カフカの「変身」のように「孵化」~「幼虫」~「変態」をなぞりながら狂気をはらんだジャズ演奏家(テナーサックス・バスクラリネット)の「イモナベ」と呼ばれる音楽家の奇妙な人生。それに巻き込まれるメンバーの一人で畝木(ピアノ)。70年代のジャズメンの奇妙な「ザムザ」との関わりを9の短編にしている。
最初の語り手は、そのころ高校生だった私
「川辺のザムザ」と言う小説を書いていた。
偶然イモナベの「孵化」という、全裸のパフォーマンスを見たとき、書割の、後ろの窓の前に、椅子を置いて、観客に背中を見せて、ザムザのように窓から外を見る形でくねりながら演奏していた。その後ふっと消えてしまったが、偶然古書店で「変態コンサート」のビラを見る。多摩川河川敷に行って見ると、そこには窓に向かって置かれたたソファー座って窓に向かって演奏するイモナベがいた。
アフリカで発見されたザムザの名を持つ虫、アメリカで活躍した「窓辺のザムザ」と言うセッショングループ、リーダーこれも全裸で体中に世界の言語を彫っていたという話もある。
またザムザという名を持つダンサーは「変身」を振りつけて踊った。
そして彼は「虫樹」伝説について語った。
それはアフリカにあって、発見したゾロフ博士の話で彼はその後消息を絶ったが。
ーー<宇宙樹>あるいは<虫樹>とは地球上の虫たちが天空から降り来たれる<宇宙語>を聴き取るいわばアンテナである。虫たちは<虫樹>を通じて<宇宙語>を聴き、また<虫樹>を通して自分らの言葉を天空に響かせる。(略)<虫樹>は人跡未踏の地、滝水のせいで毎日虹のかかる深い谷の底にあるーーー
と言うがこれは確証のない伝説になっている。
消えたザンサー、ザムザはあちこちで目撃されたが、ついにテムズ川で溺死体で発見された。
この「王虫伝」は面白い。
大学生のアルバイト先での話。父は脳の老廃物を食べる生き物を注射している。世界的に流行して、それで能力が格段に上がるということで息子に勧めていたが、措置を受ける段になって突然死する、その治療のせいらしい。彼は父の死で生活に不自由はしなくなったが、中古車の洗車のアルバイトを続けている。そしてタイヤの基山に人間がびっしりと貼りついて溶けたタイヤの汁を吸っているのを見る。そこに一本の木があって、表皮には世界の言語が隙間なく彫ってあった。「スゲー、まさにゲージュツだ」寄せ書きに参加した。
この「虫樹譚」はなかでも出色の面白さ。
そして作家はまた昔のDVDを手にいれる。そこには傷つけられる畝木が写っていた。それはアルバム「Metamorphosisー変態」の儀式のように。
虚構であるのかないのか、興味深いストーリーは今回はジャズを絡めた奥泉風の奇妙な世界を形作っている。面白かった。