”2の13の1”で、素数定理に関するチェビシェフの不等式(π(x)の近似)を紹介しましたが。非常に判り辛く、曖昧で難解な点も多かったと思います。多分、アクセした方はいたでしょうが、読んで理解できた方は多分いないかな?と思います(悲)。
そこで、フォン•マンゴルド関数を使ったやり方が理解し易いので、改訂版として紹介します。
因みに、フォン•マンゴルド(1854-1925)は、素数定理をチェビシェフ第2関数ψ(x)を使い、証明の概念を呈示したドイツの数学者です。実は、このチェビシェフ関数もマンゴルト関数の総和で与えられ、マンゴルドがψ(x)の記号で初めて表記しました。
つまり、チェビシェフ(写真右下)が生み、マンゴルド(写真左下)が育てた関数と言えますね。
チェビシェフとリーマン(写真右上)、それにマンゴルドと立て続けに”素数の巨人”が続いたというのも驚きです。特に、マンゴルドはリーマンの素数公式(明示公式)を証明した事でも有名ですね。
まさに、リーマンがチェビシェフが、そしてマンゴルドが、眺めた素数の謎はほぼ同じだったんです。
チェビシェフの公式とマンゴルド関数
”2の13の1”(Click)で述べた[補題1−8](ⅱ)の、T(x)=Σψ(x/n)=ψ(x)+ψ(x/2)+ψ(x/3)+ψ(x/4)+•••ー①は、アルフォンス•ド•ポリニャク(仏 1826-1863)と共に発見しましたが、チェビシェフの方が有効に活用したという事でチェビシェフの恒等式(公式)とも呼ばれます。
因みに、T(x)=Σ(n≤x)logn=log2+log3+•••+logx=log(x!)と階乗の対数としても表せます。このT(x)も、ψ(x)やθ(x)と同様にチェビシェフが導入した関数です。
チェビシェフはこの公式を使い、ψ(x)の挙動を探り、π(x)の評価(近似)を確かめたんですが。この公式の証明は、このフォン•マンゴルド関数Λ(d)を使った方が、幾分スムーズです。
先ず、ψ(x/n)はxのnの倍数の時のみ飛躍する階段関数なので、①の両辺の各整数毎の飛躍が等しい事が言えれば①を証明できます。
x=nの時は、①の左辺は”logn”だけ飛躍し、右辺は”Σ(d|n)Λ(d)”だけ飛躍する。
因みにΛ(d)の定義ですが、Λ(d)=logp(d|nの時、d=p^ν)、Λ(d)=0(それ以外)。但し、d|n:dはnの約数、ν≧1。
ここで、n=p₁^α₁•p₂^α₂•••pₖ^αₖをnの素因数分解とすると、nの約数はp₁のα₁乗まで(即ち、p₁•p₁²•p₁³•••p₁^α₁)、p₂のα₂乗まで、、、pₖのαₖ乗まで、など同様に含んでいきます。また他の素数のべきは含まない。
故に、Σ(d|n)Λ(d)=α₁logp₁+α₂logp₂+•••+αₖlogpₖ=lognとなり、①の右辺と左辺の飛躍が同じであり、めでたくチェビシェフの公式が証明出来ました。
以下でも述べますが、ψ(x)=Σ(n≤x)Λ(n)で定義され、ψ(x)と同じくチェビシェフ第1関数のθ(x)を用い、ψ(x)=θ(x)+θ(√x)+θ(³√x)+•••と表示でき、ψ(x)~xとθ(x)~xと近似できます。
これらの近似が証明できれば、素数定理”π(x)~Li(x)”が容易に導けますが、これも以下で述べます。
これをリーマン風の解析的に言えば、チェビシェフの恒等式は、−ζ’(s)=(ζ’(s)/ζ(s))ζ(s)のフーリエ逆変換になってます。つまり、チェビシェフの第一の論文の基本アイデアが、”π(x)~Li(x)とζ関数の極との関係を含む”とは、こういう事です。
この様に、チェビシェフが素数定理を考察する時にゼータ関数を使ってた事は、少し驚きですね。
スターリングの公式とψ(x)の挙動と
