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リーマンの謎”3の7”(補足)〜素数定理とラプラス変換に関するタウバー型定理と

2021年01月13日 09時01分14秒 | リーマンの謎

 素数定理の簡潔化された証明として、タウバー型定理を使ったやり方を”3の5””3の6”で述べましたが、寄せられたコメントを元に振り返ってみると、まだまだ不足がありますね。
 そこで、前回”3の6”追記&修正版となりますが、素数定理の証明の簡単な流れからおさらいします。

 最初に、”3の4””3の5”でも述べた様に、第1チェビシェフθ(x)とその階差関数λ(n)、第2チェビシェフψ(x)とその階差関数Λ(n)を定義し、基本的な性質を調べます。
 次に、ψ(x)~xからπ(x)~x/log(ガウスの素数定理)が導ける事を証明します。また、θ(x)~xからπ(x)~x/logが導ける事も証明します。
 3つ目に以下でも述べますが、ψ(x)~xである為には、∫[1,∞](ψ(x)−x)dx/x²が収束する事が十分条件を証明します。
 4つ目も以下で述べますが、∫[1,∞](ψ(x)−x)dx/x²=∫[0,∞](ψ(eᵗ)e⁻ᵗ−1)dtであり、この値が存在する為には、£[ψ(eᵗ)e⁻ᵗ−1](s)=∫[0,∞](ψ(eᵗ)e⁻ᵗ−1)e⁻ˢᵗdtが、Re(s)≥0まで正則に解析接続される事が条件となる。
 但し、£(s)はラプラス変換です。

 最後に、£[ψ(eᵗ)](s)=∫[0,∞]ψ(eᵗ)e⁻ˢᵗdt=−1/s*ζ'(s)/ζ(s)と変形できるから、ψ(x)~xが成り立つには、”池原の定理”より、Λ(n)のディリクレ級数ΣₙΛ(n)/nˢ=−1/s*ζ’(s)/ζ(s)がRe(s)=1上に留数1(s=1)の極以外を持たない事が重要でした。これは、ζ(s)がRe(s)=1で零点(解)を持たない事と同値です。
 この証明は、ζ(s)がs=1+it上に零点を持たない事を示すんですが、オイラーの公式を使い、n^(−(σ+it))=n^(−σ)*e^(−itlogn)=n^(−σ){cos(tlogn)−isin(tlogn)}から、Re(n^(−(σ+it)))=n^(−σ)*cos(tlogn)を得ます。
 ここでσ>1に対し、−1/s*ζ’(s)/ζ(s)=Σ[n,∞]Λ(n)/nˢの両辺の実部を比較し、−Re{ζ’(σ+it)/ζ(σ+it)}=Σ[n,∞]Λ(n)cos(tlogn)/n^σとし、右辺を展開し矛盾を示して、証明します。

 つまり、素数定理の証明”ψ(x)~x”には、ζ(s)がRe(s)=1で零点(解)を持たない事が重要とはそういう事で、−ζ’/ζのラプラス変換による変形式である−1/(s+1)*ζ’(s+1)/ζ(s+1)−1/sが、ζ(s)の正則範囲であるRe(s)≥1からRe(s)≥0までに正則に解析接続される事が十分条件となります。
 これにより、極(留数)を除去し、ψ(x)~xを導き、素数定理の証明に繋げるんですね。 

 以下、寄せられたコメントを元に、上で述べた証明の流れを大まかに説明します。

 
ψ(x)~x、θ(x)~xならばπ(x)~x/log

 まず、ψ(x)~x⇒π(x)~x/logを証明します。
 ψ(x)=Σ[pᵐ≤x]logpは、1~nまでの全ての整数の最小公倍数(lcm)の対数に等しいので、lcm(1,2,...,x)=e^π(x)。故に、ψ(x)=log{lcm(1,2,...,x)}
 ここで区間[1、x]を前半[1、w]と後半[w、x]に分ける.
 ψ(x)の上述の定義より、
ψ(x)=log2^m₁・3^m₂・・・Pπ(x)^(Mπ(x))≤π(x)logx
≤π(w)logx+Σ[w<p≤x]logp*logx/logw
≤π(w)logx+logx/logwΣ[w<p≤x]logp
≤π(w)logx+ψ(x)logx/logw。
 故に、ψ(x)/x≤π(x)logx/x≤π(w)logx/x+logx/logw*ψ(x)/xが得られます。
 そこで、w=x/(logx)²とおく事で、π(w)logx/x→0、logx/logw→1となり、ψ(x)/x≤π(x)logx/x=1となるより、ψ(x)~x⇒π(x)~x/logが証明できました。
 以上、バカ正直にやったんですが、y=ψ(x)のクラフでy=ψ(x)がy=xに近似でき、感覚的にψ(x)≒π(x)logxとなるより、明らかではあるんですが。

