2ヶ月ほど前に見た夢だが、非常に印象的だったので、しっかりと記憶に残る様にと書き留めておいた。
というのも、夢で見た(ドネツクとルハンスク両州を含む)ドンバス地域の一部をウクライナ軍が、(一方的に併合した)ロシア軍から奪還しつつあると言うではないか。
正直、この地域をロシア軍から奪い取る事は不可能だと思っていた。それだけ、数ヶ月前まではロシア軍に、いやプーチンに勢いがあったからだ。
ドンバスの悪夢
夢の中で、私はそのドンバス地方にいたのだ。
しかし、その地域は地図で見るとキエフのずっと北の位置にあった。しかし、ドンバスはウクライナの南東部ではなかったか・・・
私は不思議に思いつつも、半分近くが灰色に塗られたウクライナの地図を眺めていた。
そう、現代の悲劇、いやウクライナの悪夢が私の夢の中でも再現されていたのだ。
灰色に塗られた地区はロシア(プーチン)が攻め込んでる地域で、ウクライナ軍の反撃は不可能だと思われていた。
私はドンバス地方のある大学院生で、ロシアから亡命してきたというある教授の元で、連続体仮説の件について熱く議論してた様に思う。
教授が最初に口を開く。
”君が言ってる事が本当なら、プーチンの戦争はとっくに失敗している”
私は生意気にも口答えした。
”(カントールが予想した様に)不連続の関数のとる値が非可算無限を超えるのなら、連続体仮説は破綻します。が、ℵ₁のℵ₁乗は2のℵ₁乗よりもずっと大きい様に思うんですが・・・”
教授は私の顔をゆっくりと眺める。
”確かに、連続体仮説を数学的に記述すればℵ₁=2^ℵ₀となるが、ℵ₂=ℵ₁^ℵ₁>2^ℵ₁=ℵ₁なる保証がどこにある?
プーチンの戦争と同じで、それが間違いだと証明できても、それが失敗に終わるとお前は証明できるのか?”
私は何も答える事が出来なかった。
事実、ロシアの歴史はピョートル大帝(一世)やエカチェリーナ女帝(二世)に始まる領土拡大の歴史でもある。領土拡大が間違いだと仮定しても、その基盤の上にロシアは成り立ってるのだ。
教授は、そんな私が可愛く思えたらしく、自宅に私を招いてくれた。
3階建ての見るからに豪奢な建物は、とても(数学者の給与では)建てれる類のものではなかった。
しかし、中に入ると、ごく普通の民家風の作りである。私がキョトンとしてると、教授は3階に行こうといい出す。
70代の初老の博士だが、見た目はずっと若かった。政治家にでも転職してたなら、母国ロシアをアメリカや中国をも凌ぐ理想の大国に仕立て上げたであろうか。いや、そう思える程の素晴らしい人物でもあった。
自慢の書斎を紹介するのかと思いきや、私が見たものは、自宅の右半分をくり抜いて作られた講義室であった。階段状に椅子と机が並べられ、天井までは3階分の高さがあり、しかも天井は開閉式である。規模としては、小さめのシアター程だったろう。
私はあまりの衝撃と感動に、卒倒しそうになる。
燦々と輝く太陽光を浴びながら勉学に親しむという教授ならではのコンセプトが、そこには凝縮されていた。
教授との会話
こんな所で、教授の教え子らは研究に性を出していたのか?優秀な後輩が輩出し続けるのも無理はない。
元々、旧ソ連時代には著名な数学者が何人もいた。ピョートル大帝(1世)は、科学アカデミーを創設して科学技術に力を注ぎ、農奴の集まりに過ぎなかった”4等国家”をヨーロッパ列強と並ぶ帝国ロシアにまで育て上げた。
その後、ピョートル3世の妻であった女帝エカチェリーナ(2世)は国力を数学と結びつけ、(当時ベルリン・アカデミーにいた)オイラーをレニングラード・アカデミーに再招聘し、帝政ロシアの領土をポーランドやウクライナにまで広げ、世界の大国に君臨する。
確かに、世界的に著名な数学者の名をざっと挙げると、チェビシェフ、コワレフスカヤ、ロバチェフスキー、ミンコウスキー、マルコフ、ルージン、ペレルマン・・・と、凄いメンバーばかりです。因みに、カントールもユダヤ移民ですが、レニングラード出身でした。
少し脱線しましたが、更に夢は続きます。
教授は、自分の娘を私に自慢した。
”君には特別だが、私の宝物を見せよう”と、今はある大学に通ってる娘の子供の時の写真をポケットの中から取り出す。
大して可愛いとも思えなかったが(笑)、娘というのは父親にとっては、永遠の女神なのであろうか。
”いい娘さんをもって幸せですね”
と私が口を挟むと、初老の男は少し落胆する素振りを見せた。
”しかし、プーチンの侵攻により全てが失われるかもしれない。この地もこの家も私の一族も・・・”
私は生意気にも口答えする。
”まだ終わっちゃいないし、教授がそんな弱気じゃ、若者は希望を失います。教授はよく言ってたじゃないですか、<アイデアと閃きがない奴は愚行と暴力に走る>と”
教授は少し俯いた。
”しかし今、その愚行と暴力が正当化されようとしている。全く情けない世の中になったもんだ。スターリンも暴君だったが、ここまでは酷くはなかった”
”そう言えば、プーチンもレニングラード出身でしたね。でも彼は全くの愚能でした”
”本人は帝王のつもりでいるが、スラム上がりの単なる知恵遅れの暴君だよ。あんなのが上に立つとろくな事にはならん”
”ロシアの多くの優秀な学者らも独裁国家に嫌気が差し、隣国のベラルシやドイツに亡命したんでしょうね。でも何故、教授はウクライナに亡命したんですか?”
