象が転んだ

たかがブロク、されどブロク

大場政夫アナザーストーリー、その7〜狂気と殺戮の第3ラウンド〜

2019年01月31日 02時02分30秒 | ボクシング

 ”大場ストーリー”も1/9以来、20日ぶりですが。今は”憎きチャーチル”に関するブログに時間を削がれ、更新するのが遅れました。スンマセン。

 前回は2R終了まででした。サラテとの戦いは、3話ほどで終えるつもりでしたが。じっくりと進めたいので、結構長くなるかもです。さてと本題に入ります。


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 3Rに入ると、サラテはギアを入れ替えた。セコンドの危機感が、新婚気分で怠慢気味のサラテに喝を入れた。
 不器用だが確実な足取りで、大場との距離を詰めに掛かる。今度は、右腕でボディーを防御し、ノーガードのまま重量感のある左を立て続けに伸ばす。

 大場は、サラテの”鉛の拳”を確実にブロックするも、サラテの重いパンチに、リズムを崩され、スムーズに左を繰り出せない。

 ”マサオ、脚を使え。左に回り込み、側頭部にジャブを見舞え!とにかく脚を使って翻弄しろ。ボォーっと突っ立てんじゃねーぞ”

 スイッチが入った様に大場は、時計回りにすばやく回り込み、左ストレートを上下に打ち分けるも、サラテのブロックは堅固になっていた。サラテ眼光は、大場のスピード溢れるパンチを確実に捉えていた。


 サラテは少しずつ大場との距離を詰める。ボディーのダメージは、思った程深くはなかったのか。

 ”スラム街のハードさはこんなもんじゃないぜ。俺は毎日生きるか死ぬかの瀬戸際で、生き延びてきたんだ。素手のパンチを何千発とくぐり抜けてきた。ナイフで背中を刺された時も、俺はビクともしなかった。そう俺は生まれながらの殺し屋さ

 サラテは左をトリプルで繰り出すと、右のロングを強引に振りかざす。ガードの上だったが、大場の表情が一変した。すかさずサラテの右ストレートが唸りを上げる。流石の大場もロープ際まで吹っ飛んだ。


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 かつてのアモレスやチャチャイの衝撃の一撃が脳裏に過ったが、サラテのそれは、やはり別物だった。ガードの上からでも大場を吹っ飛ばす威力に、大場の頭の中は真っ白になった。
 ”これがサラテの脅威か。これがサラテの真実か。俺はヤツに勝てるのか”

 サラテは大場をロープに詰めると、殺気じみた自慢の左右のフックを、雨あられと大場の顔面に見舞う。流石の大場もこれには耐えきれなかった。自ら左膝をガクンとキャンバスに落とし、頭を垂れた。

 ”マサオ、何してるんだ。自ら倒れるなんてお前らしくないぞ。まだ試合は始まったばかりじゃないか、しっかりしろ”


 大場は考えてた。”このままじゃ俺は殺される。15Rまで持つ筈がない。早い回で勝負に出ないと奴に殺される。これは生きるか死ぬかの殺し合いだ”

 勢い余ったサラテは、膝を付いた大場の後頭部に一撃を加えた。 

 その瞬間、大場の狂気に火が着いた。レフェリーがサラテに注意を与えてる間、セコンドの桑田は、大場に指示を与えた。
 ”マー坊、このままじゃお前は死ぬぞ。狂気の炎でサラテの殺戮を燃やし尽くせ。それ以外に勝つ方法はない。そうプランXだ”

 大場は笑みを浮かべた。”分ってるって、最初からこうなると思ってたんだ”


 レフェリーが両者を促し、試合は再開する。

 サラテは間髪入れずに、大場に襲いかかった。サラテ陣営はまるで勝ち誇ったかの様な狂乱ぶりだ。”それでこそ我がサラテ様だ。一気に片付けちまえ。ハ・レ・ル・ヤ”

 化粧を直し、リングの最前列に戻ってきたサラテの愛人も、顔をクシャクシャにし、大声で何かを叫ぶ。まるで鬼の形相だ。
 来日した時の美貌も神秘の碧い瞳も、ブロンドの優雅さも何処かに吹っ飛んでいた。そう、スラムの女は所詮はスラムの女なのだ。


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 今度は、力任せのサラテの殺戮ブローが大場に襲いかかった。サラテは大場を仕留めに掛かる。流石に会場も、諦めのムードが漂い始めていた。終わりが刻々と近づいてるかの様だった。
  
 しかし大場にも、サラテのパンチはしっかりと見えてた。サラテの殺戮が手に取る様に、ガードの隙間から目の前を舞う殺戮を、冷静に眺めていた。
 まるで大場の狂気が、サラテの殺戮を打ち消すかの様な異様な光景に、会場はどよめいた。

 サラテは攻撃に夢中になりすぎた。前屈みになったボディーがガラ空きになる。その瞬間、大場の目が光った。狙いすました大場の狂気の右が、サラテのレバーに炸裂する。

 一瞬動きが止まったサラテに、左右の速射砲が唸る。1ダースほどのパンチをもろに受け、今度はサラテが自らキャンバスに沈んだ。

 会場は、再び興奮の坩堝と化した。”大場!ヤツなんか殺しちまえ”


