”大場ストーリー”も1/9以来、20日ぶりですが。今は”憎きチャーチル”に関するブログに時間を削がれ、更新するのが遅れました。スンマセン。
前回は2R終了まででした。サラテとの戦いは、3話ほどで終えるつもりでしたが。じっくりと進めたいので、結構長くなるかもです。さてと本題に入ります。
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3Rに入ると、サラテはギアを入れ替えた。セコンドの危機感が、新婚気分で怠慢気味のサラテに喝を入れた。
不器用だが確実な足取りで、大場との距離を詰めに掛かる。今度は、右腕でボディーを防御し、ノーガードのまま重量感のある左を立て続けに伸ばす。
大場は、サラテの”鉛の拳”を確実にブロックするも、サラテの重いパンチに、リズムを崩され、スムーズに左を繰り出せない。
”マサオ、脚を使え。左に回り込み、側頭部にジャブを見舞え!とにかく脚を使って翻弄しろ。ボォーっと突っ立てんじゃねーぞ”
スイッチが入った様に大場は、時計回りにすばやく回り込み、左ストレートを上下に打ち分けるも、サラテのブロックは堅固になっていた。サラテ眼光は、大場のスピード溢れるパンチを確実に捉えていた。
サラテは少しずつ大場との距離を詰める。ボディーのダメージは、思った程深くはなかったのか。
”スラム街のハードさはこんなもんじゃないぜ。俺は毎日生きるか死ぬかの瀬戸際で、生き延びてきたんだ。素手のパンチを何千発とくぐり抜けてきた。ナイフで背中を刺された時も、俺はビクともしなかった。そう俺は生まれながらの殺し屋さ”
サラテは左をトリプルで繰り出すと、右のロングを強引に振りかざす。ガードの上だったが、大場の表情が一変した。すかさずサラテの右ストレートが唸りを上げる。流石の大場もロープ際まで吹っ飛んだ。
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かつてのアモレスやチャチャイの衝撃の一撃が脳裏に過ったが、サラテのそれは、やはり別物だった。ガードの上からでも大場を吹っ飛ばす威力に、大場の頭の中は真っ白になった。
”これがサラテの脅威か。これがサラテの真実か。俺はヤツに勝てるのか”
サラテは大場をロープに詰めると、殺気じみた自慢の左右のフックを、雨あられと大場の顔面に見舞う。流石の大場もこれには耐えきれなかった。自ら左膝をガクンとキャンバスに落とし、頭を垂れた。
”マサオ、何してるんだ。自ら倒れるなんてお前らしくないぞ。まだ試合は始まったばかりじゃないか、しっかりしろ”
大場は考えてた。”このままじゃ俺は殺される。15Rまで持つ筈がない。早い回で勝負に出ないと奴に殺される。これは生きるか死ぬかの殺し合いだ”
勢い余ったサラテは、膝を付いた大場の後頭部に一撃を加えた。
その瞬間、大場の狂気に火が着いた。レフェリーがサラテに注意を与えてる間、セコンドの桑田は、大場に指示を与えた。
”マー坊、このままじゃお前は死ぬぞ。狂気の炎でサラテの殺戮を燃やし尽くせ。それ以外に勝つ方法はない。そうプランXだ”
大場は笑みを浮かべた。”分ってるって、最初からこうなると思ってたんだ”
レフェリーが両者を促し、試合は再開する。
サラテは間髪入れずに、大場に襲いかかった。サラテ陣営はまるで勝ち誇ったかの様な狂乱ぶりだ。”それでこそ我がサラテ様だ。一気に片付けちまえ。ハ・レ・ル・ヤ”
化粧を直し、リングの最前列に戻ってきたサラテの愛人も、顔をクシャクシャにし、大声で何かを叫ぶ。まるで鬼の形相だ。
来日した時の美貌も神秘の碧い瞳も、ブロンドの優雅さも何処かに吹っ飛んでいた。そう、スラムの女は所詮はスラムの女なのだ。
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今度は、力任せのサラテの殺戮ブローが大場に襲いかかった。サラテは大場を仕留めに掛かる。流石に会場も、諦めのムードが漂い始めていた。終わりが刻々と近づいてるかの様だった。
しかし大場にも、サラテのパンチはしっかりと見えてた。サラテの殺戮が手に取る様に、ガードの隙間から目の前を舞う殺戮を、冷静に眺めていた。
まるで大場の狂気が、サラテの殺戮を打ち消すかの様な異様な光景に、会場はどよめいた。
サラテは攻撃に夢中になりすぎた。前屈みになったボディーがガラ空きになる。その瞬間、大場の目が光った。狙いすました大場の狂気の右が、サラテのレバーに炸裂する。
一瞬動きが止まったサラテに、左右の速射砲が唸る。1ダースほどのパンチをもろに受け、今度はサラテが自らキャンバスに沈んだ。
