象が転んだ

たかがブロク、されどブロク

サーストンのように数学を親しむ〜本質を理解すれば、美しい真理が見えてくる

2024年10月27日 16時33分13秒 | 数学のお話

 「サーストン万華鏡」(小島定吉・藤原耕二 編)を読んでたら、”サーストンはトポロジー(位相幾何)の世界を一新した革命者であり、数学を3つに大別すれば、代数・幾何・解析とに分かれ・・”とある。
 確かに、大別すればの話だが、昨今の数学はあまりにも膨大に広がりすぎて、どこまでを代数と呼び、幾何や解析と呼ぶかを決める事はほぼ不可能である。つまり、今や数学とは全ての領域に通じる膨大なる宇宙の様な構造をしているのだ。

 現代数学には、数多くの専門分野が存在するが、それらが複雑に自在に絡み合い、無限に錯綜する網目の様な構造をしています。
 一方で、数学を分野(領域)で区別すれば、基礎と哲学・純粋数学・応用数学の大きく3つに分類される。
 更に、哲学と基礎には数理論理(数理哲学)や集合論や圏論があり、純粋数学には研究対象が量(数=自然数や実数や複素数など)と構造(置換論、数論、群論、グラフ理論など)と空間(幾何や三角法や測度論など)と変化(微積分、ベクトル解析、微分方程式、力学、複素解析、カオス理論など)に分かれる。
 応用数学には数理物理学やゲーム理論、数値解析や流体力学、確率論に統計学に暗号論、数理ファイナンスや数理生物学、数理化学、数理経済学、制御理論など、数学以外の分野と数学が結びついた理論の事を言います。
 以下、「数学の分野紹介」より簡単に紹介します。


純粋数学と応用数学

 その中でも、純粋数学は①代数②幾何③解析と呼ぶ3つの分野に大別されます。
 まず代数学には、素数の分布など数の研究を行う整数論、加減乗除を抽象化した構造を調べる群・環・体の理論、代数方程式の解を研究する代数幾何と呼ばれる分野などがある。
 次に幾何学とは、モノの形を探る分野で、ギリシャ時代のユークリッド幾何(初等幾何)に始まり、微積分の誕生により生まれた微分幾何、連続変形で重ね合わせられる図形を同一視する事から生まれた位相幾何(トポロジー)と呼ぶ分野などがある。
 特に微分幾何は、ガウス曲率を起点にリーマン幾何学に繋がり、アインシュタインの相対性理論として大きな華を咲かせました。また、トポロジーはポアンカレやサーストンやペレルマンらの新世代の天才を生んだ。

 最後に、解析学ですが、微積分学から発展し自然現象を記述する微分方程式の研究、関数そのものの性質を追求する複素関数論、不確かさの世界を追求する確率論、量子力学などの記述に不可欠な関数解析などの分野がある。
 特にリーマンで言えば、代数の分野である素数の謎をゼータ関数を使って解析し、ガウスの素数定理を素数公式に昇華させましたが、その中の周期項に含まれるリーマン予想だけが家の有名な人類史上最難関とされる未解決問題となり続ける。

 以上は、様々な研究分野の一部を挙げたに過ぎず、どの分野にも関係し分類が難しい分野も存在し、代数・幾何・解析は独立したものではなく、其々が互いに影響を及ぼし、それらの相互作用により数学が発展してると言える。
 一方で数学は、自然科学や工学や医学らの諸分野、更には経済や政治や金融・投資などの社会科学と密に影響を及ぼしあい、そうした分野を応用数学と呼ぶ。また、純粋数学と応用数学も互いに影響を及ぼしあい、今日の数学はダイナミックな規模で発展を遂げていく。
 更に、数学理論の他分野又は現実社会への応用は、思わぬ形で数学の外の世界に影響を及ぼし、ユークリッドの「平行線公理」から生まれた幾何学は一般相対性理論(時空の幾何学)へと結びつき、人類の世界観の変革に大きく寄与しました。ケプラーの第3法則を起点としたニュートンの万有引力の法則は、重力の発見に繋がり、地動説の誕生を決定的にし、カトリック社会からプロテスタントの世界へとの変革に至ります。
 以上、金沢大学HPからでした。

 確かに、数学は記号や数式や論理式などを含む代数的側面と幾何という図形的側面に分かれるが、解析という分野はどの位置づけになるのか?
 高校数学(初等数学)を振り返ると、式の計算・方程式・関数・平面/空間図形・確率・統計などを学ぶが、式の計算・方程式が代数で、平面/空間図形が幾何となり、関数と確率・統計は広い意味では解析となる。
 例えば、座標軸で図形を扱う解析幾何では方程式が頻繁に出てくるし、微積分にも代数計算が必要となる。また、数学から解析を外せば、それは”動かない数”の世界であり、小学校で習う算数となる。
 以上を平たく言えば、幾何は方程式の形を見つめ、解析はその方程式の解の存在を調べ、代数は解を記述・表現すると纏める事が出来ます。だが、現代数学では幾何・解析・代数は複雑に絡み合う。