 今度は、倒れたサラテにお返しとばかりに、追い打ちの右をサラテの側頭部にガツンと見舞う。頭蓋骨の軋む音が、会場の奥にまで聞こえる程の衝撃だった。

 レフェリーはすかさす大場に減点1を与える。明らかに、サラテのセコンドが暴走するのを抑える為の緊急処置だった。


 サラテの薄茶褐色の表情が青ざめた。セコンドも女も表情は引き攣ったままだ。

 ”これが真の大場の姿か。これがボクシングか。これは戦いではなく殺し合いか”
 会場内にも、どよめきと殺気が最高潮に達した。

 しかし大場に興奮はなかった。そう、異常なまでの興奮を、大場は冷静に狂気とそれを支えるエネルギーに変えてたのだ。


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 ”そうだマサオ、冷静になれ、落ち着いてサラテを仕留めるんだ。そうプランXだったよな”
 桑田は自らを落ち着かせる。  
 
 大場はサラテに再び襲いかかった。3R終了のゴングが鳴ってるにも関わらず、夢中で殴りまくった。会場の興奮で、レフェリーにもゴングが聞こえないのだ。

 堪らずサラテ陣営のセコンドが、リング内に押し入り、大場を突き飛ばした。
 ”ざけんな、これは殺し合いじゃないんだ。我が英雄サラテを殺す気か?こんな所では試合は出来ない。これは無効試合だ、これはボクシングじゃない。俺たちは今すぐメキシコへ帰る


 しかし、うずくまってるサラテが興奮するセコンドを制した。
 ”いやこれこそが俺がやりたかったボクシングさ。久しぶりにスラムの頃の殴り合いを思い出したよ。ゴングが聞こえなかったのはお互い様だ。大場に非はない、さあ試合を続けようぜ

 
 解説の沼田義昭は、放心状態にあった。
 ”こんなボクシング見た事ないですね。引退試合で全盛期前のデュランと戦った事がある。その時も殺されるかと思ったけど、このままじゃどっちかが死にますね”

 大場陣営は至って冷静だった。桑田は自らを諭す様に呟いた。
 ”かなり荒っぽい試合になったが、全く想定内だ。プランXを用意してて良かったな、マー坊。タイムリミットは5Rだが、このままボディーにとどめを刺せば、奴は動けなくなる。万が一長期戦になっても、こっちには脚が残ってる。どっちみち俺達の勝ちさ

 大場は下を向きながらその言葉を聞いていた。そしてポツリと呟く。
 ”5Rまで持つかどうか。弾薬の半分は尽きたかな。とにかく次のラウンドでサラテの殺戮を消し去りますよ。後は神のみぞ知るです”

 桑田は笑った。”マー坊、お前にしちゃ、やけに神妙だ。サラテが相当気に入った様だな。でも油断は禁物だぜ、あと2Rで全てが終わるんだ”


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 サラテ陣営には、沈黙が支配した。堪らなくなり、サラテの方から口が開く。
 ”何お通夜のように沈みこんでんだ。まだ試合は始まったばかりじゃないか。少し油断しただけさ。お前らが落ち込んじゃ俺の立場はないぜ”

 老トレーナーは一言呟く。
 ”どうもワシには、大場がこの世のものとは思えないんだ。こっちが攻め込む程に、ヤツは勢いを増す。今までそんなボクサーがいたか?”

 サラテは笑った。
 ”ナニ弱気ホザイてんだ。奴が亡霊だというのか?確かにヤツの狂気は異常だ、しかし俺の殺戮だって脅威なハズさ。ただヤツには何かが乗り写ってる、得体の知れない何かがな”

 老トレーナーはうつ向く。
 ”サラテよ、少しでも油断したら死ぬぞ。前にも忠告しただろ、奴はホンモノだって。万が一の時は無効試合にしてもいいんだぜ。俺たちの大事な宝物を、こんな所で壊されてたまるか”

 サラテの顔が赤くなった。
 ”馬鹿言ってんじゃねーぞ。試合を止めたらそっちこそ命がないと思え。スラムの王は死にはしない、死ぬのは大場の方だ



4 コメント

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お久し振りです。 (tokotokoto)
2019-01-31 10:53:56
第三ラウンドも壮絶です。ひょっとして膠着した展開になるかと予想したんですが。見事に裏つかれました。

何だか早い回で決着つきそうですね。でも転んだサンの事だから、又々裏をついてくるんでしょうか。

あそれと、顔イラスト、よく特徴が出てると思います。勿論、転んだサンと実際に会ったことないんですが。こういう感じかなとは思ってました。
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こちらこそお久しぶりです。 (lemonwater2017)
2019-01-31 15:09:51
丁度、チャーチルブログが一段落ついたので、慌てて書き殴りましたが。出来としてはマアマアですかね。

老トレーナーの”どうも大場がこの世のものとは思えないんだが”のコメントが、鍵となるんですが。ネタバレになるんで、これ以上は。

イラストに関しては、平ぺったい写真より、自分らしさがよく出てると思います。運転免許証もイラストにすればね。
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意外な展開? (paulkuroneko)
2019-02-02 01:24:28
実際に戦ったら、どう考えてもサラテ有利な筈なんですが。物語にすると、恐ろしく壮絶な血生臭いものになるんですね。

人情的には大場が負けるシーンは見たくはないんですが。どちらが勝つにしても、ドラマチックで奇想天外な結末を期待したいです。
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Re:意外な展開? (lemonwater2017)
2019-02-02 05:23:16
paulさんも痛いとこ突いてきますね。確かに大場が負けたら、アナザストーリーにはなり得ませんものね。

でも、この物語の主役は、大場がこの世のものか?否か?の中間にあると思うんです。そういった曖昧な虚構の部分を上手く描けたらなって思います。
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