年が明け、バレンタインデーも過ぎたというのに、オミクロン株は収束しそうで収束しそうにない。それに毎日がバカみたいに寒い。
3回目のワクチンを打って、気分的にも楽になりたいが、コロナ(関連)死者数が微妙にだが増えてるのを見ると、また医療現場を少しずつ蝕んでる噂を聞くにつけ、派手な外出は控えは方がいいのかなとも思う。
特に、歓楽街での夜遊びは全くの厳禁である。
そういう私だが、コロナ渦(第4波)が完全に終息した(と思った)昨年12月には何度か飲み歩いた。楽しくも何ともなかったが、多少の気分転換にはなった。
多分、飲み屋街で梯子する事もこれからはないだろう。いやその前に、飲み屋街が壊滅するかもしれない。
それはそれで構わないのだが、私には昭和の時代のバブル末期の頃の飲み屋街をよく思い浮かべる。
ああ、あの頃に戻りたい。
雨宿りと銀座通り
私は夢の中で、銀座のある大通りにいた。
因みに、銀座は高校の修学旅行以来の私には、どの通りかは知る余地もない。
田舎から(研修の為)上京してきた職場の飲み仲間数人で、その大きな通りをふらついていた。
典型のビジネス街で、無機質な高層ビル群が所狭しと聳え立ち、派手なネオンを撒き散らすクラブや居酒屋などは殆ど見当たらない。
”何処で飲もうか?”と迷ってる内に、雨が降ってきた。
私達は雨宿りの為に、あるビルの1階にある空テナントの(ガラーンとした)一室に飛び込んだ。
銀座の中心街でも、テナントが入ってないビルがあるのか?コロナの影響はこんな所までにも及んでるのか?
私は不思議に思いながら、広い部屋の中で雨が止むのを待った。
リーダー格の男が、”ここにいても仕方がない。タクシーを呼んで飲み屋街に繰り出そう”と叫ぶ。
私は”ホテルに戻って晩酌するから”と、仲間の申し出を断った。しかし、血気盛んな仲間たちはそれを許す筈がない。
”せっかく東京まで来たんだ。ここで楽しまなかったら、バカみたいじゃないか”
私は彼らの常識を疑った。
”でも、まだオミクロン株は終息してないし、マスクを付けたまま距離を置いて飲んだ所で、何が楽しい?”
仲間の1人が静かに呟く。
”実は、マスクをしないでも距離を置かなくでも飲めるクラブを知ってるんだ。簡単な検査はあるけど全然大丈夫”
私は当然の如く反対した。
”感染する為に行くようなもんじゃないか。危険すぎる。いくら毒性が低いからとて、ワクチンを接種してるからとて、東京のコロナは福岡のコロナとは感染力も毒性も、その濃度も異なる筈だ”
”だったらお前だけマスクをして、ホステスとは距離をおけばいい”
”いやだ。大枚を叩き、危険領域に踏み込む気なんてサラサラない”
押し問答の挙げ句、クラブはやめにして、近くの居酒屋で(一人一人距離をおいて)飲む事にした。
私は迷ったが、仕方なくついていく事にした。
冬の銀座
居酒屋での食事は思った以上に盛り上がらない。当り前だ。周りには(私達以外に)誰も客はいないのだから。
しかし、お酒が進むうちに、皆の気持ちも次第に和らいでいく。
お開きになる頃には、かなり高揚していたが、外に出ると通りには誰もいないし、雨は降り続けている。
冬の銀座はとても寒かった。思った以上に冷たく感じた。
私が寒さのあまり、身をかがめていると、先程の男がクラブへ行こうと言い出した。
”こんな状況なら客は殆どいない筈だ。こんな所に立ち止まってても、凍え死ぬだけさね”
みんなは賛成したが、私だけが反対した。
しかし、一人で帰ろうにも寒くて脚が動かない。
そうこうしてる内に、強引にタクシーに乗せられ、目的のクラブへ車を走らせる。
私は寒くて凍えそうになっていた。スーツは雨でジットリと濡れ、ワイシャツにその水滴が染み込んでくる。
仲間の1人が(自らが着ていた)撥水性のコートを私に差し出した。私は濡れたスーツを脱ぎ、コートを羽織った。
”ありがとう。感謝するよ、お陰で(銀座のど真ん中で)凍え死ぬ事はなさそうだ”
車内に、どっと笑いが広がる。
”その調子さね。何事もプラスに考えようぜ。今夜の雨も、女神が与えてくれたご褒美よ”
”君が知ってるクラブにも、その女神がいるのかな?”
