レビューこそ芳しくはないが、とても見応えのある作品にも思えた。
確かに、見る人を選ぶ作品ではある。
事実、本作はフロリダ映画祭最優秀作品賞はじめ、北東アジア映画祭最優秀ブラックコメディ賞、最優秀男優賞など、国内外で高評価を獲得!エンディングでは実際の裁判の映像も流される貴重な一作!と一部の専門家の間ではべた褒めだ。
一方で、茶化してる部分もなくはないが、できるだけ脚色を省いて作られた実話に忠実な作品であり、よく出来た作品に思えた。
因みにポスタルとは、特に、ゴーイング・ポスタル(Going postal)はアメリカ英語のスラングで、特に職場にて制御不能なほどに激高する様をいう。この状態になると凶悪な暴力事件にまで発展しかねないケースがある。
実際に、この作品では殺人にこそ結びつかたかったものの、実刑判決を下されたケースである。
度が過ぎた純愛は妄想に変わる
物語はある青年の回想から始まる。2016年12月2日、フィリップは朝一で荷物を受け取り、夜のフライトでハワイに旅立つ筈だった。現地では愛するブリタニーと自身の兄ベンとの結婚式が行われる予定だった。
しかし、幼い頃から密かに愛していたブリタニーを奪う為に、プロポーズしようという無謀な計画を練り、指輪の到着を待っていた。
しかし、何度見ても郵便ポストに荷物は見当たらない。配送会社ブロンコ社に確認するも、なぜか荷物は”配達完了”とされている。フィリップはブロンコ社のオペレーターのケビンに対応を懇願するが、会社の規則を理由に要求を断られてしまう。
怒り心頭でパニックを起こしたフィリップは、SNSに上げられていたケビンの個人情報を探し当て、今日中に何としてでも荷物を持ってくる様にと脅す。
更に、届かない指輪だが、実は彼自身が勤めるスーパーのレジから盗んだお金で購入したのだった・・・
荷物を待ちわびる男と配送会社のカスタマーサービスとの壮絶なるやり取りは、実話を基にした仰天のブラックコメディと呼ぶに相応しい。
地元メディアで“片思いの相手を忘れられない”と評された青年の心の崩壊や精神が破綻していく様をリアルに描いた作品は(実話を元にしながらも)妄想と現実の間をフラフラと漂ってる様にも思えた。
フィリップは、昔付き合ってた彼女への想いが諦めきれず、ハワイでの実兄との挙式が決まってる彼女に愛を告白しようと(盗んだお金で)婚約指輪をオンラインで購入。
もう、この時点で彼の妄想が病的である事が伺えるが、配送会社から荷物は届かず、このままではフライトの時間に間に合わない。が、実際は一度配達され、不在伝票が玄関に挟まってたのだが、それに全く気づかなかったフィリップにも落ち度はある。
お陰でフィリップは、カスタマーサービスに電話するも事はややこしくなるばかりで、彼の人生は徐々に狂い始めていく。
愛を諦めるか?妄想に破れ、自分を見失うのか?それとも最悪の結果になるのか・・・
私もよくカスタマーサービスに苦情をいう方だから、フィリップの気持ちは理解できる。しかし、人生の大逆転を賭けた大切なプロポーズの為の指輪を、盗んだお金で、それもオンラインで購入する事自体が崩壊の始まりである。
定規で測ったかの様に男の人格が崩れていく様は、見ていてブラックコメディどころか、何処にでも誰にでも起こりうる人生の落とし穴にも思えた。
恋人を挙式で横取りしようというプロットは、非常に危なっかしくもスリリングでもあるが、ダスティン・ホフマンとキャサリン・ロス主演の「卒業」(1967)をきっかけに、マンネリ化した恋愛劇の逆ネタにはなってきた。が、現実を考えるとありうる話ではないし、”横取り”という犯罪に近い行為で恋愛や結婚が上手く行く筈もない。
しかし、そういう事が判っていながらも、大衆は現実離れした無謀な逆転劇に、一途の望みを賭ける。
最後に
人生とは、ほんの一瞬の(魔が刺した)ミスで大きく運命が変わる。これは歴史も証明している。フィリップに絡まる悲劇は数珠繋ぎの様に展開され、まるで奇悲劇みたいな展開が繰り広げられる。
生真面目な日本人は、このシーンを見て大笑いするか?馬鹿げてると蔑むか?見るのを諦めるか?しただろう。が、私には他人事に思えず、妙にのめり込んでしまった。
実は私も、若く血気盛んな頃は強引に恋人を”横取り”しようとした経験がある。勿論、失敗に終わったが、若さ故の暴走だとしても、この映画を見ながら複雑な気持ちにもなる。というのも、当時の私には”犯したい”という性的野望が支配し、純愛と程遠かったからだ。
しかしフィリップは、親身になって協力してくれたオペレータのケビンをも巻き込んでしまう。つまり、犯罪に手を染めるか?笑って済まされるのか?は、ほんの紙一重なのだ。
