前々回「その1」ではナルシシスト数を、前回「その2」では、完全数について紹介しました。娯楽が少なかった古代ギリシャ時代では、数学と言うより、こうした”(自然)数のお遊び”が大衆の娯楽になりえました。
今で言う”数トレ”とか”脳トレ”と呼ぶのでしょうが、数学が非常に高度で難解な学問ではあるが、数字の神秘性やそのユニークさは時代を超えて人類の知覚と興味を惹きつけ続けている。
”数字に憑かれる”とは、こういう事かもだが、今日は、友愛数と婚約数、そして社交数の神秘について紹介します。
友愛数と婚約数
映画「博士の愛した数式」では、「その2」で述べた”完全数”以外にも”友愛”という洒落たネーミングの数も登場する。
この”友愛数”(amicable number)だが、完全数でない”不完全数”として分類され、その仲間としては”社交数”や”婚約数”がある。
この友愛数とは”異なる2つの自然数の組で、自身を除いた約数の和が互いに他方と等しくなる数”の事を言い、”親和数”や”友数”とも呼ぶ。
因みに、約数関数σ(n)=”nの約数の和”を使えば、異なる2つの自然数n,mの組が友愛数であるとは”σ(n)=σ(m)=n+m”と簡単に定義できる。確かに、日本語で長々と説明するよりずっとスムーズですね。
例えば、最小の友愛数の組は220と284である。これは、220の(自分自身以外の)約数の和=1+2+4+5+10+11+20+22+44+55+110=284となり、284の(自身以外の)約数の和=1+2+4+71+142=220となるより確認でき、事実、σ(220)=σ(284)=504=220+284と、上の定義式を満たす。
因みに、映画「博士の愛した数式」では、深津絵里の誕生日2月20日と博士(寺尾聰)の時計に書かれた番号が”220と284の組”であるとして、友愛数が紹介されている。
実際に、友愛数の組を小さい順に書くと、(220,284),(1184,1210),(2620,2924),(5020,5564),(6232,6368),(10744,10856),(12285,14595),(17296,18416),(63020,76084),(66928,66992),…と、1000万以下の数値の組に限った場合でも、108個の友愛数が存在する事が確認され、完全数の52個に比べ、ずっと多い事が判る。
また、これら友愛数の組はいずれも偶数同士又は奇数同士の組み合わせである事も判る。
因みに、自分自身を除いた約数の和が元の数と等しい場合を完全数と呼ぶが、自身を除いた約数の和を次の数として同じ様に計算し、元の数に戻る時、その組は”社交数”となる。故に、”不完全数”として分類されるのだろうが、社交数に関しては以下で別途、詳しく説明する。
そこで「友愛数って知ってますか」やウィキを参考に、友愛数の歴史を探ってみよう。
まず古代ギリシャのピタゴラス学派は、(220,284)なる友愛数の存在を認識してたとされるが、次に発見された友愛数は、9世紀のアラビアの数学者で天文学者であるサービト・イブン・クーラによる(17296,18416)で、現在では8番目に小さい友愛数であった。
その後フェルマーにより、先の友愛数(17296,18416)が再発見され(1636年)、その2年後にはデカルトにより、3番目の友愛数(9363584,9437056)が発見され、現在では104番目に小さい友愛数となる。
この様に友愛数については、有名な数学者により発見されてきたが、興味深いのは(完全数の発見もそうだったが)、必ずしも小さい数から順に発見されてきた訳ではない事。事実、現在で2番目に小さい友愛数(1184,1210)が発見されたのは、1866年にニコロ・パガニーニという16歳の少年によるものだ。
因みに、18世紀の偉大なる数学者オイラーは友愛数を探し出す法則を考え出し、60余りの友愛数を発見したが、この2番目に小さい友愛数は発見出来なかった。但し、現在はオイラーの法則やコンピューターを用いる事で、2018年1月現在にて、12億以上の友愛数の組が発見されている。
一方、完全数と同様に、”友愛数の組は無数に存在するのか?”とか”偶数と奇数からなる友愛数の組は存在するか?”といった未解決問題も存在する。
また、友愛数の仲間である”婚約数”(betrothed numbers)と呼ぶエレガントな名称の数だが、”異なる2つの自然数の組で、1と自分自身を除いた約数の和が互いに他方と等しくなる数”の事をいい、”準友愛数”とも呼ぶ。
これも日本語で説明するとややこしいが、約数関数σで定義すれば、異なる2つの自然数n,mの組が婚約数となるには”σ(n)=σ(m)=n+m+1”となる事である。