仲間たちの無垢で屈託のない笑顔を見てると、こういうのも悪くはないかなと、完全に警戒を解いてる自分がいた。
そして、クラブのあるビルの前にタクシーは到着した。
銀座のそれも歓楽街のビルにしては、あまりにも質素で閑散としていた。
逆に、そうした空疎な雰囲気が我らの警戒をより緩めていた。
謎のクラブにて
仲間の1人が分厚そうなドアをそっと開ける。が、中はガラーンとして誰もいない。
私は男に呟いた。
”だから言わんこっちゃない。ここには女神なんていない。それに店は潰れ、空テナントじゃないか”
男が反論しかけたその時、ホステス風に見えなくもない女が1人でやってきた。
”何名様ですか?”
女は(店と同じく)無機質で空疎な表情を浮かべている。
私は男に呟いた。
”やはり帰ろう。この女はホステスじゃない”
男は首を降る。
”ここは俺に任せとけ。悪いようにはしないから”
女が背を向けると、男が待ったをかけ、人数を告げた。
”少し待ってて、いま支配人を呼んでくるから”と、女は素っ気なく言い放つ。
私は嫌な予感がした。この虚無な空間と無機質な部屋と空疎な表情を浮かべる女。全てが謎だらけである。
リーダー格が不安で迷いつつある私を勇気づけようと、タバコの煙を私に吹きかける。
”心配しても仕方がないじゃないか。人生も同じで、なるしかならんのだ。何事も前向きよ”
しばらくすると、支店長が来ると思いきや、同じ女がやってきた。
よく見ると、不機嫌そうだが美人ではある。しかしコロナの影響で稼ぎが悪いらしく、銀座のホステスのオーラとは程遠く感じた。
女は一人一人をチェックした。検査すると言っても、目視のみである。
とてもクラブには見えない薄暗い部屋の中で、何を検査するのか?
私は流石に嫌になり、仲間を裏切って一人で帰ろうとした。
その時、女が叫んだ。
”アナタ、そこのコートを着たアナタ。こっちに着て頂戴”
私は聞こえないふりをした。
しかし、仲間たちが私を羽交い締めにし、女のいる所に強引に引きずり込む。
私は観念した。
”逃げる事すら出来ないのか”
私だけが部屋に入ると、女は私以外の仲間を部屋から追い出し、”アンタたちは不合格よ。ここには入れないわ。悪いけど帰ってちょうだい”と、静かに突っぱねるではないか。
青いドレスの女
分厚いドアがバタンと閉まると、ガラーンとした部屋の中は、私と女の2人だけになった。
女は、(部屋の隅にある)白くて革張りの長いソファーに私を座らせた。
私の目の前には大きな鏡がある。
丸坊主頭の私が滑稽に見えた。
”とても銀座のクラブに見合う様な私じゃない”
しばらくすると、女は青いサテン風のドレスに着替えて、私の方に近づいてくる。
まるで別人に思えた。そして、片腕にはとても高価そうなスーツを携えていた。
”そんなコート脱いだら?アナタにはこれがお似合いよ”
私は女のなすがままに、差し出すスーツを羽織る。
鏡で見る私は別人だった。まるで映画スターになった様な幻覚を見た。
”スーツだけでこんなに違うものか?”
女は私の頭をなでながら、耳元で囁く。
”坊主頭ってね。スーツが似合うのよ”
私は鏡に映る自分に戸惑っていた。
”確かに、でもこんな高価なスーツをもらっても、私にはお返しが出来ない。ボーイフレンドか誰かにプレゼントすればいい”
女は少し不機嫌になった。
”私はアナタにやると言ってるの。それに普通なら、この部屋には入れないのよ”
場違いな空気が私を取り囲む。
”いや、こんなものをもらっても困るんだ。君はもっと自分を大切にした方がいい。こんな店で仕事をしてる場合じゃない筈だ”
女は視線を落とした。
”もう仕事はしてないの。こうして理想の男を探してるのよ”
”私にはカネも学歴もないし、コネもない。アンタが望むような男とは程遠い”
”勘違いしないで頂戴。私がアナタを理想の男に仕立て上げるの、分かった?”
”そんなバカな!アンタにそんな事ができる訳がない。高価なスーツをもらったくらいで男が変わる筈もない”
”そーかな?鏡の前のアナタを見て頂戴。アナタは感じてるはずよ、今までの自分とは全く別人だという事を”
”そこら辺にいる、薄っぺらで粗雑なホストと一緒にしないでくれ。アイツらは外見だけの蝋人形さ”
”そう、あの連中は外見だけよ。卑しいし、出は貧しいし、まともな教育も教養もない。私は普通の男が好きなのよ。普通にイイ人が好きなの”
女と会話してる内に、私は女の虜になっていく。
突然、目の前の女を犯したくなった。
心の中で”所詮は水商売の女。犯してしまえば何処にでもいる売女と同じ筈”と自分を慰めた。
”私のこと、商売女だと思ってるでしょ?”