現代数学の3つの柱=幾何学・解析学・代数学

 そこで、幾何・解析・代数の3つを1つ1つ説明したいのですが、代数学が不得手な私は振り返るだけでも苦痛である。
 事実、大学(数学科)の卒論はネター環の定義の1つで、「有限表示加群の局所化が自由加群になる事の証明」だったが、A:環、M:有限A加群の時、Uf={p∈Spec(A)|Mp:自由Ap加群}との主定理を使うのだが、Ufが何を意味すののか?未だに理解に苦しむ。
 つまり、代数学に登場する記号や不等式を見てるだけで鬱になる。
 程度の低い?(と言ったら失礼だが)大学ほど、代数という古典数学を学ばせたがるが、幾何や解析から先に学んでたら、もう少し大学の数学に親しめたであろうか?いやそうでもないか。

 個人的には解析学(主に関数論)が好きなのだが、元々絵が得意な私は幾何学も嫌いではない。それに幾何学は数学の応用分野とも言え、対象が図形なのでアプローチする為に代数も解析も使う。言い換えれば、幾何学が解析や代数を応用する場の役割を果たしてると言える。
 例えば、ペレルマンのポアンカレ予想の解決では、多様体上でハミルトンの非線形な偏微分方程式を解くという、解析学上の難しい方程式を幾何と結び付け、展開した。
 20世紀後半以降、微分幾何の様々な問題が解かれたが、偏微分方程式を解く手法が発展した事によるものが大きい。また代数的手法にしても、基本群やホモロジー群は幾何学の基本概念であり、位相幾何ではこれら代数的構造の考察は欠かせない。つまり、幾何学は数学の応用だけでなく、色々な数学が交わる交差点と言える。
 以下、「数学の3大分野、代数・幾何・解析の中で面白いと思うのは・・」に寄せられたコメント群を一部参考に纏めます。

 一方で、”役に立つ”という視点で言えば、解析学に軍配が上がるかもしれない。
 事実、解析学は応用数学で使われる頻度は最も高く、微分方程式論は言までもなく、フーリエ解析の威力は工学から物理学まで留まる所を知らない。数理ファイナンスの基礎となる確率解析に、例えば生物数学では力学系や分岐理論などの解析学の分野がふんだんに使われてる。また”意思決定の最適化”とのオペレーションズリサーチという分野でも解析学がよく使われる。
 他方で”最も使われてない”という点では判断しづらく、代数学は暗号論の基礎となるし、線形代数学はあらゆる理系の基礎であり、データサイエンスの一角とされる位相的データ解析にては群論が使われ、理論物理学でも群論はよく使われる。そして、四元数は今やCGにはなくてはならない概念だ。

 更に幾何学で言えば相対性理論が有名ですが、今では人工衛星の制御などで現代技術を支え、先述の位相的データ解析はトポロジーを起点とする。また、DNAのらせん構造を幾何学を用いて分析研究し、グラフ理論はコンピュータネットワークや生物の神経回路の解析にも使われる。
 この様に、幾何学は日常生活で使う事もあれば、測量や建築で使う事も沢山ある。
 以上より、世の中で”一番使われてる”のは解析学とも言えるが、幾何学も捨てきれないし、代数学も無視できないし、こればかりは一概には言えない。


最後に〜数学を腐らせない為に

 小学校の算数の科目では、四則演算を基本とした”計算”を学び、中学校で初めて”数学”となり、数の基本概念 が導入され、方程式や関数など算数にはなかった内容が登場する。
 更に高校の数学では、実数や複素数、三角関数や指数対数などの概念を導入し、最後は微積分や微分方程式などを学ぶ。
 それらの中でも、私は指数・対数関数の微分方程式が大好きだった。

 ただ、数学が好きになったお陰で、得るものもあったが、失うものの方がずっと大きかったように思う。
 予備校に行ってた頃、数学を専攻しようと思ってる人は”覚悟が必要だ”とある講師が言ってたが、その時はその意味が解らなかったし、理解しようとも思わなかった。
 「数学が計算の上を跳ぶ」でも書いたが、(算数は勿論)高校までの数学が実は数学の真の姿ではない事が大学で思い知らされた。だが、私の大学は程度が高い方ではないので、高校レベルの数学でも何とか卒業できる。
 率直に言えば、(関数論を除いては)大学の数学の大半を理解しないまま卒業した事になる。因みに、大学の数学が理解できる様になったのは55を過ぎてからの頃で、逆を言えば、数学を仕事にする職業に就かなくて本当に良かったと思っている。