会場は、再び興奮の坩堝と化した。”大場!ヤツなんか殺しちまえ”
今度は、倒れたサラテにお返しとばかりに、追い打ちの右をサラテの側頭部にガツンと見舞う。頭蓋骨の軋む音が、会場の奥にまで聞こえる程の衝撃だった。
レフェリーはすかさす大場に減点1を与える。明らかに、サラテのセコンドが暴走するのを抑える為の緊急処置だった。
サラテの薄茶褐色の表情が青ざめた。セコンドも女も表情は引き攣ったままだ。
”これが真の大場の姿か。これがボクシングか。これは戦いではなく殺し合いか”
会場内にも、どよめきと殺気が最高潮に達した。
しかし大場に興奮はなかった。そう、異常なまでの興奮を、大場は冷静に狂気とそれを支えるエネルギーに変えてたのだ。
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”そうだマサオ、冷静になれ、落ち着いてサラテを仕留めるんだ。そうプランXだったよな”
桑田は自らを落ち着かせる。
大場はサラテに再び襲いかかった。3R終了のゴングが鳴ってるにも関わらず、夢中で殴りまくった。会場の興奮で、レフェリーにもゴングが聞こえないのだ。
堪らずサラテ陣営のセコンドが、リング内に押し入り、大場を突き飛ばした。
”ざけんな、これは殺し合いじゃないんだ。我が英雄サラテを殺す気か?こんな所では試合は出来ない。これは無効試合だ、これはボクシングじゃない。俺たちは今すぐメキシコへ帰る”
しかし、うずくまってるサラテが興奮するセコンドを制した。
”いやこれこそが俺がやりたかったボクシングさ。久しぶりにスラムの頃の殴り合いを思い出したよ。ゴングが聞こえなかったのはお互い様だ。大場に非はない、さあ試合を続けようぜ”
解説の沼田義昭は、放心状態にあった。
”こんなボクシング見た事ないですね。引退試合で全盛期前のデュランと戦った事がある。その時も殺されるかと思ったけど、このままじゃどっちかが死にますね”
大場陣営は至って冷静だった。桑田は自らを諭す様に呟いた。
”かなり荒っぽい試合になったが、全く想定内だ。プランXを用意してて良かったな、マー坊。タイムリミットは5Rだが、このままボディーにとどめを刺せば、奴は動けなくなる。万が一長期戦になっても、こっちには脚が残ってる。どっちみち俺達の勝ちさ”
大場は下を向きながらその言葉を聞いていた。そしてポツリと呟く。
”5Rまで持つかどうか。弾薬の半分は尽きたかな。とにかく次のラウンドでサラテの殺戮を消し去りますよ。後は神のみぞ知るです”
桑田は笑った。”マー坊、お前にしちゃ、やけに神妙だ。サラテが相当気に入った様だな。でも油断は禁物だぜ、あと2Rで全てが終わるんだ”
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サラテ陣営には、沈黙が支配した。堪らなくなり、サラテの方から口が開く。
”何お通夜のように沈みこんでんだ。まだ試合は始まったばかりじゃないか。少し油断しただけさ。お前らが落ち込んじゃ俺の立場はないぜ”
老トレーナーは一言呟く。
”どうもワシには、大場がこの世のものとは思えないんだ。こっちが攻め込む程に、ヤツは勢いを増す。今までそんなボクサーがいたか?”
サラテは笑った。
”ナニ弱気ホザイてんだ。奴が亡霊だというのか?確かにヤツの狂気は異常だ、しかし俺の殺戮だって脅威なハズさ。ただヤツには何かが乗り写ってる、得体の知れない何かがな”
老トレーナーはうつ向く。
”サラテよ、少しでも油断したら死ぬぞ。前にも忠告しただろ、奴はホンモノだって。万が一の時は無効試合にしてもいいんだぜ。俺たちの大事な宝物を、こんな所で壊されてたまるか”
サラテの顔が赤くなった。
”馬鹿言ってんじゃねーぞ。試合を止めたらそっちこそ命がないと思え。スラムの王は死にはしない、死ぬのは大場の方だ”
何だか早い回で決着つきそうですね。でも転んだサンの事だから、又々裏をついてくるんでしょうか。
あそれと、顔イラスト、よく特徴が出てると思います。勿論、転んだサンと実際に会ったことないんですが。こういう感じかなとは思ってました。
老トレーナーの”どうも大場がこの世のものとは思えないんだが”のコメントが、鍵となるんですが。ネタバレになるんで、これ以上は。
イラストに関しては、平ぺったい写真より、自分らしさがよく出てると思います。運転免許証もイラストにすればね。
人情的には大場が負けるシーンは見たくはないんですが。どちらが勝つにしても、ドラマチックで奇想天外な結末を期待したいです。
でも、この物語の主役は、大場がこの世のものか?否か?の中間にあると思うんです。そういった曖昧な虚構の部分を上手く描けたらなって思います。