象が転んだ

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猿でも解る?バーゼル問題”その4”〜最初に楔を打ち込んだオイラーの功績

2021年10月15日 06時53分34秒 | 数学のお話

 「その1」では、”バーゼル問題”の起源と、その難関に最初に挑んだヤコブとヨハンを始めとしたベルヌイ一家の苦難を紹介し、「その2」では、無限級数Q=1+1/2²+1/3²+・・・の精密な値を求める事で、バーゼル問題の分厚い壁に果敢に挑んだ3人の数学者(ダニエル、ゴールドバハ、スターリング)を紹介しました。
 そして前回の「その3」では、オイラーが無限級数Qの収束性を考察する為の加速法として用いた”オイラー=マクロリン級数”を使い、非常に精度の高い値(小数11位まで一致)を求めた事を紹介しました。
 

もう一度、オイラー=マクロリン級数(公式) 

 因みに前回の補足になりますが、オイラーは1732年、バーゼル問題を解く3年前にこの級数を発見しました。当時はまだ級数Qの収束性を探る加速法の1つに過ぎませんでしたが、バーゼル問題を解き明かした3年後の1738年には、ベルヌーイ数を含む”Σ=∫+α”の形をした”オイラーの和公式”として発表します。
 同時期(1942年)に、マクロリンも独立した形で発表したので、”オイラー=マクロリン公式”とも呼びます。
 これは数列の和Σを定積分∫と誤差αの形で表現したもので、Σ(シグマ)は(紀元前3世紀)のギリシャ時代のアルキメデスにより、(インテグラル)は17世紀のライプニッツにより発見されました。
 積分の定義が確立されてなかった当時は、区分求積法で∫の積分値を求めました。関数で囲まれた面積を細かく(短冊状に)区分する程に積分値の精度は高くなり、この求積法は∫をΣを使って計算したものと言えますね。

 一方でオイラー=マクロリン公式は、以下の等式で表されます。
 Σₖ[m+1,n]f(k)=∫[m,n]f(x)dx+{f(n)−f(m)}/2+ΣₖBₖ{f⁽ᵏ⁾(n)−f⁽ᵏ⁾(m)}/(k+1)!
 故に、この公式は(求積法とは逆に)Σを∫を使って計算したものと言えます。
 特に、公式の第2項と第3項のα(補正値)はマクロリン級数(展開)で関数を近似し、微分を用いた誤差補正となります。
 これは、関数f(k)で(k:m~n)囲まれた面積と、区分求積法で得られる短冊状の面積の差を小さくする事による補正です。つまり、短冊を細くする程に精度の高い値が得る事が出来ます。
 その誤差補正の第3項には、ベルヌーイ数Bₖが含まれる事から、級数の総和を正確に求める為に、この和公式は積分と微分とベルヌーイ数を用いた画期的な公式と言えます。
 以上、寄せられたコメントそのまんまでした(悲)。


双曲線対数を用いる方法

 上で述べたオイラーの和公式は2番目の論文(1732)でしたが、オイラーの最初の論文(1730年、共に1738年に発表)では、eを底とする双曲線対数(自然対数)logₑxの級数展開を用いました。
 今ではeを外し、logx又は=lnxと書きますが、eはネイビア数(=2.718281828459)の事で、自然対数をy=logxとおけば、eʸ=xとできます(両辺にlogを被せれば明らかですね)。
 昔は10を底とした常用対数log₁₀xも使われてたが、後に単純な積分やテイラー級数でeを底にした自然対数が極めて容易に定義できる事から、今では”自然”に使われる様になりました。
 因みに、1649年以前の直交双曲線xy=1の求積法では、自然対数logₑxに結び付けられる性質を満足する"双曲対数"函数の必要から生じ、双曲線対数(log.hyp)と呼ぶそうです。
 logxの級数展開は、logx=(x−1)−(x−1)²/2+(x−1)³/3−(x−1)⁴/4+・・・となり、ここではlog(1−x)=−x−x²/2−x³/3−・・・を使います。