 一方、θ(x)~x⇒π(x)~x/logを証明します。
 これも、θ(x)の定義より、θ(x)=Σ[p≤x]logp≤Σ[p≤x]logx=π(x)logx。
 θ(x)≥Σ[p¹⁻ᵋ<p≤x]logp≥Σ[p¹⁻ᵋ<p≤x](1−ε)logx
=(1−ε)(π(x)−π(x¹⁻ᵋ))logx。
 これより、θ(x)/(1−ε)≥(π(x)−π(x¹⁻ᵋ))logx⇔π(x)logx/x≤1/(1−ε)*θ(x)/x+π(x¹⁻ᵋ)logx/xー①が得られる。
 ここで、π(x¹⁻ᵋ)≤x¹⁻ᵋより不等式①は、π(x)logx/x≤1/(1−ε)*θ(x)/x+logx/xᵋと変形。
 不等式①と合わせ、θ(x)/x≤π(x)logx/x≤1/(1−ε)*θ(x)/x+logx/xᵋを得る。x→∞の時、θ(x)/x→1、logx/xᵋ→0より、1≤lim[x,∞]π(x)logx/x≤1/(1−ε)が導き、θ(x)~x⇒π(x)~x/logを証明出来ました。
 
 一方でθ(x)~x⇔ψ(x)~xの証明は、θ(x)~xならば、全てのxに対し、θ(x)≤Mxなる正数Mが存在し、また、n<log₂x⇔ⁿ√x<2⇔θ(ⁿ√x)より、log₂x<N≤1+log₂xなるNをとると、ψ(x)=Σₙ(1,∞)θ(ⁿ√x)=θ(x)+θ(√x)+θ³√x)+•••+θ(ⁿ√x)≤θ(x)+M√x+M³√x+•••+Mⁿ√x≤θ(x)+M√xlog₂x。これは、2~NまでN−1個の和が存在し、N−1≤log₂xより導けます。
 よって、θ(x)/x≤ψ(x)/x≤θ(x)/x+Mxlog₂x/√xが成立し、⇒は証明できました。
 ⇐は、ψ(x)~xならば、ψ(x)≤Mxなる正数Mが存在し、θ(x)≤ψ(x)よりθ(x)≤Mも成立し、上の証明の逆を解き、ψ(x)−Mxlog₂x/√x≤θ(x)/x≤ψ(x)/xより⇒が証明できました。
 勘のいい人なら、ψ(x)とθ(x)の定義だけで、証明の大まかなイメージはある程度掴めると思いますが、実際にやってみると、とてもややこしいですね。


ラプラス変換から素数定理へ

 まず、ζ(s)はRe(s)=1で零点(解)を持たないから、∫[1,∞](ψ(x)−x)dx/x²が収束するならば、ψ(x)~xとなる。これは”ウィーナー=池永の定理”でも述べた様に、非負単調増加関数S(x)にて、∫[1,∞](S(x)−Ax)dx/x²が有限確定値に収束する時、S(x)~Axが成立する事より示せますが。この証明は、∫[1,∞](S(x)−x)dx/x²が収束するなら、S(x)~xが成立する事を考えます。
 簡単に述べますが、まず、limsup[x,∞]S(x)/x>1の矛盾を導き、limsup[x,∞]S(x)/x≤1。次に、liminf[x,∞]S(x)/x<1の矛盾を導き、liminf[x,∞]S(x)/x≤1。以上より、lim[x,∞]S(x)/x=1が示せます。
 故に、3番目のψ(x)~xである為には、∫[1,∞](ψ(x)−x)dx/x²が収束する事が十分条件が示せました。