”母の故郷でもあったし、広い農場に囲まれて過ごしたかったんだよ。ここには無限に広がる大平原に恵まれている。そう思わないか?”
”確かに、日本とはそのスケールが全然違いますね。日本の自然も美しいですが、小さすぎて・・・”
”君も私と出会わなかったら、ウクライナに来る事はなかったのに、今の状況を考えると・・・何だか申し訳ない事をしたようだな”
私は笑っていた。
”日本にいても同じですよ。アメリカと中国に挟まれて、経済戦争が起きてます。それに日本は(所詮はアメリカのポチ‹傀儡›で、ウクライナみたいに徹底抗戦とはいかない”
教授は首を振る。
”徹底抗戦がいいとは限らない。お陰でウクライナとロシア双方に多くの犠牲者がでている。彼らは進んで戦争をしたくはないんだよ。プーチンというたった一人の独裁者に脅され、仕方なく戦場に行ってるだけだ。全く嘆かわしい”
”戦争とは矛盾に満ちてて、常に嘆かわしいもんです。が、ロシアもそろそろ疲弊してきそうだし、プーチン一人に振り回される世界では心もとないですよ”
”平和って、私達が思ってる以上に脆い。独裁や権力は、大衆が思ってる以上にしぶとく強い。そんな危い海の中を、我らは必死に泳いでいる”
”つまり、戦争がなくても生きる事そのものが戦いなんですね”
”そう、人生の本質は戦いってこと”
”嫌な仮説ですね”
”世の中も数学も、そんな面倒な仮説に覆われてるんだよ”
避難施設と若者たちの夢
その時、空襲を知らせるサイレンが鳴る。
私と教授は豪邸を後にし、ある避難施設へと向かった。駅の近くに設置されたシェルター付きの大きな施設には、多くの人が集まっていた。
そこで私は、台湾系(多分)の知人と何か喋っていた。そこに、ブロンド娘がやってきた。男の彼女らしく、お互いに無事であった事を喜ぶかの様に抱き合っている。
そこには、私の友人もいた。
彼は”こんな状況だから画家になる夢は捨てる”と言ってきた。
私は”こんな状況だからこそ、夢は捨てるべきではない”と説得した。
先程のブロンド女がやってきて、”そうよ、夢なんて軽々しく捨てるもんじゃないわ”と言い放つ。
友人は”そういう君は数学者になるつもりか?”と話題をそらした。
私は首を振る。
”いや、数学者にはなれっこないし、同時に夢でもない。工業高校の先生にでもなって、数学の本質や楽しさを教えられたらいいと思っている”
台湾系の知人は”それじゃ、大学院へ行ってる意味がないじゃないか・・・”
”いや、教授と出会えただけで十分さ。それに数学は俺には重荷すぎる事が判ったんだ。それが解っただけでも満足さね”
知人の横にいたき金髪娘が私を睨みつける。
”父は貴方の事を高く買ってたわ。希望は持つべきよ・・そう思わない?”