 この「無限に増加する項の和」(1730/1)では、この第一論文の前半で導いた漸化式∫xⁿ⁻¹logxdx=(xⁿ/n)logx−xⁿ/n²ー①から出発し、y=1−x、dy=−dxをを用いて、級数∫−y⁻¹log(1−y)dy=∫(1−x)⁻¹logxdx=∫(1+x+x²+・・・)logxdx=∫(logx+xlogx+x²logx+x³logx+・・・)dxー②を導きます。途中、1/(1−x)の級数展開を使ってます。但し、①の∫xⁿ⁻¹logxdxから∫(1−x)⁻¹logxdxに変形する過程はpdf版でも説明がなかったので、そのまま通します(悪しからず)。
 ここで、オイラーは②式を2通りに展開します(ここら辺が憎い所です)。  
 まず、②式の各項を部分積分を使えば、∫logxdx=xlogx−x、∫xlogxdx=(x²/2)logx−x²/4、∫x²logxdx=(x³/3)logx−x³/9、、、となり、②=xlogx+(x²/2)logx+(x³/3)logx+・・・−x−x²/4−x³/9−・・・ー③と展開できます。
 部分積分(∫fg=Fg−∫Fg)ですが、logxを微分される方(g)に使うと上手く行きます。

 一方で、②式を上述のlog(1−y)の級数展開を使い、そのまま変形します。すると、∫−y⁻¹log(1−y)dy=∫−y⁻¹(y+y²/2+y³/3+・・・)dy=∫(1+y/2+y²/3+・・・)dy=y+y²/4+y³/9+・・・ー④を得る。
 ここで③と④より、∫−y⁻¹log(1−y)dy=(x+x²/2+x³/3+・・・)logx−(x+x²/4+x³/9+・・・)=y+y²/4+y³/9+・・・となり、(x+x²/2+x³/3+・・・)logx=−log(1−x)logx=(x+y)+(x²+y²)+(x³+y³)+・・・を得る。
 x=uとすれば、−log(1−u)logu=(y+u)/1+(y²+u²)/4+(y³+u³)/9+・・・+ー⑤となり、①でy=1−xとした事から、y=1−u(y+u=1)を⑤に代入すると、Q=1/1+1/4+1/9+1/25+・・・=(y+u)/1+(y²+u²)/4+(y³+u³)/9+・・・+logy•loguー⑥を得る。
 この⑤から⑥への帰着が少し曖昧ですが、pdf版にもその説明はなされてないので、そのまま進めます(悪しからず)。


オイラーの第二の加速式

 ここで、先に言った様にy+u=1と仮定したが、y=uとすればy=u=1/2となり、⑥に代入すると、Q=1/1+1/4+1/9+1/25+•••=1/1+1/2•4+1/4•9+1/8•16+1/16•25•••+(l(1/2))²と、これまた「前回」の(級数Qの収束性を探る)加速法同様の有効な式を得る。
 この式の中辺(右辺)の級数は分母が平方数だけなのに対し、右辺は分母が平方数と2のべき乗との積となってるので、右辺の方が当然収束が早いですね。

 そこでオイラーは、右辺の級数の和(=1.164481)に、(log(1/2))²=(log(2))²=0.63147²=0.480453を加え、Q=1.66934を得た。
 故にこの加速法だと、項数さえ増やせば幾らでも精密な値を求める事が出来ます。
 しかし「前回」でも述べた様に、Qの値を求めただけであり、Qの素性に迫った訳ではない。スターリングの著書(1730)の中の記述と同じ時期であるとは言え、オイラーが初めて独立した形でQの値を求める方法を確立した。
 勿論、現代的観点から見れば、無断で項別積分を用いたなどの多少の欠陥はあるが、それは当時は普通に行われてた事でもあり、大した問題ではない。
 事実、W・ダンハム(1947~、米)は”現代的立場から合理化する事は容易である”と語る。つまり、結果論からの視点では何でも言えるという事であろう。
 故に、オイラーがバーゼル問題に精密な数値を与えるという”最初の楔”を打ち込んだ功績は、誰もが認める所でもある。

 以上、前回同様に、「バーゼル問題とオイラー」(杉本敏夫、pdf版、2007)を噛み砕いたつもりですが、2つほど少し不明瞭な所があります。私なりに、ヘビのような脳みそと執着心を持って色々と調べましたが、解決には至りませんでした。もし解る方はコメント欄にでも投稿してもらえば、とても助かります。

 次回「その5」では、オイラー積の起源となったとも噂されるウォリスの無限積の研究とオイラーの第三の論文について書きたいと思います。



8 コメント

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ビコさん (象が転んだ)
2021-10-20 08:01:50
わざわざ気を使って頂き、どうもです。
ゆっくりしようとも思ってましたが、一昨日も日も早起きして、葬儀の精算や諸々の処理を始めています。
ここ2週間は気が張ってたせいか熟睡出来なかったんですが、少しずつ深く眠れる様にはなりました。

