若い頃はよく映画を観たもんだ。しかし、歳を取るにつれ、映画を見るのが億劫になった。そして今や、苦痛になった。
昨晩見た映画は、古き良き時代の英国の探偵モノを眺めてるようだった。
中盤までは、「Wの悲劇」を見てるようで、エンディングも同じ感じになるのかなと、少し冷めた視点で眺めていた。
主役はダニエル・クレイグ演じる探偵ブランと、アナ・デ・アルマス演じる看護師マルタ。見るからに渋くてしつこそうなブランと、それとは対称的に純朴で艶やかなマルタ。ウ~ン、これは悪くもないかな〜。
裕福な小説家ハーラン・スロンビーが85歳の誕生パーティーの翌朝に死んでるのを、ハーラン一家の家政婦フランが発見する。
警察はハーランの死因を自殺と認定するが、正体不明の者が私立探偵ブランを雇い、捜査を依頼する。
”容疑者は一族全員”という触れ込みだが、この時点で犯人はマルタだと簡単に推測できそうだ。というのも前半は「Wの悲劇」の丸写しに思えたから。
しかし、監督・脚本・制作を兼ねるライアン・ジョンソンは、そこまでバカではなかった(笑)。
因みに、この作品は批評家から大絶賛され、支持率は97%に達し、平均点は10点満点で8.34点。”濃密なサスペンスであり、昔ながらの殺人ミステリをより鮮烈に展開した作品だ”と、べた褒めでもある。
大金は一族をも腐らす
特に後半の展開は、推理小説が大好きな日本人を唸らせるに十分すぎる程だった。
老ハーランの莫大な遺産が故に、その家族とは異常なまでの緊張状態にある。遺産目的に家族が皆ダメになっていくのを、老作家は日頃から嘆いていた。
つまりハーランには、家族に遺産を相続する気持ちは毛頭ない。特に、孫のランサムとは遺産相続の事で、ハーランの誕生日に大喧嘩をしていた。
”お前なんかにはビタ一文やるつもりはない。相続は書き換えた。全ての遺産はマルタにやる”
それを聞いたランサムは、ハーランを殺し、マルタにその罪を背負わせ、”相続欠格”により彼女が相続できない様に計画する。
確かに、ランサムの手の込んだ殺害計画は見事過ぎたが、最後の最後でその陰謀を見抜いた探偵ブランもまた見事過ぎた。
実は、薬を間違えて注射したマルタだったが、ハーランは彼女を庇う為にアリバイ工作を伝授し、自ら自殺を遂げる。だが、罪の意識が中々拭えないマルタは、一族の前で全てを白状しようと決意する。
しかし、探偵は彼女に待ったをかける。実はブランを雇ったのはランサムだった。故にブランは、最初からマルタではなくランサムに疑惑の目を向けてたのだ。
ここから展開が大きく動き始めるが、偶然にもブランの疑問を晴らしたのは、マルタの純朴さだった。
彼女はプエルトリコの不法移民で、ハーランの家族は皆、相続を独り占めした形となったマルタに、疑惑の目を向けていた。
しかし、ランサムの殺害計画を知る一人の人物がいた。家政婦のフランで、死んだハーランの第一発見者でもある彼女は、ランサムが薬を入れ替える所を偶然にも遭遇していた。そして、脅迫状をランサムに送りつける。
ランサムは、逆にこれをチャンスと見て、この脅迫状をマルタに送り、彼女を追い詰める。ランサムはその後、口封じの為にフランを殺害。フランのメールで脅迫の主を知ったマルタは、瀕死の彼女を救おうとする。
結局、フランに全てを知られたと勘違いしたマルタは、相続が無効になり逮捕されるのを覚悟で、過去の全てを晒け出そうとするが、彼女の純朴さがこの難解な殺人事件の疑惑を晴らした形となる。
ここら辺の展開はややこしすぎる嫌いがあるが、推理好きには堪らんだろう。しかし、個人的にはもっとゆっくりと時間を流してほしかった。
最後に〜”9つのナイフ”
探偵ブランと不良息子のランサム、そして純朴だが意外に強かで賢いマルタの、三角関係にも似た絶妙な駆け引きは、実に見応えがある。
ただ、前半の一族のゴタゴタ感は、見てて少し辟易した。それに、9人の家族(9つのナイフ)も多過ぎた感がある。もう少し少ない登場人物でもよかった。
寧ろ、その方が推理を進めるのにズムーズだったろう。推理系サスペンスの映画では、”見通しの明るさ”も重要なポイントではある。
もう一つ、実を言うとマルタは薬を間違ってはいなかった。ランサムが入れ替え、ラベルを張り替えた筈の薬だったが、マルタはラベルを見ず、重さと薬液の粘りで判断した。悲しいかな彼女はラベルを見て、薬を間違えて注射したと思い込み、ハーランもそれを信じ、自殺に至った。
しかし、そこまで展開を複雑にする必要があったろうか?小説ならともかく、映画は読むのものではなく、観て楽しむものだ。
要は、シンプルな展開で観客を如何に惹きつけるかにある。僅か2時間のスパンで心を打つ作品に仕上げるには、難解さと複雑さは無用のような気もしないでもない。
しかし、それら2つの欠点を帳消しにしたダニエル・クレイグとアナ・デ・アルマスの実にマッチした演技は、観てて優雅にも思えた。事実2人は「007」(2021)で共演する。
それ以上に、ランサム演じるクリス・エバンスの腹黒い演出も見事にハマっていた。
邦題は「名探偵と刃の館の秘密」だが、”9つのナイフ”でも良かったと思う。「Knives Out」を”Nines Out”にかけ、”老ハーランに追い出された9人の一族”にしても良かったかな。
ともかく、探偵モノの王道を地で行くような映画だった事には間違いない。
こんな作品が出るから、やっぱり映画はやめられない。
こういうのでも物足りなく感じるんでしょうか。
ランサムという悪賢いアメリカ白人と
マルタという妖艶な中南米の女と
英国生まれのブラン探偵。
全員が容疑者という典型のアガサクリスティー系ですが、後半からの展開は実にアメリカ的です。
まるで一昔前の作品のように思えましたが、新作だったんですね。
個人的にはポアロ探偵が好きですが、ブラン探偵もかっこよかったです。
故に、色んな意味で楽しめた推理系サスペンスだったです。でも、ダニエルクレイグが探偵役で出てきた時は、007の香りがプンプンしてきました。
そういう意味では贅沢な映画ですね。
コメント有り難うです。