例えば、最小の婚約数(48,75)だが、48の(1と自分自身以外の)約数の和=2+3+4+6+8+12+16+24=75となり、75の(1と自分自身以外の)約数の和=3+5+15+25=48となる事から判るが、σ(48)=σ(75)=48+75+1となり、簡単に判定できる。
また、婚約数も多数存在するが、小さい方から順に、(48,75)、(140,195)、(1050,1925)
、(1575,1648)、(2024,2295)、(5775,6128)、…となり、これらは全て、偶数と奇数の組み合わせからなる。
一方、婚約数にも友愛数と同様に”婚約数は無数に存在するのか?有限なのか?”や”偶数同士又は奇数同士の婚約数の組は存在するのか?”との未解決問題が存在する。
社交数〜友愛数の拡張版
友愛数は2つの数の関係だが、社交数はこれを拡張し、3つ以上の数の関係にすると言える。
つまり、”社交数”(sociable numbers)とは”異なる3つ以上の自然数の組で、ある数Aの自分自身を除いた約数の和が他の数Bになり、Bの自分自身を除いた約数の和が他の数Cになるという事を続けた結果、元の数Aに戻る数の組”の事をいう。確かに、誰とでも打ち解ける数字とも言えますね(笑)。
これを対比で言えば、完全数は”1個組の社交数”であり、友愛数は”2個組の社交数”ともいえる。また、s(n)を”nのn以外の約数の和”とすれば、社交数の定義は、”s(N₁)=N₂, s(N₂)=N₃,…s(Nₘ)=N₁を満たすm個の整数の組”と簡単に書ける。
例えば、最小の社交数の組は(12496,14288,15472,14536,14264)でとなるが、12496の(自分自身以外の)約数の和=1+2+4+8+11+16+22+44+71+88+142+176+284+568+781+1136+1562+3124+6248=14288となり、14288の(自分自身以外の)約数の和=1+2+4+8+16+19+38+47+76+94+152+188+304+376+752+893+1786+3572+7144=15472。更に、15472の(自分自身以外の)約数の和=1+2+4+8+16+967+1934+3868+7736=14536となり、14536の(自分自身以外の)約数の和=1+2+4+8+23+46+79+92+158+184+316+632+1817+3634+7268=14264となり、14264の(自分自身以外の)約数の和=1+2+4+8+1783+3566+7132=12496となって最初の数に戻る。
以上の計算を上の定義式に当てはめれば、s(12469)=14288,s(14288)=15472,s(15472)=14536,s(14536)=14264,s(14264)=12469を満たし、社交数の5個の整数の組(12496,14288,15472,14536,14264)が簡単に確認できる。
因みに、2018年7月にて、5410組の社交数が発見され、社交数の組の数は4,5,6,8,9,28だけであり、これら以外の個数の組の社交数は発見されていない。
一方で、社交数についても”社交数は無数に存在するのか?”や”何個組までの社交数が存在するのか?”等は未解決問題となっている。
ネーミングの不可思議
ではなぜ、友愛数や婚約数や社交数という名称が付けられたのだろう?
まず昔の数学の世界では、”偶数が女性を奇数が男性を表す”と考えられていた。故に、偶数同士又は奇数同士からなる友愛数は、まさに同性同士の関係によるもので、婚約や結婚ではなく”友愛”という言葉が用いられ、今で言う”同性愛”という事になろう。
一方、偶数と奇数からなる婚約数はまさに異性同士の関係だ。但し、友愛数の様に”自分自身を除いた約数の和が他方に等しい”という訳ではなく、”1”も除かれてる事から”結婚”ではなく、その前の段階とみなし、”婚約”という名が用いられたと言える。
また、複数の連鎖を通じ、友愛関係(連携)が示される事から、社交数については”社交”という言葉が用いられた。
ここで仮に、”偶数と奇数の友愛数が存在する”とすれば、これは異性同士の友愛という事になり、結婚を意味するので、”結婚数”と呼べるが、この意味での”結婚数”が存在するのか否かは(既に述べた様に)未解決のままだ。
従って、数学の世界では”結婚”を表現する数の組合せの条件は極めて厳しく、未だその存在すら確認されてない事になる。
一方で、”婚約数”では”偶数と奇数の組み合わせしか存在しない”となれば、これは”同性同士の婚約数が存在しない”事を意味する。
では、友愛数や婚約数や社交数というユニークな名称の数の概念は、一般社会にはどう受け入れられ、どの様に役立ってるのだろう?
