横たわるコーラスガールの胸に鮮やかなFA(ファウンデーションアート)が浮き出ている。
FAはTATOOとは違い、外科的に皮膚を傷つけて描いたものではない。
DNAに組み込まれた色素が描く皮膚組織の変成だ。
浮き出たFAを見つめるハートマンの表情が変化していく。
不規則な模様に見えたそれはよく見るとデジタルな規則性を持っている。
何か意味のある情報をコード化したものだ。
すぐにバイオリストコンピューターに解析させてみる。
ほんの数秒で答えは出た。
それはGS-DSのサイバー攻撃を無効にする重要な鍵をもつ暗号だった。
遙か昔サイココスマーの研究に携わっていた科学者の一人が遠い将来の災いを予測し、研究課程に置いてDNAに密かに組み込んだフェイルセーフ機能だったのだ。
ハートマンのベースオフィスであるセクションにおいて早速対策グループが召集された。
そのメンバーには、北の海辺で人知れず孤独な生活を送る一人の老婆が含まれていた。
老婆についての詳細な情報は無いのだが、
彼女がまだ幼い頃、彼女の母は強力な「いたこ」として人々に崇(あが)められ恐れられていたことは知っておく必要があるだろう。