ここで、ψ(x)~T(x)−T(x/2)−T(x/3)−T(x/5)+T(x/30)=α(x)と近似します(”2の13の1”の補題1-10)。
因みに、リーマンが第4の論文(1859)で駆使したメビウス反転を①に適用すれば、ψ(x)とT(x)の関係式が得られるが、解析が困難であった。
そこで、チェビシェフはこの困難さを回避する為、ψ(x)をT(x)−T(x/2)−T(x/3)−T(x/5)+T(x/30)に置き換えたんです。まさにアッパレ。
そこで、これに①を代入すると、ψ(x)−ψ(x/6)+ψ(x/7)−ψ(x/10)+ψ(x/11)−ψ(x/12)+•••となり、ψ(x)が交代級数になるという驚くべき性質を持ってます。
このψ(x)級数をΣ(n=0,∞)Aₙψ(x/n)と表し、α(x)=Σₙ(0,∞)Aₙψ(x/n)とおくと、先程の補題1-10の定義より、α(x)≤ψ(x)≤α(x)+ψ(x/6)。
つまり、ψ(x)−ψ(x/6)≤α(x)≤ψ(x)ー②を得ます。
ここで、スターリングの弱い公式(近似)である、Σ(n≤x)logn=T(x)=xlogx−x+O(logx)を使い、ψ(x)の挙動を求めます。
α(x)=T(x)−T(x/2)−T(x/3)−T(x/5)+T(x/30)
=xlogx−x+O(logx)
−x/2*log(x/2)+x/2−O(log(x/2))
−x/3*log(x/3)+x/3−O(log(x/3))
−x/5*log(x/5)+x/5−O(log(x/5))
+x/30*log(x/30)−x/30+O(log(x/30))、
ここで、log(x/2)=logx−log2、log(x/3)=logx−log3、log(x/5)=logx−log5、log(x/30)=logx−log30より計算を纏めます。
以上をよ〜く見ると、xlogxの項は打ち消しあい、主要項はAxとなり、以下の誤差項はO(logx)で抑えらます。
因みに、A(定数)=1/2*log2+1/3*log3+1/5*log5−1/30*log30=0.921392•••となります。
つまり、α(x)=Ax+O(logx)が得られ、②より、ψ(x)>Ax+O(logx)、ψ(x)−ψ(x/6)<Ax+O(logx)ー③となります。
特に、③を繰り返せば、ψ(x/6)−ψ(x/6²)
<Ax/6+O(logx)、ψ(x/6²)−ψ(x/6³)
<Ax/6²+O(logx)となります。
故に、ψ(x/6ⁿ)=0に達するには、”logx/log6”回繰り返せばいい。
そこで、これらを加え合わせると、
ψ(x)<Ax(1+1/6+1/6²+•••+1/6ⁿ)+O((logx)²)
<(1/(1−1/6))*Ax+O((logx)²)=6/5*Ax+O((logx)²)を得る。
故に、x→∞の時の極限は、A=0.921392•••<ψ(x)/x<1.10555•••=6A/5である事が判る。これは、ψ(x)~O(x)の近似を示し、”ψ(x)~x”である事を物語る。
よって、”ψ(x)~x”の近似(評価)が証明できれば、素数定理”π(x)~Li(x)”が導けるのですが。
そこで、[補題1-8](ⅲ)のψ(x)−√xlogx≤θ(x)≤ψ(x)を用い、ψ(x)の挙動をθ(x)の挙動に置き換えたチェビシェフは、π(x)の近似である、C₁x/logx<π(x)<C₂x/logxを証明します(”2の13の2”Click)。
これは例えば、x≥30なるxをとれば、
C₁=log(√2•³√3•⁵√5/³⁰√30)=0.92129•••、
C₂=6C/5=1.10555•••を示している。
更に、x→∞の時、もしπ(x)/(x/logx)の極限値が存在すれば、それは”1”に等しくなる必要がある事も示してます。
素数定理の証明