 4番目の証明ですが、∫[1,∞](ψ(x)−x)dx/x²=∫[0,∞](ψ(eᵗ)e⁻ᵗ−1)dtの等式の値が収束するには、ψ(eᵗ)e⁻ᵗ−1のラプラス変換である£[ψ(eᵗ)e⁻ᵗ−1](s)=∫[0,∞](ψ(eᵗ)e⁻ᵗ−1)e⁻ˢᵗdtが、Re(s)≥0まで正則に解析接続される事が条件となります。
 これは、∫[1,∞](S(x)−Ax)dx/xˢ⁺²はRe(s)>0で正則だが、Re(s)≥0まで正則に解析接続される時、∫[1,∞](S(x)−Ax)dx/x²は収束し、その値はlim[s→+0]∫[1,∞](S(x)−Ax)dx/xˢ⁺²に等しい事から明らかですが。証明にはg(x)=(S(x)−Ax)/xとおき、ラプラス変換を使います。
 まずx=eᵗと置換し、∫[1,∞]g(x)dx/xˢ⁺¹=∫[0,∞]g(eᵗ)e⁻ˢᵗ⁻ᵗ(eᵗdt)=∫[0,∞]g(eᵗ)e⁻ˢᵗdtとなり、g(eᵗ)=I(t)とおくと、I(t)のラプラス変換£I(s)=∫[0,∞]I(t)e⁻ˢᵗdtはRe(s)>0で正則となるが、Re(s)≥0まで解析接続される時、£I(0)=∫[0,∞]I(t)dtが存在する。
 故に、£I(0)=∫[0,∞]I(t)dt=∫[0,∞](ψ(eᵗ)e⁻ᵗ−1)dt=∫[0,∞](ψ(eᵗ)e⁻ᵗ−e⁻ᵗ)dt/e⁻ᵗ=∫[1,∞](ψ(x)−x)dx/x²となり、上の等式が証明できました。 

 最後の証明ですが、ψ(eᵗ)のラプラス変換£[ψ(eᵗ)](s)=∫[0,∞]ψ(eᵗ)e⁻ˢᵗdt=−1/s*ζ'/ζである事と、−1/s*ζ’(s)/ζ(s)はRe(s)≥1で解析可能で留数1(s=1)の極以外は正則より、ψ(eᵗ)のラプラス変換を−1だけ平行移動すれば、∫[0,∞](ψ(eᵗ)−1)e⁻ˢᵗdtとなり、これはψ(eᵗ)e⁻ᵗ−1のラプラス変換を考えれば、極(留数)が取り除ける。
 また、£[ψ(eᵗ)e⁻ᵗ−1](s)=∫[0,∞](ψ(eᵗ)e⁻ᵗ−1)e⁻ˢᵗdt=−1/(s+1)*ζ’(s+1)/ζ(s+1)−1/sより、前述の∫[1,∞](ψ(x)−x)dx/x²=∫[0,∞](ψ(eᵗ)e⁻ᵗ−1)dtにおいて、lim[s→0]∫[0,∞](ψ(eᵗ)e⁻ᵗ−1)e⁻ˢᵗdt=∫[1,∞](ψ(x)−x)dx/x²が成立するには、−1/(s+1)*ζ’(s+1)/ζ(s+1)−1/sがRe(s)≥0まで正則に解析接続される事が(十分)条件となります。

 そこで、ラプラス変換による”ウィーナー=池原”のタウバー型定理である£[I(t)](s)=∫[0,∞]I(t)dtを、Newman(1980)がやった留数解析を用いた簡単な方法で示す訳ですが、長くなりすぎたのでここでは省略します。


最後に

 以上、大急ぎで素数定理を証明したんですが、簡潔な証明とは言っても、かなりややこしいです。
 結局、−ζ’(s)/ζ(s)=Σₙ[1,∞]Λ(n)/nˢ=Σₙ[1,∞](ψ(n)−ψ(n−1))/nˢ=s∫[1,∞]ψ(x)/xˢ⁺¹dx=s∫[0,∞]ψ(eᵗ)e⁻ˢᵗdtと変形でき、ψ(eᵗ)のラプラス変換£[ψ(eᵗ)](s)=∫[0,∞]ψ(eᵗ)e⁻ˢᵗdtとなる事から、£[ψ(eᵗ)](s)=−1/s*ζ’(s)/ζ(s)となったんですが。
 この”ラプラス変換によるζ’/ζの変形”こそが、Re(s)≥0までの正則性を導き、素数定理の証明の簡略化に結びつけたんですね。

 あんまり細かい事まで書くと、頭が混乱するので、ここではラプラス変換タウバー定理が素数定理の簡略化された証明の強力なツールになる事を知っておくだけでも勉強になる筈です。
 因みに、ウィーナー=池原の定理と素数定理の関係は「解析的整数論への誘い」(雪江明彦著=写真)がオススメみたいです。