”このコートをくれなかったら、誤解はなかったんだけど。いきなりこんな贈り物されたら誰だって疑うさ”
”贈り物じゃないわ。客からもらったごくありふれた残骸の1つよ。捨てるくらいならアナタにやったほうが良いと思って・・・自惚れないでね”
”うぬぼれるさ。アンタみたいな美人に贈り物でもされたら、世の男は誰だって勘違いする。アンタこそ自惚れてる”
女は私を睨みつけた。
”本気になった?”
私は少し自分を取り戻した。
”いや、犯したくなっただけさ”
”私が商売女だと、本気で思ってるの?”
”ああ、とびっきりの淫売女だ。最初から俺をカモにしようと思ってたろ?”
”犯して、ボロボロにしてやりたい?”
”いや、それには値しない。ただ、眺めていたいだけさ”
”変なひと・・・”
女は初めて微笑んだ。
そして、女はますます美人に昇華していく。
私は本気で犯したくなった。
最後に〜バレンタイン司祭の贈り物?
その時、夢から覚めた。
最初は寒くて凍え死にそうで、とても嫌な夢だった。その上、クラブの女もその店も、最初はとてもグロテスクに映った。
しかし、悪魔のような商売女と話してるうちに、少しずつ閉ざされた心を開く自分がいた。
私は自分をもう少し開放すべきなのかもしれない。事実、スーツを着た私は別人だった。
確かに、人は見かけじゃない。そういう事は解りきってる。
しかし、鏡に映る自分を眺めている私は、確かにナルシストそのものであった。
女は、私がナルシストな田舎男である事を既に見抜いていたのだろう。
そういえば、若い頃、私は自分の顔に酔ってた時期がある。予備校に通ってた時もOLの目をよく惹いたもんだ。中洲で遊んでた20代後半の頃も商売女にはモテたほうだ。
しかし、若い男なら誰だってそんな思い出の1つや2つはあるだろう。
でもあの女は、私の何に惚れたのだろうか?いや、私はあの女の何処に惚れたんだろうか?
これもオミクロン株の目に見えない恐怖がもたらす幻想であろうか。
いや、バレンタインデーの翌日に見た夢だったから、バレンタイン司祭が差し出した奇怪な贈り物だったのかもしれない。
因みに、キリスト教の司祭だったウァレンティヌスは、禁断の恋に悲しむ兵士たちを憐れみ、内緒で結婚式を行っていた。が、皇帝は兵士たちの結婚を認めない。しかし、司祭は皇帝の命令に背き、2月14日に生贄として処刑される(Wiki)。
坊主頭の男と商売女との禁断?の恋も悪くはないが、もう少しロマンチックな展開であれば・・・でもこれはこれで良しとするか。
銀座も例外ではない
往年のNo.1ホステスは
やがて淫売女に成り下がり
往年の煌めきも妖艶さもない
理想の男をひたすら追い求め
決まった様にいい人にすがる
勿論のことだが
いい人が相手にできる類の女じゃない
やがていい人にも見捨てられ
冷たく冷え込んだ安物のコートだけが
女の錆び付いた心を温める
唯一の思い出として生き延びるしかない
コロナはよしも悪くも全てを浄化した
夜の街も例外じゃない
夜の女は絶滅し
いい人は再び自分の殻に引きこもる
夢に登場した女は既に絶滅した女であり
夢に登場した男は
自らを開放する機会を静かに伺う男
人はそうやって生き延びていく
まるで私の心を見透かされてる様な気がします。
夢に登場した女は絶望を表し、夢に登場した男は希望を表してますか。
いい人は商売女を踏み台にして生き延びるべきなんですよ。
自分を開放するとはそういう事かもですね。
”あ”でも”う”でも、いいねよりもコメントの方が温もりがありますから。
それと嫌がらせコメの件ですが
”スパム通知して拒否”のオプションがあります。或いは、相手のhttpが判れば個別に拒否出来ます。
それでもしつこければ(専門的になりますが)、逆探知も不可能ではないかな。息子さんがシステム系なら可能だと思います(多分)。
コメント欄を閉じるのは負けたような気がしないでもないのですが、しかし、鬱陶しいんですよ。
ほんとに困っています。
少なくとも短歌が詠める人でしょうね。
短歌に反応したという事は、記事よりも記事の中の短期に反感を持ったのかもですが。
安易な推測は誤解を生むので、これまた決めつける訳にも行かないのですが・・・
暫くはコメント欄を閉じて、フォロワーの記事に相談することで鬱憤を晴らした方がいいかもですね。
訂正です。