一方で、お金を盗んででも指輪を購入し、その指輪で告白するという彼の純朴さには頭が下がる思いもある。こうした純粋さが純愛という名の危険な暴走を生んだとしたら、これ程の悲劇が何処にあろうか。
人生とは、喜劇と奇劇と悲劇と惨劇の延々の繰り返しだと思う。もし、平穏な人生を延々と送ってる人がいたら、それは呼吸してるだけで人生とは呼ばない(多分)。
エンドロールでは、実際の裁判のシーンが流されるが、追い詰められてパニックに陥った男の妄想(心神耗弱)による窃盗行為や脅迫未遂である事を弁護側は主張していた。
その一方で、フィリップを命がけで擁護したカスタマーサービスのケビンだが、個人情報をネタに脅され悩みながらも、会社の上司や警備員に暴行した罪で服役中というのも笑えない話ではある。
映画上では、フィリップに十分な反省の色があり、盗んだお金も全て返済したという事で社会奉仕活動で済まされてる(多分)が、実際には、15年の刑期(治療期間は1年)とある。
ただ最後に気になったのが、フィリップがハワイ行きを諦めた時、まさかのブリタニ―から”貴方が結婚式に乱入し、私にプロポーズするって噂を聞いたけど本当なの?”との電話が掛かる。フィリップは慌てて否定するも、彼女は”そうよね。<彼ならそんな回りくどい事はしないわ>と言ってやったわ”と切り返す。しかも最後には”愛してるわ、きっと来てよ”と彼女は念を押す。
ここら辺は多少の脚色があるかもだが、彼女もフィリップの事が薄々気になってたのも事実であろう。が、彼女が選択したのは、全てにおいて完璧な彼の兄である。つまり、純愛とはいっても、結婚となると女は現実的になる生き物だ。
実際の映像で見る限り、瞳は虚ろなフィリップだが、イケメン風の純朴青年ではある。ハワイで挙式をあげたブリタニーも、満更彼を嫌いではなかった筈だ。
そんな状況で男の純愛だけが暴走し、奇怪な妄想を生み、挙げ句は犯罪に手を染める。見てて、やりきれなくなる自分がいたのも確かではある。
そう、私はこういうB級で中途な映画にとても弱い。女の趣味も同じで、B級で奇妙な可愛さを持つ女性に弱いのである。
性欲は、もともとは種の生存本能なのに、それが人に異常な行動をとらせる。この主人公は、この罠に落ちたのでしょうか?
男性が奪ってでもセックスしたいのは自分の種を優れた女性(美貌の持ち主)に植え付けて残したいという本能でしょうか?
純愛とは、この本能のことを言うのでしょうか?
また女性が現実的なのは、出産育児をするための本能でしょうか?
話が逸れますが、この青年の異常行動は、正常な性欲の異常行動ですが、最近問題になっている例の事件のジャニー氏の異常行動は、異常な性欲の異常行動ということになるのでしょうか?
いずれも本能からの行動だとすれば、罪なものは本能ということになりますね。
と、偉そうに、わかったようなことを書いてすみません。(_ _)
他の方のご意見も伺ってみたいですね。
性欲(エロース)が種の生存本能なのは確かですが、純愛(プラトニック)というのはそれと対極をなします。
一方で、女性が結婚に対し現実的なのは、より優秀な子孫を残そうとする強かな本能だと思います。
故に男性は女性に対し、性的なものを求めるし、女性は逆に健全な夫婦関係を保つ為にも純愛的なものを求めます。
結局、女性は出産をする立場だから、とても強かなんですよね。男みたいに単純じゃない。
この作品でも(実話ですが)、女性は完璧な男性(フィリップの兄)を結婚相手として選びます。恋愛ならフィリップでも良かったんでしょうが、生存戦略としてみれば、危うく脆く感じたんでしょうね。
但し、兄と結婚してもフィリップとは血縁関係になる訳ですから・・・そういう所も女性は、非常に現実的で打算的ですよね。
何だか答えになってませんが
少なくともフィリップの異常行動は性欲ではなく純愛から来たもので、ジャニー喜多川は性欲が暴走した凶悪犯罪とも言えますね。
この映画では、いい歳して純愛というものを違った視点から教えられた気がします。
笑えるようで笑えないブラックコメディですね。
こういう映画は見る人によってはシリアスにも思えるし、一方でコメディじゃないかって思える。
でも、最後の裁判のシーンは微妙な気持ちになりました。
見る人を選ぶ映画ですよね。
言われる通り、最後のシーンは微妙なものがありました。
主人公のフィリップに妄想グセがあるのも事実ですが、周りに親身になって相談してくれる相手がいれば・・・
天才ナッシュIrの様に、難病とされる妄想型精神分裂賞を長い時間掛けて克服したケースもあるから、周りは暖かく見守ってやるべきでしょうか。