。故に、q=0となり、f(x)=xを満たすxはx=p+qα=pであり、xは有理数となりますね(証明終)。
次に上の法則を使い、”2次方程式は四則演算と平方根をとる操作だけで全ての解を求める事が出来る”事を証明します。
この証明のポイントは、(α−β)²が第2の自己同型f(f(α)=β、f(β)=α)で何に対応するか?を考える事です。実はこの(α−β)²こそが、2次方程式の判別式と呼ばれるもので、意外に感じるかもしれませんが。
まず、fは四則演算で閉じてますから、
f(α−β)²=f((α−β)(α−β))=f(α−β)f(α−β))=(f(α)−f(β))(f(α)−f(β))=(β−α)(β−α)=(α−β)²。
故に、f(α−β)²=(α−β)²となり、(α−β)²は自己同型fにより保存されるので、定義より(α−β)²は有理数であるべきです。つまり、α−β=±√(有理数)と解の公式に辿り着きます。
これに、前述の”解と係数の関係式”α+β=−a(有理数)により、2式を合わせれば、2α=−a±√(有理数)となり、αが有理数の平方根と四則演算から求められる事が解る。
つまり、2次体K=Q(α)はQ√(有理数)という体と一致する。故に、K=Q(α)=Q√(有理数)となりますね。
以上で、2次方程式に解が存在する、言い換えれば、(有理数係数の)2次方程式の解で作った2次体が有理数に有理数のべき根を加えた体である事が証明できました。
但し、2次方程式の解の公式を求める通常の方法に比べ、とてもクドいですね。しかし3次以上となると、このやり方こそがむしろ強力な手法になるんです。
以上を纏めると、2次方程式の場合にポイントとなるのは、2次体Q(α)の自己同型で不変になる数が有理数のみである事と、2次方程式の解から作られる式で自己同型で不変になる以下の式を見つけた事です。
特に、α+β=(有理数)とα=−a±√(有理数)という連立方形式は、”解と係数の関係式”α+β=−a、αβ=−bと比べれば、その違いは明らかです。
このアイデアは3次方程式や4次方程式にも使え、解の公式を生み出す事をも可能にします。
”その7”で述べた、3次方程式や4次方程式のフォンタナやフェラリの解法は偶然の発見にも思えますが。この手法なら統一的で必然的な形で解の公式を暴く事が出来ます。それ以上に、5次方程式の場合、四則とべき根で解けないという理由を明確に説明できるのです。
しかしその為には、第一に自己同型を織りなす”代数”を解析する必要がある。2次体の自己同型は僅か2種類しかなく単純でしたが、3次以上の方程式の解から作った体では、自己同型の織りなす代数はもっと複雑になる。それを記述する為には、”群”という全く新しいツールが必要になります。
第二に、方程式の解から作る体を記述する為、有理数から複素数にまで拡張する必要がある。それは高次方程式の解が全て複素数に含まれるからで、それらの解から作る体の自己同型を解析するには、複素数の世界の法則が重要になるからです。
第三に、2次方程式の解から作る2次体の正体を解明する為に使った(α−β)²の様な式を、つまり、3次以上の方程式の解から作る体を発見する必要がある。その為には、”1のべき根”というxⁿ=1の複素数解の振る舞いを理解する必要があります。
以上で、2回に渡り、2次方程式のガロア理論を詳しく紹介しました。
2次方程式では、その係数や解を含んだ拡大体の自己同型が僅か2種類なので簡単でしたが、方程式が”四則とべき乗で解ける”というガロア理論の概略は掴めたと思います。
一方で3次方程式の場合、上でも述べた様に、”群”というツールと複素数体という概念と、3次方程式の解からなる体を作る必要があります。
以降は、マイペースで更新する予定ですので、宜しくです。
ルートが入ると方程式が一気にややこしくなるんですよ。
でも天才ガロアは、体に置き換えて解法の複雑さを回避したんでしょうか。
解の対称性が体の自己同型になるという、分かったようで分からんようなですが。
そろそろ、脳みそが疲れてきた。これでエロい夢が見れるといいんですが・・・
ガロア群に関してはいろんな書物が出てますが、「天才ガロアの発想力」は非常にバランスのとれた良書だと思います。
私も脳が疲れてきました。エロい夢の続きの続きを見たいですね(笑)。
現実を反転させた写像としての夢。
確かに、自己同型になってますね。
思わず笑ってしまいました。
エロい夢とは、夢にエロを誘引するような要素を追加した拡大体と考えれば、納得もいきます。
でも、なんだか変な気分ですね。
登場人物もある程度決まってるし、シナリオも単純です。
まるで2次方程式のガロア理論みたいで、とても抽象的ですが・・・
でも、群論が夢の世界にも応用できるとしたら?現実と夢を繋ぎ合わせる代数学だとしたら?
益々頭が混乱しますね。
繋ぐ&変えない&もとに戻るの3つだけど
群のもう1つの特徴は対称性にある。
一方で、方程式の解から作る自己同型とは解の入れ替え(置換)だった。
この置換こそが群の構造なんだけど、この群に対称性があれば、明確な公式が存在するんだけど。5次以上の方程式でそういった群を見つける事は、難しい。
つまり、対称性が崩れるケースが存在する。そうなると明確な解の公式は存在しなくなる。
転んだ君が夢と現実との繋がりを群に喩えたのは、凄いことだよ。
もし、その繋がりに対称性があって、現実と夢の置き換えが存在すれば、エロい夢を見る明確な公式が存在するという訳だ。
2次方程式のガロア理論と同じで、対象となる要素が少ないほどエロい夢は実現可能になるのかな。
その要素が高層ビルとオフィスレディーと備品室という事なら、これほどシンプルな理論はない。
まさにアッパレだね。
夢と現実が自己同型で繋がり、故にその夢にも対称性があり、単純な要素が組み合わさる事で、エロい夢が見れる。
何だかこれもブログ立てたくなりました。
いつも有用なコメントどうも感謝です。