ただ想定外だったのは、母の口座凍結でした。相続は私一人と楽観してた私がバカでした。
昨日は市役所へ行き、世帯主や諸々の変更をしましたが、口座の凍結(による預金移行)と不動産の名義変更だけは、かなり面倒で玉砕状態です。こうした手続きはマイナンバーを使えばスムーズに処理出来ると思ってたんですが・・・

予め知っておけば何て事ないんですが、大半の引落しは母の口座でしたから、前もって口座変更と預金移行をしとけば、慌てる事もなかった(悲)。母の除籍抄本が出来るのが25日という事で、その日まではゆっくりしたいと思います。
ただ今回強く思ったのは、日本という国は(私と同じで)未だに成熟しきれない子供の国なんですよね。全てをアメリカに依存し、全てを剥ぎ取られ、アジアの中でも非常に貧しい国の一つだと思います。

コメントは承認制にしてますから、心配ご無用ですよ。
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Unknown (びこ)
2021-10-20 02:37:34
どうされているかなと思って見に来ました。お葬式って、ほんと、わけもわからずお金がかかりますね。わが家の義母のお葬式もかなりかかりました。お坊さんへのお布施も葬儀社が指示してくるんですね。私は夫に私のときは直葬でいいと言ってありますが、必ず私が先に死ぬとは限らないから悩ましいです。転象さんは全部一人でしないといけないから余計大変だと思います。

誹謗中傷の件ですが、転象さんもコメント欄を承認制にされたらと思います。承認制にしてあることだけで嫌がらせコメントは入らなくなります。ただコメントのたびにアップする手間がかかりますが…。

お忙しいでしょうから、このコメントには返信無用です。
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ビコさん (象が転んだ)
2021-10-17 10:32:50
気を遣わせて、ホント申し訳ないです。
一応用心の為に、よそ様の不幸は中傷の種にならないとも限りませんから。

葬儀費用の件ですが、ビコさんの旦那さんみたいに何でも自分で出来る人なら、火葬費+α程で済ませるんではと。読経とても文章は決まってる筈ですから・・・
それに宗派の件ですが、うちは日蓮宗と思い込んでましたが、父方の親族から聞いたら、違う宗派らしい。父の母が日蓮宗という事で揉めたらしく、今は元に戻したと。
今回は業者にお任せという事で、火葬と(戻り)初7日では坊さんが異なる。それも地元じゃなく、久留米北の1時間以上掛かる所から来るらしいです。

私の時は、読経の代りにゴスペルを子供に歌ってもらおうかなと真剣に考えてます。
日本の冠婚葬祭のペテンにはウンザリですからね。
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Unknown (びこ)
2021-10-17 07:58:27
コメント返しするために一旦公開しましたが、読まれたようなので非公開にしておきました。公開したのは深夜から早朝でしたから、読んだ人はほとんどいないと思いますからご安心を。落ち着いたら、事の顛末を記事にして読ませてください。人の生死に関わる記事は、皆さん、身内のときの参考のため読みたいと思うと思いますから、ぜひ!
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ビコさん (象が転んだ)
2021-10-17 04:34:47
非公開にと言ってたのに・・・(笑)
男って自分の弱みをさらけ出す事は、卑怯だという特質があるんですよ。
でも個人の(弱み)のドキュメントって不思議とウケがいいんですよね。
日本の冠婚葬祭って矛盾が多いですよ。香典は受け付けないと言っても、包んでくるド田舎の偏質とアホ臭。
葬儀も形式やカネじゃなく、命の尊厳という本質を大切にして欲しいですよね。
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Unknown (びこ)
2021-10-17 03:04:24
ご愁傷さまでした。くそ親戚のことは気にしないで、身体に気をつけて乗り切ってください。
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UNICORNさん (象が転んだ)
2021-10-15 12:53:55
早速コメント有難うございます。
そうなんですよね。
この2つで相当悩んだです。
色んなPDFを読んだんですが、イマイチで・・・
言われる通り、①から②は何となくそうなりそうな気もするんですが、⑤から⑥はどう弄っても出てきそうにない。
オイラー論文集に載ってればいいんですが、全てが編纂されてる訳もなく、迷宮入りしそうな予感です。
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どーうかな (UNICORN)
2021-10-15 10:34:29
①から②へは、次数nを1ずつ落としていけば、何とかなりそうな気もするけど。
⑤から⑥へは、オイラーの自筆の論文を見ないとちょっと難しいかな。
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