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ひとりでカラカサさしてゆく   江國香織 新潮文庫

2025-02-26 | 読書
【中古】 ひとりでカラカサさしてゆく 新潮文庫/江國香織(著者)
大晦日にホテルで、三人の80代の男女が猟銃自殺した。きっぱり思いを残さず消えていった。もうここにはなんにもないの。
 
 
三人は同じ美術系ムック誌の編集で働いたことがあって、やめた後でも会っては酒を飲んで話をするのを楽しみにしてきた。長年の気の合う仲間だった。

篠田完爾 86歳 秋田在住 使った銃は彼のものだった。がん闘病中で先は長くなかった。二週間前に孫の葉月(デンマーク留学中)に死んでも墓はいらないと話していた。

宮下知佐子 82歳 遺書は「もうじゅうぶん生きました」劇作家の夫が死亡後都心のマンションに住む。
娘は8歳の息子と5歳の娘をおいて家を出る。兄妹は父方の祖母と叔父に育てられるが父は再婚して離婚また再再婚と落ち着かない。兄は病院勤務の獣医師になって妻がいる、妹の踏子は独身で守谷という恋人がいる。二人はもう十年はあっていない。

重森勉 80歳 出版社をやめた後職を転々として最後は日本語の教師をしていた。身寄りがなかった。
社員だった河合順一に警察から連絡が来た。後から重森からはがきが届いた。

亡くなった三人の過去はこういったところだが、元旦早々、この知らせが家族に届いて、今はお互い会うこともなかった人々が顔を合わせることになる。
距離が出来てしまった親子、姉弟、気にもかけず毎日を過ごしてきた日々が、こうして新たな形を見せ始める。

冒頭で死んでしまえばきれいに消えたつもりで、三人の合祀など後々のことにも片をつけて逝った三人の死に方は潔いが。
人生の最後の形は一応そこまで過去をきれいに流したつもりならそれもいいし、あとのものにとやかく言われることもないと思えばそれでもいい。
でもすべての生きた証を消し去れるものではない。血縁のつながりや思い出や愛情や憎しみは消えるものと消えないものがある。
消せるものと消せないものがある。それが三人につながる三家族の子や孫の話には深い感動を覚える。冷たいにしろ思いやりの深さが残るにせよ、突然選んだ死は多少のエゴかもしれない。

三人は思い残すことなく生きたらしいとしても、思いがけず知り合い、突然過去とつながりを持つことになった家族はそれぞれの想いが蘇って残る。形はさまざまで一概に決めつけられないけれど。

人生の終末はどうなれば正解かという問いには答えがない。どんな死を迎えるのか誰にも分らない。ただ終末は必ず来る。こういう結末を潔いとみるか恣意的だとみるか。
読み通すと物悲しい。人生で、親子であったことや家族であることの喜怒哀楽が、違ったそれぞれの形だとしても多くの喜びがちりばめられていたとしても、全て生きていく重みであるようで。

宮下の娘踏子は疎遠だった弟からの電話を受ける。妻が会いたいといっている。
今更、、、断ろうとしてふっと亡くなった祖母のことばを思い出す。
弟「断ってくれてもいいよ」
踏子「断らないことにする」

デンマークでの朝子はアンデルセンという作家について研究している。このあたりから朝子と作家の踏子のLINEの言葉が深くなる。葬儀場で知り合ったふたりが間を縮めていく。

終盤、残った人たちがそれぞれ今という現実を新たな目で見始めている。

そんな原点になった三人の死の前夜、死に向かっても何気ない日常が続いていくような過ごし方がいい。

入ってみれば複雑な家族を描いたこの小説に感動した。


余談ですが、長い間「天使の卵」を書いた村山由香さんと江國さんを混同していました。
年下の男性との恋愛がテーマの「東京タワー」が似た雰囲気だと思ったのもしれません。どちらも聞きかじりでしたが。
それに最近読んだ「キラキラヒカル」がどうも合わなかったのですが、これを読んで印象が変わりました。江國さんの最近の作品をメモしてもう少し読んでみたくなっています。

もう一つ題名になった「雨降りお月さん」の歌詞ですが。私も「カラカサないときゃ」の後「お馬に揺られて濡れていく」と、この花嫁は強いというか、そんな背景を知りたいところです。

つい「君君この傘、さしたまえ」「僕ならいいんだ母さんの大きな蛇の目に入ってく」という「あめあめふれふれ」の歌詞が並んで浮かんできます。もし素直な季節を過ぎた子供なら借りたでしょうか。

断って濡れていくかもしれない、寂しいかと問われたら宮下さんならさばさばしたと答えそうです。
 
 

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2 コメント

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Unknown (575)
2025-02-26 16:51:15
 この度は当575ブログへ
アクセスリアクションのみならず
フォローまでして下さり嬉しく
思っております。

今後ともどうぞよろしくお願い
いたします(^.^)(-.-)(__)
感謝、、(*´∀`)♪575
返信する
初めまして (m3353空耳)
2025-02-26 17:13:50
>575 さん
> 恐縮です。こちらこそいろいろ勉強させていただいています。
これからもよろしくおねがいいたします♪
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