女子大で国文学を専攻しているなつみは、岡崎助教授に指導されるゼミで額田王の発表をする。
「あかねさす」は「むらさき」の枕詞か。むらさき草は白い花が咲く、違った解釈はないのかと質問され。あかねは言葉につまり、卒論は「枕詞」にする。
無事卒業したが二度入社試験で落ち、叔母の紹介で極小の下請けの書籍企画会社に入る。女ばかりの職場で揉まれ社会の厳しさを少し知る。
卒業前に友だちと明日香を旅して偶然発掘現場を見る。古代の遺跡をじかに見たことで衝撃を受ける、古代史でしか知らなかった明日香に生きた人々、中でも鸕野讃良皇女(後の持統天皇)に強く惹かれる。
職場が倒産し、再度明日香を訪ねる。発掘作業中の研究員にアルバイトを頼み込み、無理やりもぐりこんで働き始める。
このあたり、思いつめ実行に移す気力が、社会人で鍛えられ強さかもしれないし、なつみの熱中度の強さが運命を引き寄せる気がする。
持統天皇の系図を見、そして、天智、天武時代へと思いが深まる。流れとしてついに壬申の乱に行き着く。
研究員たちと吉野から美濃まで、大海人皇子軍の跡を歩き、書物の中の出来事を実体験する。その間に起きた争いや、王位継承をめぐる勢力の移り変わり、複雑な血縁関係で作られた皇室の歴史。そこで生き抜くための智恵。全てが遺跡の中から時を隔てて感じられる。彼女は祖父を殺され父母が死に、13歳で大海人皇子の后になる。姉の大田皇女も同じ大海人皇子の后になったが一足早く大津皇子を生む。8年後天智天皇が病み、可愛がっていた大友皇子が次の天皇になるという、早々に大海人皇子は紛争から逃げるように出家していたが、一族を連れ吉野宮に入り、壬申の内乱が起こることになった。鸕野讃良皇女も時に輿に乗り、急坂は歩いてともに吉野に入る。額田王と天智の子、十市皇女と大友皇子の間に子供がいた。大友が天皇になれば十市皇女が皇后、鸕野讃良皇女と女たちの戦いが、煌びやかな暮らしの底には渦巻いていた。
援軍も多く大海人皇子軍の勝利で天武天皇が誕生する。
研究員になり明日香の民宿におちついたなつみは、ふと知り合った泉という紳士に心を惹かれる。彼の誘いに乗りそうになるが、泉とは距離が離れているところに、粗野で見かけもよくない梶浦の思いがけず深い知識と無骨な優しさに親しみを感じたりもする。
こうして、古代、明日香の地に生きた人々の歴史と、なつみの若い女としての生き方、友人たちの選び取った人生にも触れながら。話が進んでいく。血のつながらない伯父と結婚した叔母のキャリアウーマンらしい都会的な生活も挟みながら、稲淵の古い民宿に移り8畳の部屋いっぱいに持統天皇ゆかりの地の地図を広げて、古代史の中に生きようとする、なつみの生き方に引き込まれた。
子らが書かれた頃を今読むと、情勢も言葉遣いも変化している。なつみを取り巻く男たちとの交わりも筋書きとしては少々型どおりだったが、これにかかずらっていると、肝心の飛鳥時代の出来事が上滑りになったかもしれない。まだ不明な点が多い古代史を、持統天皇のお足跡をたどるという形で描いた物語はおもしろかった。
手の届くところで育ち、中学時代に初めて読んだ「壬申の内乱」という岩波新書の地図を持って、何度も訪れてきた万葉ゆかりの土地や、陵の史跡、秋に稲淵の棚田を燃え立たせるヒガンバナ、石舞台など、なつみの自転車とともに走るのも楽しかった。その上、同じ熱中症にかかりやすい性格も大いに共感した。
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