 事実、高校までの数学は受験数学で、ただひたすら問題を解く為の公式と解法を覚えるという、とても退屈なものだ。勿論、それだけで数学アレルギーになる人が殆どだが、大学での数学(つまり本当の数学)は抽象的すぎて鬱になる。従って、数学は2段階の篩(ふるい)をかけ、それらをクリアした人だけが(程度の差こそあれ)数学を専門とする仕事に就ける。
 勿論、それでも素晴らしい事だし、純粋数学の視点で言えば、プロの数学者みたいに、定義や定理や証明に拘り。抽象的で難解な数学を理解する事もプライドを維持する為には大切であろう。
 だが、数学を理解する事よりも数学の本質を伝える事の方がずっと重要であり、数学の本質を理解できる人を増やす事が現代数学の発展に繋がる。 
 一方で、応用数学の視点で言えば、数学は世の役に立ってこそ、初めてその真価を発揮すると言える。言い換えれば、人と数学と世の中は密に繋がっているのである。

 例えば、生物学は(その多くで)化学の知識を必要とするし、化学では物理学の知識が必要になる。更に物理学は、数式によって記述され、微分積分法の考え方を必要とする。
 こうして、理工系だけでなくあらゆる学問を突き詰めると数学に直面すると言っても過言ではない。また、あらゆる学問から数学を眺める事で、その景色は様々に彩りを変える。
 一方で、数学の最大の魅力は想像を超えた知的体験にあると思う。一方で、抽象的という末恐ろしさも含んでいる。だが、数学をアイデアの集合体と考えれば、少なくとも思考の妨げにはならない。


補足〜サーストンという人

 冒頭で少し触れたサーストンだが、”数学的思考で最も大切なのは、ある事が全体の概念と結びつき、直感的に考えられる事だ”と語る。
 それは人と会話したり、絵を描いたり、頭の中で何かをイメージしたりと・・そういう事なのかもしれないが、”色んな事に関心を持ち、常に新しい何かを求める”事が重要だとも語り、”数学の最も美しい点は無に近い状態から始めて、徐々に秩序が見えてきて、それを組み立てて学ぶ事にある”とも説く。
 サーストン(1946−2012)は、ポアンカレ予想の解法を考察する過程で”3次元多様体は8つの多様体に分解される”という「幾何化予想」を提唱した。
 この衝撃的な予想は、ペレルマンが「リッチフローの特異点問題」(byハミルトン)を解決し、ポアンカレ予想に決着をつけるまで、3次元幾何学の強力な指導原理となり、”サーストンの野心”とまで揶揄された。

 そのサーストンだが、幼い頃から押し付けられて勉強するのが大嫌いで、小学校の教師からは”いつも空想に耽ってる怠け者”との評価を受けていた。しかし数学者になった後”その様な性格が非常に数学に合ってる事に気付いた”と振り返る。
 確かに、(高木貞治氏も含め)歴史を代表する天才数学者には怠け者が多いとされる。
 ”無精や怠けには意味がある筈だが、怠けに価値がなければ人は怠けない。そんな怠けはきっと何らかの役割を果たしている”とのサーストンの言葉は目に鱗である。
 つまり、数学は人の役に立ってこそ、学問として成り立つのであり、でなければ、難しいだけの抽象的な怠け者の学問で終わってしまう。
 数学が世の中の役に立つとは、そういう事なのだろう。



2 コメント

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幾何化予想について (腹打て)
2024-11-05 14:32:52
(全ての閉じた)3次元多様体では<常に基本ブロックに分解可能であろう>というのが幾何化予想だが、別の言い方をすれば<基本ブロックが決まれば3次元多様体が決まる>とも言える。
但し、全ての3次元多様体が<幾つかの素な多様体に分解できる>事は、過去にHクネーザーにより証明されていた。
更にサーストンは、3次元の多様体上に幾何構造を定義すれば<8種類の幾何構造が考えられる>と主張した。
この主張こそが、転んだ君の言う<サーストンの野心>となる。
事実、全ての2次元多様体は3つの幾何構造を持つ事が既にポアンカレにより示されてたから、それを拡張した形とも言える。
勿論、2^3=8と計算した筈もないだろうが(笑)、自由度の高い3次元多様体の基本構造を8個に限定したサーストンの天才ぶりは特筆すべきである。
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腹打てサン (象が転んだ)
2024-11-05 20:07:21
ペレルマンは、この幾何化予想をヒントにポアンカレ予想を証明しました。
つまり、リッチフローを走らせる過程において、幾何化予想がポアンカレ予想の一般化となってる事に気付いたペレルマンですが
彼は幾何化予想を証明する際に特異点を制御する方法を発見し、リッチフローを逆行させ、特異点を解消し、更に、不完全だったハミルトン・プログラムを完走させる事でポアンカレ予想を攻略しました。

「ポアンカレ予想」でも書いたんですが、”サーストンの野心”との言葉ばかりが頭に焼き付いて、幾何化予想についてはあまり気に掛けてなかった様に思えます。
お陰で、改めてサーストンの天才を再認識しました。
コメントとても参考になります。
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