そこで超天才チェビシェフでも、なし得なかった素数定理”π(x)〜Li(x)”の証明ですが。上述した様に、彼が1850年に、π(x)の挙動(評価)をψ(x)の挙動から導いたものと、実質的には同じものとされます。
以下、少し簡略して紹介します。
まず、前々回の”2-13-1”の最初で紹介した、θ(x)=Σ(p≤x)logp=log2+log3+log5•••logpと、同じくチェビシェフが導入した、ψ(x)=Σₙ(1,∞)θ(x^(1/n))=θ(x)+θ(√x)+θ(³√x)+•••ー④を使います。
上述した様に、θ(x)=Σ(p≤x)logpが第1チェビシェフ関数、ψ(x)=Σₙ(1,∞)θ(x^(1/n))が第2チェビシェフ関数でしたね。
特に、ψ(x)=Σ(pⁿ≤x)logp=Σ(n≤x)Λ(n)と変形でき、”合計マンゴルド関数”とも呼びます。
このψとθの関係は、リーマンが論文(1859)で活用した、πとJの関係に類似してますね。
ここで、④の右辺の級数の各項は次項よりも大きく、x^(1/n)<2に対し、全ての項がθ(x^(1/n))=0となる性質を持つ。
故に、0でない項は”logx/log2”以下しか存在せず、θ(x)<ψ(x)<θ(x)+θ(√x)logx/log2となります。
これより、ψ(x)−θ(√x)logx/log2<θ(x)<ψ(x)。この右辺を”ψ(x)〜x”と合わせれば、”θ(x)〜x”が得られます。
よって、(1−ε)x≤θ(x)≤(1+ε)xと出来るより、y>xに対し、π(y)−π(x)=∫(x,y)dθ(t)/logt=[θ(t)/logt](x,y)+∫(x,y)θ(t)dt/(logt)²tとなります。この変形は、部分積分展開すれば得られますが、結構ややこしい。
以上より、π(y)−π(x)は、
(1+ε)y/logy−(1+ε)x/logx+∫(x,y)(1+ε)tdt/(logt)²t
=2εx/logx+(1+ε){[t/logt](x,y)+∫(x,y)(1+ε)tdt/(logt)²t}
=2εx/logx+(1+ε){∫(x,y)dt/logt}
=2εx/logx+(1+ε){Li(y)−Li(x)}
以下かつ、−2εx/logx+(1−ε){Li(y)−Li(x)}以上です。
故に、あるxに対し、π(y)/Li(y)は十分大きいyに対し、1+ε+(π(x)+2εx/logx−(1+ε)Li(x))/Li(y)≤1+2ε以下であり、同様に十分大きいyに対し1−2ε以上である。
つまり、1−2ε≤π(y)/Li(y)≤1+2ε。εは十分小さな数なので、これは素数定理”π(y)〜Li(y)”を証明しています。証明終
チェビシュフの回避策(補足)
上述した様に、ゼータ関数のフーリエ逆変換からチェビシェフの公式を証明するのは自明とされます。つまり、チェビシェフもゼータと素数定理の関連には勘付いてた。
一方で、メビウスの反転公式をチェビシェフの公式に当てはめれば、ψ(x)=Σμ(n)T(x/n)が導かれる筈だが。この挙動不審?なメビウス関数μ(n)がネックになる。
そこでチェビシェフは、μ(n)をAnに置き換え、ψ(x)=ΣAnT(x/n)としてψ(x)の挙動、つまり近似を求めた。ゼータを回避し、遠回りし‹基本に立ち返った事が吉と出たんです。
リーマンがやろうとしたガチの解析的手法では限界を既に見てたかもですが、リーマンが素数定理の明示公式に使用したフーリエ変換やメビウス変換こそが、ゼータや素数分布の解析に最初に光を当てたとも言われる。
そして、リーマンが使った2つの変換も当時は現代数学の驚異とされました。今でもそれは変らない。
以上、寄せられたコメントから追記です。
最後に
