このマクドナルドのレイクロックの運命を大きく塗り変えた、問題の1961年のマクドナルドの買収劇だが。”わが豊穣の人材”を参考にして、もう一度詳しく振り返る事にします。
マクド兄弟との10年契約の7年目、この雁字搦めの全く自由のない契約を解消する為に、クロックはまず契約の更新を先ず要求した。
しかし、兄弟はそれを拒否した。ここにて、兄弟とクロックとの縁は完全に切れた。以降、クロックは堂々と契約違反を繰り返すようになるのだが。
最初の契約違反は、クロックの待望の第一号のデスプレーンズ店のオープンだった。それ以降、フランチャイズが増えるに連れ、同様の契約違反を犯していく。マクド兄弟もクロックからフランチャイザーの権利を剥奪するまではしなかったが、従来の態度を変える事もなかった。
このお互いの平行線は、やがてクロック側に有利に働く事になるのだが。クロック側にも時間はなかった。契約の更新拒否がこれ以上長引けば、マクドナルドの全フランチャイジーの権利を奪われる危険性もあった。
そこでクロック側は、粘り強く交渉を再開する。契約期間を99年に、それに加え、フランチャイジーの経営に手を加える権限を求めた。しかし、相手弁護士のフランク•コッターは全く引かない。”お前はただ、フランチャイズを売ってればいいんだ”と、クロックが兄弟の店を私物化するのを警戒した。
この契約の最大の欠点は、互いの不信感に基づいてる事だ。いくら契約といえども、そこに互いの信頼関係がなければ、ただの紙クズである。結果、クロック側は店舗を大改変しない範囲で手を加える妥協案を勝ち取った。しかし、兄弟の承認を得ずに、チェーン組織に手を加える事は許さなかった。
最も激しく対立したのは、契約期間。クロックの99年とコッターの20年で、互いに譲らない。しかし、マクド兄弟はこの時に限りコッターを退け、99年を認めた。
こうして難題は解決したが。互いの感情は深く傷つき、両者の関係は完全に冷え込んだ。つまり、契約更新とは信頼関係の再確認でもあるんですな。何でも我を通し過ぎると破滅に向かう典型です。
クロックが270万ドルという法外な買取り条件を呑んだのも、自由への”火急の要”があった。しかし、クロックを唯一怒らせたのは、兄弟が現金一括を要求した事にある。マクド兄弟も現金への”火急の要”があったのだ。
つまり、270万ドルなんて長期的に見れば、安い買い物なのだ。事実、1961年には既に250店舗を擁していた。毎年100店のペースで行けば、60年代末には1000店舗も夢ではなかった。店舗当りの売上を20万ドルと見込んでも、60年代の終りに、270万ドルを払う見込は十分にあったのだ。
一方、マクド兄弟は、チェーンの権利の維持による巨額の歩合収入よりも、税金が心配だった。死んだ時、全て税金で持っていかれ、残った妻に負担を掛けない様にと、今のチェーンの権利を270万ドルで処分し、25%の税金を払い、現金100万ドルずつを手にした方が得策だと兄弟は考えた。
つまり、安楽な老後を選択し、その為の当然な要求でもあった。場違いに思えた要求も兄弟の立場で考えると当然の要求でもあったのだ。
こうして、クロックはマクド兄弟の要求を呑むが。クロックは当然、マクド兄弟のサンバナディーノにある直営店も契約の中に含まれてると思ったのだ。しかし、兄弟は直属の従業員に譲ると言って、引き下がらない。クロックはブチ切れた。”君は確か、取引に含まれてると言った筈だぜ” ”いや、言った覚えはない”
しかし、この口論が後のクロックの”盗み”のヒントになるとは。勿論、その”盗み”とは、映画の最後にも登場する、永年の総収益の0.5%の事です。映画では1%だったかな。”大丈夫、心配するな、ロイヤリティ―は保証する”と弟ディックの耳元で囁くシーンですね。
クロックは、この時の苦い経験を生かし、口約束したこの”永年の総収益”を見事にホゴにしてしまうのですが。クロックはこうして、自身の苦い経験を次々と有利な方向に仕向けるんです。
クロックは、”取引中止だ”と大声で言い放つも、その気はサラサラなかった。屋号を変えるには膨大な金が要るし、いっその事、屋号を”マクドンガル”と改め、一から出直す事も考えたが。年齢の事を考えると、取引の続行を考えるしかなかった。
その上、再び大口の借り入れを探す必要が、それも急を要した。というのも、マクドナルドのフランチャイズの権利が日を追って高くなり、270万ドルの言い値も、いつ引き上げられるか分らなかったのだ。
クロックのマクドナルドの運命を決定付けたといっていい、1961年のこのトリックを、長々と説明した所で今回は終了です。ああ、疲れましたな。
ホントは、”その5”を更新&追記する事で済ませようと思ったんですが。フィードバックした方が、手も掛からないし、読む側も判りやすいかな。それに、ハリウッドでもよく使う手法ですしね。
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