 最後に、貴重なアドバイスを下さったpaulサンと腹打てサンには感謝です。
 お陰で、素数定理の証明の1/3程は理解できましたかね。



9 コメント

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腹打てサン (象が転んだ)
2021-01-14 17:01:05
慌ててまとめたんで、要領を得ないんですが。考えれば考える程に、迷いも深くなりますよね。
こういうのは合理的で直感的思考の方がいいんでしょうか。
色々と気を遣ってくれてありがとうございます。
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あっぱれ (腹打て)
2021-01-14 09:25:23
ψ(eᵗ)のラプラス変換と
−1/s*ζ'/ζの留数以外での正則性と
Λ(n)のディリクレ級数における”池原の定理”により
ψ(x)~xとが成り立つには
ζ(s)がRe(s)=1で零点(解)を持たない事
が条件であるという流れこそが
簡略化された素数定理の証明という事になるのかな。

解ったようで解らないけど
とにかくよく纏めてると思うよ。
こちらこそアリガトウ
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paulさん (象が転んだ)
2021-01-14 07:18:09
定理なんかもそうですが、直感的思考というのは難題を乗り越える大きなツールにもなりますね。
でもpaulさんの助言のお陰で、勇気を持って一歩踏み出せたような気がします。
これからどうなるかはわかりませんが、今後とも宜しくです。
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直感的数学の思考 (paulkuroneko)
2021-01-13 23:35:52
”ψ(x)がxに漸近する”というグラフに描けば、直感で把握できそうな事ですが。
ウィーナー-池原の定理を用いる証明でも、セルバーグやエルデシュらによる初等的な証明でも、この事がキーであるのは、とても神秘的ですね。

コメント参考にしてくれてありがとう。
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UNICORNさんへ (象が転んだ)
2021-01-13 22:10:27
リーマンの整数論が人類史上最大の謎を生むとは皮肉ですが、これも宿命ですかね。
リーマンはディリクレに出会った時から、複素関数論と整数論を結びつけようと思ってた筈です。

逆を言えば、リーマンがディリクレと出会っていなかったら?
そう思うと、偶然という稀有な運命も大きな偉業を生むんですね。
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Hoo女史へ (象が転んだ)
2021-01-13 21:25:55
−ζ’/ζのラプラス変換による変形式のRe(s)≥0における正則性がが正解でした。
度々ですが、これまた訂正です。
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Hoo女史へ (象が転んだ)
2021-01-13 21:05:44
結局、ζ’/ζの正則性が素数定理を導く重要な要素となるんですが、そのままではダメで、ラプラス変換と池原ウィーナー定理の組合せが必要だったんですね。

−ζ’/ζのRe(s)>1における正則性から、−ζ’/ζのラプラス変換による変形式のRe(s)≥1における正則性を導くが正解でした。
ここにて、深くお詫び申し上げます。
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解析的整数論 (UNICORN)
2021-01-13 16:29:05
といえば、ディリクレです。
1837年にL関数を応用し、算術級数定理を証明した時は、当時の数学界に大きな影響を与えます。
ディリクレの発見以降、リーマンやアダマールやハーディらにより、ゼータ関数やL関数を整数論に応用した研究や成果が次々と生み出された。
この整数論の大きな流れといった一大ブームは、今では解析的整数論と呼ばれる。

ディリクレが解析的整数論の父と呼ばれるのもそういう所から来てる。

転んだサンもご存知だろうが、リーマンはコーシーやアーベルの関数論に傾斜し、華々しい成果を上げたが、整数論は論外と思われた。しかし最後に1つの整数論の論文を書きます。
それこそが、僅か8Pの素数の個数に関する論文で、リーマンの素数公式やリーマン予想が搭載された世界一有名な整数論の論文です。

これもリーマンの師匠であるディリクレがいたからこその浮気であり、離れ業だった。
師匠ガウスの整数論に大きく影響を受けたディリクレの離れ技が、リーマンの偉業を生んだとも言えます。
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難問への誘い (HooRoo)
2021-01-13 15:00:27
わずか2晩で突破しちゃってるわ(・・;
こうなるととてもついていけないけど
タウバー定理とラプラス変換っていう強力なツールが必要だったわけね

あっぱれ転んだ先生
美人女優が夢に出て
ヒントを与えてくれたのかしら👅
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