こうしてみると、チェビシェフが自ら導入した3つの関数θ(x)、ψ(x)、T(x)を用意し、初等的なやり方で素数の謎を解き明かそうとした試みが、素数定理の分厚い扉を開ける原動力になったのは明らかです。
実はチェビシェフの時(1850)は、素数定理”π(x)~Li(x)~x/logx”は、まだ存在しませんでした。しかし、彼が初等的な考察で素数の謎を眺めた事で、リーマンでさえ成し得なかった素数定理に関する偉業を、チェビシェフが成し得たとても言い過ぎではないでしょう。
勿論、リーマンの素数公式(強い素数定理)に関する偉業は、別の意味で末恐ろしいものでもありますが。
という事で次回は、素数定理に関するチェビシェフとリーマンの蜜な繫がりについて述べたいと思います。
長文駄文失礼しました。
”その2”の更新も残り僅かですが、素数定理の歴史はユニークですが、謎もそれだけ深いですね。
神が素数を創ったとしたら、神様も今頃は頭を抱えてるでしょうね。何でこんな厄介な数字を創ったのかと。
次に、ϑ(x)をψ(x)と関係させ、マンゴルド関数Λ(n)とチェビシェフ関数ϑ(x)とψ(x)の定義を使い、ϑ(x)∼x⇔ψ(x)∼xをしめす。
以上から、π(x)~xlogxとϑ(x)∼xが同義となるんだけど
今では色んな証明の仕方が発見された。初等的になるほどに、簡略化されるほどに、ややこしくなっていくんだな。合掌
厳密に言うと、リーマンのπ(x)に関する明示公式は、ゼータの零点というリーマン予想がネックとなってますが。それ以上に、明示公式の評価の一部に不完全さがあったんです。経験的推測でそこを飛ばしてしまったのか?単に評価する時間がなかったのか?
マンゴルド先生が証明したのは、π(x)に関する明示公式の一歩手前の離散関数J(x)の解析公式です。これも次回で述べようと思いますが。ホントここまでは完璧だったんですがね。リーマンは敢えて、項別積分という次世代の解析方法を駆使したんですかね。
何だか抽象的な答えになってしまってスミマセ〜ン(@_@)
それに素数定理って素数の個数の公式のことでしょ?でも素人目から見たら、たかが個数の世界。素数の個数が素数の謎っていうのも呆気ない気もするけど 多くの天才数学者が命をかけて取り組んだのかな。
チェビシェフ関数を使ってψ(x)の挙動を調べるというけど、近似公式が決め手となってチェビシェフの不等式を得たんだよね。
一方、リーマンはゼータ解析を使って力ずくで証明しようとしたんだけど、自ら予想したリーマン予想がネックになったって事かな?
何だか分かったようでわかんないようで(?_?)
ではバイバイ👋
多分、チェビシェフはμ(x)の不規則性を、ψ(x)の近似と見なし、α(x)〜ψ(x)として置き換えたんだと思います。つまり、ランダウ(挙動値)がここに来て生きてきたんですかね。
リーマンがやろうとしたガチの解析的手法では限界を見てたんですか。しかし、リーマンが素数定理の自明的な解明に使用したフーリエ変換こそが、ゼータや素数分布の解析に最初に光を当てたとも言われてます。
リーマンが使ったフーリエ変換もメビウス変換も、当時は現代数学の驚異とされました。今でもそれは変りませんね。
そこで生意気に少し補足ですが。
ゼータのフーリエ逆変換からチェビシェフの公式を証明するのは自明とされます。つまりチェビシェフもゼータと素数定理の関連には勘付いてたとされます。
一方、メビウスの反転公式をチェビシェフの公式に当てはめれば、ψ(x)=Σμ(n)T(x/n)が導かれるはずですが。このμ(n)がネックになるんですね。そこでチェビシェフはμ(n)をAnに置き換えてψ(x)=ΣAnT(x/n)としてψ(x)の挙動つまり近似を求めたんです。多分ですよ。
結局、遠回りするつもりで基本に立ち返ったことが素数定理の証明に直結したんですかね。
少し生意気なコメントですが、アクセしてるだけでなく実際に読んでまーすという事で。