”ああ〜君が教授の自慢の娘さんか・・・
でも、数学はそんなに甘くないよ。それに希望はいつしか失望、いや絶望に変わる。そうやって挫折し苦しんだ数学者がゴマンといる厳しい世界なんだ”
そうこうしてる内に、多くの避難民を乗せたトラック群がやってきた。
我々不安に満ちた表情の避難民たちをシェルター内に誘導した。
夢の舞台は、ある大学のキャンバスに移っていた。
例の金髪娘が、数人の友人を車に乗せてやってきた。私達は将来について語り始めた。
画家志望の友人が”君が数学を諦めるなら、私が数学を専攻しようかな”と突破口を開く。
私は”俺は空間認識が弱いから数学には向いてないけど、君は空間認識と美的感覚に優れてるから、意外に成功するかもしれない”とフォローした。
金髪女がニコリと微笑み、”その提案に賛成”と甲高い声を上げる。
友人も微笑んで、”だったら君は画家になるのかな?”と突っ込む。
私は”元々絵は得意だったんだよ。俺はね、言葉を覚える前に遠近法が描けたんだ”と切り替えした。
金髪女の恋人で台湾系の男は”人類が遠近法をキャンバスに描く様になったのは、ルネッサンス期以降だ。まるで、現代に甦るルネッサンス芸術の再来かな”と期待を大きく膨らませる。
”夢と希望は持ち続けるものよ”と金髪女は男と目を合わせた。
その場には、プーチンの黒い影は微塵も存在しなかったし、只々明るい未来が切り開かれてるように感じた。
私はもっと語りたかったが、夢はそこで潰えた。
最後に〜人は何故?夢を見る
夢や希望は、たとえそれが叶えられなくとも、持つだけでも心が豊かになり、物事を広い視点で大局的に多様的に考える事が出来る。
夢の中の私は、現実の自分とは異なり、聡明な所がある。
一方で、夢の中に登場する人物たちは、私がなりたいと思うもう一人の自分たちではないだろうか。
著名な数学者に楽観的すぎる金髪娘と、その女を恋人に持つ台湾男に、そして画家志望の男と、みな私がなりたい人物像なのかもしれない。
なぜ人は夢を見ているのか?
はっきりとは判っていないが、(一説として)その日に起こった事を整理する為に記憶の断片を見てるとされる。”寝る事で忘れる”というが、これも夢のお陰かもしれない。
つまり、抱えきれないストレスや様々な情報を夢を見る事で整理する。そういう意味で言えば、夢をよく見る人は常に何らかのストレスや情報に悩まされてる事になる。
因みに睡眠には、レム(深い)とノンレム(浅い)の2種類があり、夢を見るのはノンレムの方である。1回の睡眠でレムとノンレムを3、4回ほど繰り返し、その都度に見ていた夢はリセットされる。そして、最後に見た夢がリセットされずに覚えてるという。
ある研究では、心身とも健康的で外交的なグループは、”いい夢”を見ている事が多く、”夢を覚えてない”人が多いと。一方で、悩みやストレスを抱え込んでる人は、悪い夢を見やすく、夢を覚えてる事が多いとされる。
私の場合(夢の良し悪しに関係なく)、衝撃的で鮮明な夢なら大体覚えている。
結局、人は皆夢を見てるのであり、要は見た夢を覚えてるか否かの違いだけである。
そんな私は、見た夢をこうして物語として描く事で精神のバランスをとってるのかもしれない。
最近の私は、夢をまったく覚えていないのですが、しかし、それは現実に不安がないというより認知症気味になったからではないかと思えます。
もし現実が不安に満ちている人がよく夢を見るというのなら、現在の私は夢を見ないといけない筈ですから。
それにしても、転象さんの夢のお陰でウクライナ戦争のことがよくわかりました。
夢の続きで、転象さんが教授の金髪のお嬢さんと結婚できたら良いですね。
そんな夢を見たら、また続編を書いて、読ませてください。
去年から今年に掛けて、色んな事が起きすぎて、すべてに付いていけない程です。
そんな状況の中、夢だけはしっかりと見るし、しっかりと覚えてる。
多分、ビコさんは奥深い深層心理の中では心配事がないのかもです。
母方の一族の伝統に守られてる気がしますから。それに旦那さんも肝心な所では頼りになってるみたいですね。
そういう私は一見ノホホンとしてるみたいですが、深い部分では悩み事が多いんでしょうか。
夢の中でも連続体仮説だもん
ウクライナ戦争と結びつけるあたり
転んだ先生は
根っからの数学者なんだ。
数学は抽象的過ぎて、これまでもこれからも好きになれそうにないですね。
ただ、数学者となると話は別で、彼ら彼女らの人生はドラマチック過ぎる。
だから、数学に惹かれるんですよね。それに、数学といっても数多くの分野に分かれるんで、一概に数学として捉える事は不可能です。
個人的には(理解はともかく)、関数論や解析学あたりが好きですかね。