昨日は、”負の要因”ブログのバックナンバーを読んで下さった方、有難うです。
さて、前回は、ジャックとセブリーヌが、夫のルーボーを殺害し、アメリカへ逃亡する計画を夢見るが、結局、ルーボー殺害は未遂に終わる。
一方、”怪力娘”のフロールが、”恋する”ジャックを寝取ったセブリーヌに復讐する為に、彼女とジャックが乗った列車を転覆させるが。その現場をはっきりとジャックに目撃され、追い詰められたフロールは列車に体当りし、自殺する。
ジャックにとって、魅惑な魅力を持つセブリーヌの存在以上に、この初心でメルヘンチックな空想を常に思い抱くフロールの存在こそが、この潔い投身自殺を生んだこの狂気こそが、ジャックの”獣気”を呼び覚ましたと、私は考えますな。
この時点で、ジャックは蒸気機関車というより、”獣気”機関車という名の暴走列車に変貌するというか。
さてと、あらすじ後半に入ります。
負傷したジャックは、ルーボー夫妻のクロワ・ド・モーフラの家で静養する。彼は、セブリーヌとカビューシュの前で、今回の列車事故が、自殺したフローラによるものだと自白する。
彼はファジーおばさんを毒殺したミザールをひたすら眺めてた。この無学で無能な小男は、僅か千フランの為だけに生きてるのだ。ジャックは、この何の価値もない粗暴な男に、自分の影を重ねてたのだ。嗚呼、俺も遺伝的にはこの男と同じなのか?
セブリーヌの周辺は変わりつつあった。同僚でもある車掌のアンリが、そして石切工のカビューシュが、彼女に恋するようになったし、夫のルーボーも寄りを戻そうと、彼女に近づくようになる。
しかし、彼女が愛したのはジャック一人だった。彼女の新生活の夢とクーボー殺害に関しては、ジャック以外に頼れる男はいなかったのだ。
でも殺害計画には慎重だった。彼を追い詰めない様に、傷つけない様に説得するしかなかった。ここにて、セブリーヌが少しずつ”魔性の女”に変貌する様子が覗えます。
ジャックもいつの間にか、彼女の全てを独り占めしたくなっていた。セブリーヌも持ち前の官能的な魔力を発揮し、彼の全てを支配しようとした。
彼は心の中で誓う。"ルーボーを殺せば、例の発作が治るかもしれない"故に、彼は彼女にルーボー殺害を強く約束する。お陰で、二人は気を失うほどに愛し合った。信頼は完璧なものに見えた。でも、信頼は完璧なほどに危いもんですな。信仰と同じです。
セブリーヌは、再び殺害のプランをジャックに打ち明けた。ジャックが明日の昼にこの家を離れ、夜に再び戻り、ルーボーを待ち伏せし、ナイフで殺害する。その後、遺体を線路上に置き、自殺に見せかけるという計画だ。
彼女は早速、夫に電報を書いた。"家を買いたいという人が現れたの、会いたいから明日の晩来て頂戴"
翌日、ジャックはカビューシュの見送りの元、ル・アーブル行きの列車に乗る。次駅のバランタンで降り、そこで宿を取り、アリバイを作った。夜が耽るとこっそり抜け出し、セブリーヌの家へ向かう。
セブリーヌは全裸に近い状態で彼を待っていた。興奮状態にあった彼女は、すぐさまジャックを求めた。全裸の女は、男に夫殺害の勇気を与える所か、凶暴な殺意を与えてしまう。
ジャックはナイフを取り上げ、恐怖に怯えきった彼女の喉元を突き刺した。”愛は死にまで分け入り、全てを破壊させた”のだ。実に素晴らしい表現ですな。これこそ、”美しき殺人”の理想形です。
セブリーヌは、おぞましい恐怖の表情のまま死に絶えた。ジャックは”猛烈な喜びと途方もない歓喜”に興奮し、”永遠の欲望の完全な充足感”を味わった。女を殺す事で、彼女を破壊させるまでに、完全に所有したのだ。もうこの描写は、イラストのタイトルにしてますが。暗記する位に覚えとく価値がありますね。ゾラ先生、恐るべし。だから、好きなんですよ。
一年前、グランモランの死体を見た時以来、情欲のように激昂した殺害衝動に煽られて以来、苦しみ抜いてきたこの耐え難い欲望を、ジャックは遂に果たしたのだ。
この一年前から、この不可避な運命は終局に向かってたのだ。これで、この二つの殺人(グランモラン殺害とセブリーヌ殺害)は、遂に結びついたのだ。
一方の殺人は、他方の殺人の必然的な結果なのだ。ジャックは少しの後悔もなかったが、愚かな事をしたと思った。
人は太古の生存競争の名残で、血と神経に突き動かされ、生きる必要を感じ、強者になる喜びを求める時、初めて人殺しをすると、自らを諭した。”生きるとは殺す事”ですか、いい言葉ですな。
しかし、欲望を情欲を満たした後には、倦怠感と驚きと苦々しい悲しみしか残ってなかった。その時、一つの白い人影を感じた。怪力娘のフロールの亡霊だった。彼女はセブリーヌへの恨みを晴らし、勝ち誇ったかのように見えた。彼女はジャックの情欲と狂気を利用し、目的を果たしたのだ。
ジャックはふと冷静になり、罪の美酒を味わいながらも恐怖に凍り付いた。ジャックは狂った様に全速力で逃げ出す。近くで徘徊してたカビューシュは、逃げていく男の影を見た。
不穏に思い家の中へ入ると、血に塗れたセブリーヌが横たわってた。彼が彼女を抱きしめた時、ルーボーとミザールが入ってきた。"裁判長の時と同じ手口だ"、小男のミザールは呟いた。
本当は、一気に最後まで行きたかったんですが。4000字以上になる為、後半を2つに分けます。悪しからずです。
でも、フロールが列車に正面から衝突死するシーンと、ジャックがセブリーヌを殺すシーンは、この作品のクライマックスでもあり、感動の中核をなしますね。何度読んでも、この2つシーンには、身体中が震えます。
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