僕らはみんな生きている♪

生きているから顔がある。花や葉っぱ、酒の肴と独り呑み、ぼっち飯料理、なんちゃって小説みたいなもの…

想い出のステップ

2014年02月22日 | SF小説ハートマン
いい曲だね、一杯おごるよ。
何気ない風を装って声をかけた。コーラスガールは微笑みで応える。

ドリンクは何にする?何か元気の出るやつ教えてよ。
元気が欲しいのならハッシーミルクがいいんじゃない、C-3オーガニックファームのよ。私の故郷なの。

ハッシーミルクなら何度か飲んだことがある。麻に似た植物ハッシーだけを食べるほ乳類クンクーの乳だ。
ハッシーの葉にはアルカロイドの一種が含まれていて、それを大量に食べるクンクーの乳にも当然含まれる。
アルカロイドは麻薬成分なので、禁止ではないがこの星では成人の飲み物に指定されている。

クンクーはその名の通りクンクーと鳴く大型の動物で、ハッシーの草原に群れを作っているのだが、
野生のものでも近寄って搾乳することが出きるくらいおとなしく愛らしい生き物だ。
肉も利用できるのでC-3惑星ではクンクーを人工的に繁殖させて行う酪農が盛んだ。


じゃ、それホットで。

C-3惑星人は体温が高い。通常40度位だ。今までステージで踊っていたのだから今は45度位あるかも知れない。
肌が触れ合っているわけではないのに全身から温かい赤外線が感じられる。
ホットのハッシーミルクと彼女のおかげで、バイソンの酔いがまろやかにハートマンを包み込む。


踊ってくれるかい?
コーラスガールはOKの微笑みを返す。


フロアーに降りて彼女の腰に手を回す。
体温に乗って胸元からハッシーの蒸れた匂いが湧き上がってくるが、不快ではなくむしろずっと嗅いでいたいような気持ちだ。
ダンスは彼女が慣れた感じでリードする。

ハートマンはもう揺れているだけで幸せな気分だった。ハッシーが効いてきたのか…

ほほえんでいるコーラスガール。深いターコイズブルーの瞳。
ハートマンの残り少ない稼働脳細胞に一瞬パルスが走る。

ただ揺れているだけだと思っていたこのダンス。これはいつかミリンダが教えてくれたもの。

特別なあなたにだけ教えてあげるのよ、と言って笑っていたあの時のステップだ。
あたしのステップ、忘れちゃだめよ。これは私が生まれるずっと前からある特別なステップなの。
何度も何度も繰り返したあの、ミリンダのステップだ。
ハートマンの手に、足に、唇にミリンダの体温がよみがえる。


君、誰から教えてもらったんだ。このステップ。これはミリンダの・・・






















コメント
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