象が転んだ

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「ラストディール」〜貴方の眼には、この”最後の賭け”がどう映ったか?

2020年12月14日 05時35分45秒 | 映画&ドラマ

 北欧サスペンスが大好きな私は、こういった絶妙で奇抜な駆け引きを描く作品には、つい感情移入してしまう。
 ハリウッドみたいな陳腐なド派手さはないが、実に渋く、北欧ミステリーとしては玄人好みに仕上がってる。
 先日紹介した「ロックダウン〜非常事態」とは異なり、高評価だがイマイチ平坦すぎた。しかし、貴方にはこの最後の賭けがどう映ったか?

 妻を亡くし、一人娘レアの家族も顧みず、美術商一筋に生きてきたオラヴィだが、ネット販売に押され、肝心の商売は全くパッとしない。
 そんなある日、老人はオークションハウスで一枚の肖像画に目を奪われる。その絵には署名が無く作者不明だったが、価値ある作品だと確信した彼はその絵を落札すべく、最後の賭けに挑む・・・


「LAST DEAL」

 そう、展開は実に単純だ。
 美術商として行き詰った老人が、最後の賭け「ラストディール」に打って出るという、シンプルなミステリー風ドラマである。
 老人はあるオークションで、謎の肖像画に魅了されたが、その肖像画にはサインがない。
 しかし老人は、人生最後の大仕事として、まだ誰もその価値に気が付いてないこの絵を落札し、最後の大勝負に全てを賭ける。
 誰の作品か判らない絵画の落札額は、何と1万ユーロ(約120万)まで跳ね上がる。
 とても払える金額ではない、それでも老人は引き下がらなかった。それもその筈、娘レアの不良息子オットーが孤軍奮闘し、肖像画の出処を掴んでいたのだ。
 しかし勝負とは、のめり込むほどに高く付く。

 実は、この肖像画こそが近代ロシア美術の巨匠であるイリヤ・レーピン作の「キリスト」だった。 
 そこで、老人は銀行に1万ユーロの融資を求めるが、店舗は賃貸で、不動産の担保もないが故に、あっさりと断られてしまう。
 同じ美術商の友人にも助けを求めるが、”仮に本物だとしても、サインのない肖像画なんて値が付きようがない”と相手にされない。

 ここでも行き詰まった老人は、遺品や店の絵の大半を売り、必死で財産をかき集めるが、4千ユーロほど足りない。そこで、レアが必死で貯めていたオットーの教育資金を黙って引き出す。
 何とか資金を調達した老人は、名画いや迷画「キリスト」を手に入れ、資産家でレーピンのコレクターであるアルバートに、12万ユーロ(1440万)で売る話がまとまりそうになる。
 そう、ラストディールは成功したかに思えたのだが・・・


レーピン作「キリスト」

 しかし、後に絵の価値を知ったオークションハウスの経営者が、アルバートに”贋作の疑いがある”と吹き込み、売却は破談。
 更に、オットーの貯金を使い込んだ事がレアにバレて、”父さんは何度、私と私の家族を苦しめば気が済むの?”とシングルマザーの彼女は泣き叫び、父オラヴィの気紛れに大きく落胆する。
 結局、レアに金を返す為に、オラヴィは店を1万ユーロで手放すが、目の前の大金に目が眩んだ老人に、弁解の余地はない。

 夢も希望も信用も失ったオラヴィだったが、”聖画にはサインがないケースが多々あり、画家は誇張よりも謙虚を優先する”との美術館の慰めも時既に遅く、ラストディールに敗れ去った老人は、呆気なく死に至る。
 因みに、レーピンが実際に描いた「キリスト」(1884年)には署名がある。

 レアが遺品の整理をしていた時、「キリスト」の絵の後ろに隠されてた遺言状に、”絵はオットーに譲る”事とレアに寄せる謝罪の思いが書かれていた。
 最後の最後で、老人と娘そして母と息子が共に和解に至るが、この映画はどんな高価な名画よりも家族愛というのが大切な事を上手く描いている。
 妻に先立たれ、家庭を顧みず、美術商一筋で生きて来た老人が、最後の賭け(ラストディール)を通じ、家族愛を取り戻す。

 勿論、現実にはこう上手くは行かない。
 サインのない絵画を120万で落札するなんて狂気に近いし、お金の工面の設定にもかなり無理がある。
 しかし、所詮は映画である。あり得ない事をドラマチックに映し出す事が映画の醍醐味でもある。
 それに、「ラストディール」というタイトルでも推測できるように、追い詰められた時の賭けとは、大体において失敗するものである。
 勿論、この映画でも失敗に終わったが、一人の老人の死によって家族愛を取り戻したとなれば、”最後の賭け”は成功したと見るべきだろう。


最後に〜「ONE LAST DEAL」

 邦題(副題)は「美術商と名前を亡くした肖像」だが、これは余計だ。
 英題の「ONE LAST DEAL」が全てを物語っていた。

 バルザックの「知られざる傑作」の様に、老画家の悲劇はよくある事だが、老画商の奇悲劇もミステリーとしては申し分ない。
 この作品は、奇抜なミステリーをタテ軸に、悲運な人間ドラマをヨコ軸に展開した。
 ケチを付けるつもりもないが、ミステリーだけで強引に引っ張っても良かったように思う。というのも、老人と不良孫息子のコンビが絶妙だったからだ。

 肖像画と同様に、家族愛というのも平坦過ぎて物足りないと思うのは、私だけだろうか? 
 でも、観てて損な映画ではない事は確かだろう。



4 コメント

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ONE LAST DEAL (paulkuroneko)
2020-12-14 08:32:26
直訳すれば、たった1つの最後の賭け。
一度はその賭けに勝ったはずでしたが、逆に娘との決裂を生み出したんですかね。
そして最終的にその賭けが裏目に出たことで、亡くなった父との和解を果たす。

何だかじんわりと来そうな人間ドラマですが、お涙頂戴でないドライな所がポイントなんでしょうか。
早速レンタルに行きます。
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象が転んだ様へ。 (りくすけ)
2020-12-14 11:13:53
お邪魔します。

映画はまだ観ていませんので詳細不明ですが、面白そうですね。近々鑑賞してみます。

>追い詰められた時の賭けとは、大体において失敗するもの
これ真理だと思います。僕が勤しんでいる競艇の場合ですが、心とカネに余裕がないと90%失敗します。しかしごく稀に逆転満塁ホームランも飛び出すから、懲りずに散財を重ねています。やがて人生を左右しかねないDEALに挑む時の予行演習にはなっているかもしれません。失敗するか成功するかは分かりませんが。

では、また。
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paulさん (象が転んだ)
2020-12-14 13:53:57
少しネタバレしすぎましたかね。
ドライな人間ドラマであり、心温まる愉快なミステリーでもあります。
個人の好みもありますから、一概に言えませんが、私にはとても興味深く映りました。
コメントどうもです。
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りくすけサンへ (象が転んだ)
2020-12-14 13:56:26
私も自由になるお金があったら、多少のギャンブルはやるべきだと思いますね。
ギャンブルで学ぶことは多いだろうし、それにギャンブルは人生そのものですもの。

競艇ですか、私は一度もやったことがありませんが、ぜひ機会があればやってみたいですね。
コメント有り難うです。
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