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「薔薇忌」 皆川博子 実業之日本社

2016-07-21 | 読書

久し振りの皆川博子さん、さんといっていいのか今年で85歳になられた今まで10指に余る賞を受けて、文化功労者にも選ばれた。
多くの作品は、幻想的と冠がつく、長編小説、切れのいい短編(それでもなお妖しい)ゴシックロマンといってもいい、海外を舞台にした、不思議な出来事、怪しい雰囲気を纏った作品群。
人の暗い部分を見る目を持っている人は、何かの気配に敏感だったり、時々常にない心もちに陥ったりする。
見たり聴いたり感じたりする本来の器官の働きに、敏感な特殊な能力を持っている人なのかもしれない。
皆川さんは、そういう異界の、異形のものだったり、現実何気ない気配を、幻のように書き出してみせてくれる。
幻想作家だと呼ばれたりするが、読み始めると日常を離れた感覚を纏った大舞台が待っていて、登場人物たちに導かれて不思議な体験をする。

脇腹で繋がったシャム双生児に生まれて、切り離された後世間体もあって日陰で育てられた。一人は名家を継ぎ一人は施設で医者の手伝いをして育つ、と言う生まれながら数奇な運命を予想させる、2人の子が世界を股にかけた雄大な物語「双頭のバビロン」

医学黎明期にイギリスの医学生たちが巻き込まれる殺人事件「開かせていただき光栄です」(本格ミステリ賞受賞)などいずれも大長編だったが、妖しく面白かった。


前置きはそこまでで今回の「薔薇忌」、短編なので物足りない感じもしたが、古典的な幻想小説だったり、自分の心の中に堕ちてしまう青年、何かに疲れて壊れてしまう人などそれぞれ面白かった。題名だけでも意味ありげでいい。



* 薔薇忌
劇団で雑務をしているえくぼの出来る後輩に気がついた。聴いてみると面白い話をする。
イタリアで、仕えていた公爵にゴマをするために本心(復讐心)を隠して仮面をかぶり続けたら仮面の下で腐ってしまった男がいたそうだ。
復讐の暗殺は成功したが彼は惨殺された。
腐っていく役っていいよね、
と言うので彼の書いた脚本を使うことにした。
刑罰には薔薇の花を降らせて窒息死させるっていいよね。
それ悪趣味だね。
そのうち姿が消えた、素封家の息子だったので人知れず家に帰り縊死していた。

* 禱鬼 
波乱にとんだ宇宙で、束の間生きるということが彼には魅惑的だった。
彼が惹かれたのは化粧をし衣装をつけ、別の人格にのっとられる、舞台の面白さだった。

* 紅地獄
夢はみるという。夢を聴くとも、夢を嗅ぐともいわない。非現実的であるけれどある状況の中を生きるのである。
濃密な抱かれる夢を見続け、その正体に出会う。

* 桔梗合戦
嫌ってはいなかった人だが暴行され妊娠した、彼女は白い衣装に白い桔梗を持って身重を隠して桔梗合戦を踊る。

* 化粧坂
子どもたちは山の上と下に住んでいて、一緒に遊ぶことが少なかった、転校生が来て皆に蜘蛛合戦を教えたので、盛んになった。山の上に住む僕は、彼が仲間に入れてくれた。
来いと言われこっそりついていくと、芝居小屋に入っていった。やがて化粧をして女踊りを見せた。出送りの女たちに騒がれる人気者だった。目配せするので化粧坂の下の崖で蜘蛛を捕まえていたた。夢中になっていると肩越しに息がかかるほど彼が近づいてきたので、驚いて跳ね飛ばしたら尖った石に頭をぶつけて死んでしまった。誰も行かない淋しい場所なので恐ろしくてそのまま帰った。旅役者の子供が山から堕ちて死んだそうだ。と一時噂が立ってそれっきりになった。

* 化鳥
楽屋に見知らぬ男が落ち着いた様子で座っていた。昔この部屋にいたといった思い出話をする。役者になりたかったが怪我をして衣装係になった。衣装は命を持っている。
私は見つけた男の子をプロディュースしようとしていた。少しずつ売れ出し男は家庭も持ったが、私は女形でないと演じられない瀧夜叉を演じさせたかった、瀧夜叉を宙摺りで客の上で舞わせるのだ。しかし、もう遅かった。中年太りのおやじになった彼の扮したのは、いくら衣粧をつけても既に化け物にしか見えなかった。

* 翡翠忌
90に近い老大女優は不意に引越しをした、若い者をあごで使って落ち着いたのは公園が見えるマンションだった。
彼女は若者と知り合っていた。公園の篠流れの小川には翡翠が飛ぶという。それを見ながらそばのベンチで2人で座って話をした。散歩もした。
2人は小さな劇団員で江見、須藤というの。
老女はそう話して時々公演に行くと、新劇の大御所が着てくれたと喜んでくれるの。
長年の相手役をしてきた山岸にそう話した。
山岸は言った。
また苛めたんだろうね、あんたは惚れると苛め抜いた。その……須藤か、その男のアラを、徹底的にあげつらったんだろう。
まるで見ていたようね。自殺したわ。
だれが 
あの子よ。

心配なんです。
先生は一人であの公園に出かけられるので心配でお供しようとしたらお叱りを受けました。東屋のベンチで、お一人で何かブツブツと……それが一度や二度ではないんです。

2人がいま出ている新宿の小さい劇場に千鶴を連れて行ったら迷妄から醒めるだろうか。
このごろ千鶴先生は見えませんね、とふたりは言った。

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