これについては、悲しいかな特段に利用されてる訳でもないし、日常で頻繁に耳にする数字でもない。
その意味では、完全数と同じく純粋に興味や関心の立場から研究が行われてるに過ぎないが、将来これらの数に関する未解決問題が解決し、その構造等が明らかになれば、何らかの形で社会でも話題になり、日常で利用される形に発展するのかもしれない。
数とは色々と面白い性格を有し、奥深いものである。数学者もそうした神秘で愉快な性質を持つ数字と親しくする為に、結構洒落たネーミングをつける事も理解できる。
つまり、数学とて”楽しんだもん勝ち”なのである。以上、ニッセイ基礎研究所のコラムからでした。
最後に〜多重友愛数と友愛三数
最後に、友愛数の一般化された形を紹介する。
約数関数σ(n)を”nの約数の和”とすれば、”σ(n)=σ(m)=n+mとなる時に(n,m)が友愛数となる”事は先にも述べたが、友愛数を一般化した”多重友愛数”とは、”σ(N₁)=σ(N₂)=…=σ(Nₘ)=N₁+N₂+…+Nₘ”を満たすm個の整数の組で、”m重友愛数”(amicable m-tuple)とも呼ばれる。
また、m=3の時の3重友愛数は”友愛三数”とも呼ばれ、1913年にレナード・ディクソンが発見した(103340640,123228768,124015008)及び(1945330728960,2324196638720,2615631953920)を始め、多数が見つかっている。
因みに、3重友愛数の最小の組は(1980,2016,2556)であり、σ(1980)=σ(2016)=σ(2556)=6552=1980+2016+2556を満たす事が判る。
他方で”4重友愛数”の存在は、遅くとも1994年までにYasutoshi Kohmotoによって解決され、Kohmoto氏は4重友愛数の一般式として(日本版ウィキでは)小難しく説明されてるが、英語版ではその殆どが省略されている。
多分、これまで3話を通じて説明してきた、ナルシシスト数や完全数や友愛数などを研究対象とした”数のお遊び”は、日本人固有のものかもしれない。
事実、日本の数学は算術や代数に基づく純粋数学に傾倒する向きにあり、微積分や解析や位相などの応用数学や実践数学には疎い部分がある。
確かに、ABC予想を解き明かして何か役に立つの?って思わなくもないが、理解や証明を重視する日本の数学と予想やアイデアや発想を重視する欧米の数学とは感覚が異なるのだろうか。
ともあれ、こうした数のお遊びが古代ギリシャ時代から盛んに行われ、オイラーやフェルマーらの中世ヨーロッパの天才数学者らの好奇心を擽ってきたのは確かであり、ヒトは先天的に数字と戯れる様に出きてるのだろう・・
例えば、1260は1,2,6,0の4つの数を並べかえて作った数である21と60を掛け合わせると1260になる。
ヴァンパイア数とは吸血鬼を表す数ですが、掛け合わせる2つの数字を吸血鬼の2つの牙(fang)に喩える事から来てるそうですが、これも数字と言葉のお遊びなんでしょうね。
とても嬉しいです。
私はダイヤル数と言うのがとても強く印象に残ってます。
ダイヤル数の名の由来は数が回る事からですが(ブログでも紹介した)、その巡回数の神秘が”1/素数”から来てるんですよね。
まさに、神秘と驚きでした。
その上、こうした”数のお遊び”が数論(算術)の基盤になってる事も教えられました。
数学は学問と見なすと窮屈ですが、強要としてみれば、とても楽しいもんですよね。
コメントいつも有り難うです。